約束通り


 【今日から私と毎日キスして】


 その約束から翌日。俺は試合が近いため朝早く部活の朝練があるので、ユキの家に寄ることができなかった。本当はあの約束が本当なのかすぐに確かめたかったが……そんなこと、ユキは嫌がるだろうと思ったからだ。


 だから俺は信じることしかできない。ユキが約束を守ることを。


 「お疲れー宏樹。はいこれ」


 「お、サンキュー。いつもありがとな」


 そして朝練が終わって部室に戻る途中、マネージャでありクラスメイトである「林原紫(はやしばらゆかり)」が俺にタオルを渡してくれた。それを俺は受け取ってタオルで汗を拭く。


 校則のギリギリをせめてちょっと茶色に染めたポニーテールの髪に、アイドルのように可愛らしい顔立ち、そして大きい二つ。ゆかりはサッカー部のマネージャーとしてとても優秀で、なおかつ明るい性格もあって人気者だ。


 「いいってこと。だってあたしらの仲じゃん」


 「な! その言い方はやめてくれ……」


 「やーだよ。宏樹の反応ちょーおもろいし。……てかさー、なんか今日、宏樹集中してなかったね。ま、それでもミスとかはしてなかったけどさ。なんかあった?」


 「え、えっと……」


 紫にそのことを問われて、俺は言葉を詰まらせる。そう、実は全く集中できていなかった。なにせ昨日……色々あったから。ユキが部屋から出てきたこと、初めてのキスをしたこと、約束事……。特にキスは俺をドキドキとさせてしまい、昨日は寝れなかった。


 だけどそんなこと紫に言えるわけなく。


 「き、昨日リバプールがシティに負けたからショックだったんだよ」


 ごまかした。実際眠れなかったので深夜の試合は見たし、これもショックではあるが……内容なんて全く入ってない。


 「あーなるほどね。確かに宏樹の好きなチームだし負けるのは辛いけどさ。ま、元気だしなよ」


 「……ありがと。紫は優しいな」


 「え!? な、なに急に……。そ、そりゃあ宏樹はあたしにとって……な、なんでもないから! さっさと着替えて教室戻るよ!」


 何やら勝手に紫は焦ってそそくさと外にある女子トイレ(部室に女子更衣室が設置されてないため)に行って、ジャージから制服に着替えをしに行った。そして俺も部室で着替え始める。


 「お、宏樹。遅いぞ、俺はもう着替え終えてしまった」


 「いや浩一、お前練習終わってすぐ部室に戻ったからだろ。どうせお腹空いてなんか食べてたんだろ?」


 「バレてたか。ま、しゃーないだろ。練習した後腹減るし」


 部室の中にはクラスメイト兼友人兼チームメイトの「柳浩一(やなぎこういち)」が先に戻っていた。彼は非常に大食いであり、四六時中何かを食べていると言っても過言ではないぐらい食べている。ただ、サッカーをしているからかガタイはとてもいい。


 「ほんとよー食べるな。しかもそんな食べてんのに二年生ながらエースストライカーって。むしろ食べてるのが秘訣なのか?」


 「さあ? でもお前だってスタメン取れそうじゃん。CB(センターバック)任されるのは信頼されてる証だろうし。守備は頼んだぜ、宏樹」


 「おうよ、任せな。……つっても一人じゃどうにもならないのが守備だけど」


 「そんなこと言うなって。あの…………あ! てかもうすぐ朝礼の時間になるじゃん!」


 「げ!」


 だらだらと喋りながら着替えていたら、いつの間にか時間が迫っていて、部室にいるのも二人だけになっていた。急いで着替えを済まし、俺たちは部室を出て行く。


 「遅い宏樹! あ、浩一っていうおまけまでついてきた」


 すると制服姿に着替えて外で待っていた紫がプンプン二人に怒る。


 「フッざけんなてめえ! てかそんなら宏樹待たなきゃいいだろ」


 「い、いいじゃん別に! さ、行くよ宏樹」


 「う、うん」


 「おい待て俺を置いて行くな! あ、横腹いてえ……」


 俺たちは全速力で教室まで駆けていく。廊下は走るな、なんて注意を御構い無しに。その甲斐あってなんとか遅れることなく教室に着いたのだが……何やら教室の前が騒がしいことに気づく。


 「ん? なんかあったのか?」


 「え、あたし知らない。宏樹は何か知ってる?」


 「いや、俺も…………!」


 「ちょ、宏樹!?」


 最初は、何が起きたのかわからなかった俺だけど……見覚えのある姿を見たとき、すぐ事態に気付いた。そして……


 「ユキ!」


 「…………ひ、ヒロくん!」


 宏樹は野次馬をかき分けていき……その中にいる、ユキの元に駆けつけた。本当に約束通り、学校に来てくれたんだ。そう思うと俺は嬉しくて……無意識に笑ってしまう。


 一方ユキは目立ってしまったこともあってかとても恥ずかしそうにしていたが……俺を見ると、安堵したように少し落ち着いた表情を見せる。ただ、それでもまだまだ怯えている感じは拭えないが。


 「席、案内するよ。まだ知らないだろうし」


 「……あ、ありがとう……ヒロくん」


 そして俺はユキを席まで案内した。そこは窓側の一番端っこの席で、偶然にも俺が隣の席だった。そのことをユキは知ると、また少し安心した表情を見せる。


 「もうすぐ朝礼だから、後で話そう」


 「う、うん……」


 「……よかった。ユキが来てくれて……」


 「……約束……したから」


 そんなやりとりをしたのち、ちょうどチャイムが鳴って朝礼が始まる。


 ――――――――――――


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