第19話 世界に絶望した男

 私の生まれた時代では、一時は何十億といた人類はすっかりと鳴りを潜め、その数は今や数万。

 

 人類は、自らの選んだ行動の末に、絶滅への道を辿っている。


 誰も夢など持っていない。


 誰も未来を見ていない。


 まるで亡霊の様に、ただ地球の上を彷徨さまよい歩くだけ、生きたまま死んでしまった憐れな存在。


 この様な状態を、果たして生きていると呼べるであろうか?


 それでも彼らは本能に従い子供を産み、新たな絶望の犠牲者をつくり続ける。


 誰も、生まれて来なければ良かった等とは思いたくない。


 だけれど、こんな世界の上で、どうやったら心の底から生きていたいと思える様になれるというのか?


 私はこんな世界を終わらせたい。


 だから私は、まだ人類が隆盛りゅうせいを極めていた時代へ向かい、世界を変える事にしたのである。


 私は16歳。


 この時代のこの国の基準では、私は、高校一年生というものにカテゴライズされるらしい。


 やはり数千年前のこの時代の教育は、やっている事がまるで理に適っていない。


 これでは、貴重な時間をドブに捨てている様なものである。


 無意味な教育を受けてクリエイティブな人間には決してなる事はないであろう量産型の山の中で、しかし、他の者達とは一線を画す超人的な男がいた。


 皇月こうづき覇日はるひ


 マホメットやナポレオン、歴史に大きな一撃を与え、また、歴史に名を残した人間は数多あまたいれど、皇月覇日は間違いなくそれらの偉人に匹敵する。いや、それらをしのいでいると言っても過言ではないであろう。


 そうだ、こういう者達だけで人類が構成されたなら、きっとあんなにも救いの無い未来はやって来ない。


 肌や目の色で人をカテゴライズし、国などという実態のない境界で人を区切り、そして人間同士で殺しあう。


 それだけでは飽き足らずに、便利な暮らしがしたいからと、地球環境をめちゃくちゃに壊して、あらゆる種族を絶滅に追いやった。


 そして、挙句の果てに、自らも絶滅への道を辿っているのである。


 まったく憐れとしか言い様がない。


 まるで道化だ。


 誰も笑顔に出来ない道化に、果たして存在する意義などあるであろうか?


 そんなものはない。


 その様な者達が生きていていい道理など一つもない。そんなもの、あるはずないだろうが。


 だから私は、人類を間引まびく為に、この時代へやって来たのである。


 事は上手く運んでいる。


 まだこの小さな街の中での実験段階ではあるが、私の試算の通りに人が間引かれている。


 より良い未来を導く為に不要な命はこの世界には要らない。


 なぁ、君だってそう思うだろう?


 『よう、皇月』


 『あぁ、水谷みずたに。どうした、珍しく難しい顔なんかして?』


 『ちょっと便秘気味なんだよ』


 『そうか、ならこれを飲むと良い』


 そう言うと、皇月はカバンから一本のペットボトルを取り出して私に手渡した。


 『なんだよ、これ?』


 『スパークリング抹茶だ、うまいぞ』


 『なんか、如何いかにも不味そうな見た目だけどな』


 『まぁ、そう言わず、騙されたと思って飲んでみろよ。茶カテキンにはビフィズス菌を増やす効果があるんだ。便秘解消には最適だぞ。便の量も増えるし、善玉菌も増える、そして何より、カテキンはシンプルに健康に良いからな』


 皇月から受け取ったスパークリング抹茶のふたを開けて飲んでみると、意外や意外、想像以上にうまかった。


 『それじゃあ、僕は用事があるからもう行くよ。ほら、これも全部やるから、カテキンをいっぱいとって、早く便秘治せよ』


 そう言って、カバンの中から十数本のスパークリング抹茶を取り出して、それを私に渡すと、まだ午前中だというのに、皇月は教室を後にした。


 彼はスパークリング抹茶の開発者なのだろうか?


 まぁいい。


 とにかく、私の計画は上手くいっているのだ。


 私はこのまま突き進む。


 私の開発したウイルスを世界中に拡散させて、幸せな未来を必ずつくってみせる。


 そう、私は、幸せな世界をつくつ者。水谷みずたにかるま


 

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