第25話 動画をアップしよう

 ワーム舎の室内展示場に到着すると、普段いない時間にいる俺を不思議に思ってか寝ていたワーがずりずりっと藁から這い出てきた。どうやったらこのワームを上手に宣伝できるだろう。

 俺の2桁フォロワーのアカウントと異なり、ドラゴンパークの公式アカウントには2万人のフォロワーがついている。自分の投稿したものに瞬時にそれだけの人数に伝わるなんてちょっとドキドキだ。あわよくばバズりたい。

 色々考えてみて、やっぱりありのままの姿がいいだろうという結論に達し、スマホで室内を元気いっぱい歩き回るワーを撮影し、事務所に戻って事務職の人に投稿方法を教えてもらいアップした。

 もし反応がゼロだったら寂しいなと思っていたらすぐさま反応があった。さすが2万人フォロワー。必ず誰かが見ている。これは癖になりそうだなとワクワクしてコメント欄を開き、思わず固まってしまった。

『ドラ……ゴン……?』『虫じゃん』『何これキモい』

 動画についたコメントは辛辣なものが多かった。

「なんでだよ!」

 確かにワームは虫に似ている。俺も初見そう思った。けれどそれだけではない魅力がある。たとえば掃除の最中、トゲトゲ防具に覆われた足や腕に一生懸命巻き付こうとする姿はいじましい。展示場でのんびり日向ぼっこしている様子は気持ちよさそうで癒される。最初は近寄って欲しくないと思っていたけれど、毎日顔を合わせればだんだん愛着が湧くものだ。

 これが山川さんの言っていた、動画ではなかなか伝わらないということか。なかなか難しい。こうなればワームwith飼育員だ。

『こちらワームというドラゴンです。ワームと言っても虫ではなく由緒正しいイギリスのドラゴンで、かつて数多の騎士を締め殺したと言われてます。なので彼らと同じ空間に入るときは、こうしたトゲトゲの防具を身につける必要があります』

 何度か撮り直した解説付きのワーム動画をパート2としてすぐさまアップした。先ほどアップしたものよりクオリティは上がったはずだと確信をもって反応を待つ。

『どう見ても虫なんだよな』『トゲトゲださすぎて草』『蟲蟲蟲蟲蟲』『他のドラゴンまだー?』

 けれどついたコメントは似たり寄ったりであった。

「くっ!」

 これがマイナードラゴンの宿命か。虫ってよばれないようにするにはどうすればいい? アイデアはまるで思い浮かばない。

「分からねぇ!!」

 ワーム舎内で周りに人がいないのをいいことに叫んだ直後、戸をたたく音が聞こえ、反射的にびくっと体がはねた。扉をバッと見ればヒゲがいた。

「鍵閉め忘れているぞ。扉の二重施錠は絶対だ」

「すみません! 気をつけます! ところでどうしましたか、五十嵐さん?」

「お前が血相を変えてワーム舎に向かっていくのが見えてな。何かあったのか?」

「ええと、実はですね……」

 今までの経緯を話せば、彼はふむとヒゲをさすった。

「なら資料館に行ったらどうだ?」

「資料館?」

「パークの西の方にある建物だ。ドラゴンに関する貴重な資料や文献が置いてある。ワームがどんなドラゴンでどういった伝説を持っているのか自分で調べてみれば何かとっかかりが掴めるかもしれない。何か手伝えることがあったら遠慮なくな。みんなこの閉園期間中に何か出来ないと色々模索している。声をかければ協力してくれるだろう」

「ありがとうございます。ちょっと行ってみます!」


 資料館は鉄筋コンクリート造りの2階建ての建物だった。達筆な文字で龍資料館と木彫りされた看板は退色しており、古さを物語っている。なんとも近寄りがたい雰囲気だ。中をのぞくと薄暗いホールが見え、奥には所狭しと本棚と木の棚が並ぶ。2階も同じような作りだ。ドラゴン別に資料の整理がされており、ワーム関連のものはすぐに見つかった。その中から簡単に読めそうなものをいくつか手に取り近くにある机にどかっと座り読むことにした。

『LAMBTON WORM』。そう英語で書かれた表紙にはトゲトゲの甲冑を着た男が蛇のような怪物に巻き付かれながらも果敢に剣を振り下ろす瞬間をとらえた挿し絵が描かれていた。



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