スキル無双だけじゃ勇者になれない、と言いたいところですが、もう勇者なんてやりたくないですけど。

雨ノ宮雪柔

第0章 終わりのはじまり

 「勇者さま…もう…帰るつもりですか」


 星が散りばめた夜空の真下に、ひとりの女性は誰にも羨ましくてきれいな声で口から出しながら、勇者という人の腕と組んでついた。


 勇者と呼ばれた人は少し場を離れて、名残惜しい視線で空を見上げていた。

 先から、周りにたくさんの盛り上がる姿が見えてきた。歌ったり踊ったりして。中にはこの一年半からずっと一緒に戦う仲間もいた。

このような景色は少し前だったら誰にも想像したりしなかった。


 「あの…勇者さま」

 なかなか返事しないから、女性は仕方なくもう一度「勇者」のところに追いつきた。


 「…キレイだね」

 「えっ?」


 突然に出した言葉に疑問を抱えるが、一番に知りたいことはまだ答えが出てない。

 いや、本当はもう答えが知ってるはず、前々から感じたことだから、間違いわけがない。ただ自分はまだ認めたくないだけだ。


 「こんなにはっきり星が見える夜なんて、これは最後だな」

 いつもの夜だったら、このような物に気にしてないだけれど、なぜ今夜かぎり、空から目を離せない。


 「それは…やっぱり…帰るのですね、もとの世界に」

 「ああ…」

 ようやく自分との期待を外れた答えを聞いた瞬間、女性の顔は変わらず、微笑みを浮かべる。


 「どうしても…ですね」

 「……ああ」

 わずかだが、少し猶予が表したところを見た女性は、こころどこかで嬉しくなってきた。

 「それじゃ…残念ですが、仕方ありませんね」

 口ぶりの中に多少の寂しさを挟んだが、最後のところはなぜか喜んでいるように聞こえた。

 


  少し違和感を覚えたけれど、今の「勇者」はそれを気付いていない。なにしろ、先から同じことを考えているばかりだ。

 「勇者さま」

 女性はいつも通りのやさしい口ぶりで声をかけた。

 「あの…よかったら…せめてこれを連れ帰って」

 渡したのはこちらでよく見える一本のペンダント。

 「これは…」

 「みんなと思って、持ち帰ってください」


 「勇者」はしばらくその月の下に浴びられたキラキラのペンダントを見つめていた。


 本来ならこちらの起こったこと全部、記憶の中に封じたいけれど、現実はそうにはいけないみたいだ。起こったことはもう起こった。たとえ思い出したくないでも、もう消すわけにはいかない。

 そう思った「勇者」は仕方なく受け取った。

 「それじゃ、もう帰るから」

 「今…からですか…」

 突然なことで、頭が真っ白になった女性は今、この言葉しか出てこなかった。

 

 「ああ」

 「でも…せめて皆さんと言ったほうが……」

 「いいんだ、これで。みんなと会ったら、帰りにくいから」

 

 「勇者」は苦笑いを浮かべながら、最後に振り返って、まだ宴会を夢中してた仲間の姿を心に焼き付けた。


 「じゃあ、本当に…さようなら」


 言うが早いか、目の前には大きな黒穴があらわした。ぼやぼやで中の様子がなかなか見えない。

  

 しかし、「勇者」という呼ばれた人は躊躇もなく、その黒穴に踏み込んだ。

 女性はただ黙って黒穴を完全に消えるまで、見送りしかできなかった。


 「もう…帰っちゃったのね…あとはあの方に頼るしかないね」


 後ろにいた仲間の呼びかけを無視しながら、女性はひとりで呟いていた……

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