第4話 上役

「失礼します。」

扉を軽く叩いた後、入室する。これもまた、毎日のように繰り返される儀式のようなものだ。

「ああ。座ってくれ。」

初老の男は、部下をソファへと促した。

応接間のように立派な部屋は、この上役が整えたらしい。かつて東京の本社にいたという豊田は、外地版制作の立役者として、十二分に権力を握っている。


「お呼びだと聞いたのですが。」

ソファに軽く腰を預け、胸ポケットから手帳と万年筆を取り出す。

豊田は、急に突拍子もないことを吹っかけてくる傾向がある。対応するためには、しっかり書留めておかなければならない。


「相変わらず勤勉なものだ。」

感心するよ。ゆるく笑いながらそう言ってみせる。

余裕と自信に満ちた男の風格だ。

私が上役のことを恨めないのも、この男に魅せられていたからかもしれない。


「今日は私的な話ではなくてね。君に仕事の話を持ってきた。」

そう言って、豊田は口元に弧を描いた。

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