第4話 王国

  山賊を撃退した後は特に問題も無く王都に到着した。

 王都オムニアでは騎士達が多く見受けられる。

 魔族の襲撃を恐れているのだろう。

 

 勇者一人、侵入でもされれば王の命、国家が危機にさらされる。

 街を車でゆっくり走らせる中こんな会話がそこら中で聞こえた。

 

 「聞いたか? ついに魔族共と本格的にやり合うんじゃないかって話…」

 「あれだろ? 王国や教国、皇国が連合を組むって話だろ?」

 「ああ、それだ。

 そのせいで、魔族共も手を組み始めたらしい。

 分かるだろ?ついに人魔世界大戦が起こる…」

 「やめてくれ!そんな話。

 ただでさえこの戦争で多くの仲間が血を流してるってのに」

 

 そんな話をしているしかし、本当にそんな事が起こるのかは疑問だ。

 人の国は3国だけでは無い。

 他にもこの大陸 ソレイユには他にも砂国 亜人が暮らす中つ国 そしてその大陸、殆どの領土を占めるのが帝国が存在する。

 ちなみに亜人はドワーフ、小人族、妖精、獣人、エルフ、天使族の事を指す。

 

 もし魔族同盟とこの3国同盟が衝突すれば帝国が黙ってはいないだろう。

 勝ったほうを圧倒的、武力と数で潰しに来る事は間違いない。

 今現在はぎりぎりの所で全ての国が均衡を保っているのが現状なのだ。

 この3国同盟も魔族同盟もこの戦争を終わらせるための物と考えられる。

 

 帝国もこちらが潰し会わなければ同盟を組まれる事を恐れて手は出して来ないはずだ。

 魔族も一つでは無い。

 確認されているだけでも吸血鬼族 巨人族 魔人族 ダークエルフ そして恐れるべきは悪魔族と竜族。

 遥か太古よりこの大地に住まい支配してきた者達。

 まだ確認されていないだけで他にもいる可能性も否定出来ない。

 あまり手を出さない方が得策だろう。

 と言うのが人間側の共通認識。

 もっとも、今回の戦いのように向こうから来られれば反撃するしか無いのだが。

 

 …

 

 王城につくと多くの研究者と思われる自分と同じ白衣を着た者達が集まっていた。

 どうやら、あの、脅しの紙は俺だけでは無く他の研究者達にも回っていたらしい。

 

 「ルークさんじゃないですか…。

 相変わらず異世界の研究してるんです…?」

 

 車を止めて兵士達にこの荷車の荷物を持っていってくれと頼んでいると聞き覚えのある声がかけられた。

 

 目を上げ、そちらを見ると一人の男が立っていた。

 名をクラウン。

 一緒に魔術を学んだ仲だが彼にはどこか気を許せない所がある。

 なので俺は軽く答える。

 

 「まあね」

 「そうですか…。

 以前もお誘いしたのですが今度お食事でもいかがです?

 最近はわたくし、この世界の理を研究しておりまして。

 ルークさんが研究なさっている異世界の話とわたくしへのアドバイスなどを聞きたいなと…」

 「悪いけど、今は忙しくてね」

 

 笑顔で聞くクラウンに対し冷たくそう言いその場を離れた。

 世界の理には確かに興味はあるが、もう寄り道をする暇はないのだ。

 あの約束…もう十数年も待たせてしまっているから。

 

 その後も同じ魔術学校の研究者と遭遇した。

 しかし、俺は無視する。

 時間の無駄だ。

 そうして俺の去った後で彼らは悪口かを話し合う。

 

 「ルーク、今どき異世界研究なんて必要とされてないぜ!」

 「たく…行っちまいやがった」

 「ほっとけ、あいつはいつもあんな感じさ。

 ほんと狂ってるよ、ずっとあの異世界に取り憑かれてんのさ」

 

 「ほんとだよなぁ。

 あいつがその気になれば魔術アーマーだろうが、今開発中の自立魔術兵器なんかの研究もはかどるだろうになぁ…」

 「才能の無駄遣いってやつだよ…

 今までの歴史の中で一番若くして博士賞を取り。

 あの王院魔術大学を最年少で卒業…化物だよ…あの門と結婚しなけりゃな」

 

 その場に笑いが起こりそこにいた人達はルークを笑った。

  

 …


 今、俺は他の研究者達とは違い王の間に通されていた。

 おそらく一番期待が厚かったのだろう。

 

 「異世界研究者のルークよ。

 私にどの様な用かな?」


 全く良く言うよ。

 称号を剥奪して、研究費の援助を止めると言ってきたくせに…。

 おまけに、この場には軍のお偉いさんまでいるときた。

 まあいいか…。

 研究発表とでも思えばいい。

 

 「ええ、今回、王には見てもらいたい研究がございまして」

 

 そう言うと同時に騎士達が荷台を引き荷物を俺の横に置く。

 

 No.73 マジックジャマー

 

 説明を続け布を取って見せる。

 それは球体の様な見た目をした機械だ。

 

 「何それ!!ー!」

 

 これに食いついたのは王でもなく騎士でもなく小さな子供だった。

 きっとソフィア様だろう。

 この国の姫だ。

 

 少女は荷車から下ろされた機械を走って回りジロジロと見て回っていた。

 

 「ソフィア…こっちに来なさい」

 

 王様がそう言うが子供は言う事を聞かない。

 仕方が無いので姫にお付きの女性が慌てて駆け寄り無理に連れて行った。

 

 「やだ!! もっと見たい!」

 

 さぞ甘やかして育てたと見える。

 まあ、それは置いといてだ。

 

 「さて…これは、魔力を遮断する機械でして。

 このスイッチを押せば、この機械の範囲にいる者は誰でも魔力を使えなくなります」

 

 これは魔法の発動を防ぐ機械だ。

 本来魔法を使うには魔素が必要。

 魔素とはこの世界に散らばっているエネルギーみたいな物。

 魔力が濃ければそれは見える程にもなる。

 ただしそういった場所に行けば魔素に犯され、魔物となるか耐えきれず死ぬかのどちらかだ。

 人のまま耐えれたとしても普段の生活には戻れぬ影響が出る恐れがある。

 それが魔素だが、それを利用するのが魔法だ。

 魔法は魔術術式を組む事で発動可能。

 それも高度で繊細な術式で。

 だから少しでもその魔素に変化が起これば。

 

 「試しに、魔法を使ってみて下さい」

 

 そう言われ宮廷魔術師が王に指名された。

 その魔術師は本当に王の間でやっても大丈夫か?と王を見て確認する。

 すると王が頷いたので呪文を唱えた。

 

 「フレイム『炎よ』」

 

 しかし…何も起こらなかった。

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