14話




 ────「試験を終了します。ペンを置き、問題用紙と回答用紙を重ねてその場で静かに待機してください」


 その声でボクは眠りから覚めた。

 試験が終わったようだ。

 ボクは体を起こし、指示通り問題用紙と回答用紙を重ねて待つ。

 しばらく待っていると、複数の職員が回収に来た。

 至れり尽くせりな学園だね!

 ……普通の学校がどうなのかは知らないけど。


 さて、筆記試験も終わったし、龍真クンと合流するかぁ。


 実はこのテスト、数時間ぶっ続けでやるものだから、周りの人はものすごく脱力している。

 いやぁ、みんなたかが数時間でこんなことになるなんて、軟弱だなぁ。

 まあ、それが普通なのかな?

 ボクには分からないや。


 あ、でもボクが一番辛かったことと言えば、やっぱりアソコにいた時に、四日ぶっ続けでテストやらされたことかなぁ。

 眠れなくなるクスリを体に打たれて、休むのは勿論、間違えることも許されなかったんだもんなぁ。

 うん。そう考えるとよくここまで生きて来れたよね、ボク。


 さて、片付けも済んだし、行きますかぁ。





「あああぁぁつかれたぁぁああ……テストめっちゃむずかったし……全然解けなかった……」

「? そうか? 俺はあんまり疲れてないけど。それにテストの難易度もそこまで高いものじゃなかったと思うけどな」

「えー、タフすぎんだろお前。オレ怖くなってきたわ……」


 やっぱり龍真クンは疲れてないよねぇ。

 ふふふ、ここまで予想通りすぎると笑えてきちゃうね。

 あ、でもテストの難易度については同意だね。

 簡単すぎるよ、あれは。


「まあとにかく、テストはこれで終わりだし、クラス同じだといいな!」

「そうだな」


 寮で龍真クンと別れる。

 さて、今日は昨日アゲハが来たからやれなかった作業をやるぞ〜!





ボクは寮の自室に入ると、まずは服を着替える。


 灰色のシャツ、白黒パーカーと黒のズボン、あとは柔軟性の高い靴を持ち、窓際まで行く。


「さて、始めますかぁ」


 窓を開け、靴を履く。

 ちょうど涼しい温度の風が吹いてきた。


「うん、いい気温だね」


 そしてボクはこの高層マンションの十階から飛び降りた。


 頬をかすめる風が気持ちいい。

 自然と頬が緩んだ。


 そうする間に地面が近づいてきたので、着地の体制をとる。


「よっと」


 音もなく着地し、そのまま近くの建物の上に飛び乗る。


 事前に監視カメラの位置は調査済みだ。

 ボクは監視カメラのある場所を避けながら高速で建物の上を駆けていった。







「うん、意外とヨユーだったね。たった二日離れただけなのに、なんだかこの場所が懐かしく感じるよ」


 ボクが今いるのは、いつもアキちゃんとボクとアゲハが活動拠点にしている倉庫。

 廃れた路地の地味な場所にある上に、近くに監視カメラもないので、なんとも都合の良い建物だ。


「異能都市随一の優秀な学園だって言うし、青霧のヒトたちがいっぱいいるから脱出にはもっと手間取るかと思ってたのに、拍子抜けだなぁ」


 ボクはそう独り言ちりながら、アキちゃんの私物の大量のパソコンが置いてあるテーブルから褐色肌の鬼のマスクを取った。

 白い髭の下に垣間見える口の口角は上がっており、暗闇でこれを見たら少し怖いだろう。


「そうそう。これを取りたかったんだよねー。相変わらず不気味なマスクだなぁ」


 ボクは言いながらそれをつける。

 目元は隠れないような仕様になっているので視界は問題ない。


「さてと、出発だ!」


 倉庫の大きな窓から飛び降りる。


「この間のオネーサンはボクを殺すって言ってたからなにか情報を持ってるのかと思ってたけど……ただの一般人だったみたいだし、今日こそなにか手がかり見つけないとなぁ」



 情報が揃った暁には……



「ふふっ。まあ、どちらにせよボクの姿をハッキリ見ちゃったのなら処分しないとだけどね!」


 独り言を零しながらも路地裏を高速で走って進む。


「あ、ここか」


 高層ビルの前で止まり、建物の凸部分に足をかけてどんどん上へと登っていく。


 目的の階まで来て、ボクは止まった。

 そして素早く窓をピッキングで開けて静かに中に入る。


(えーっと……入って突き当たりを右に曲がってすぐの扉ね。今日こそなにか有益な情報が手に入れば良いけどなぁ)


 声を出すと見つかってしまうので、心の中で独り言を漏らす。


(……ここで間違いなさそうだ。入りますかぁ)


 音を一切たてずに扉を開けて室内へ入る。

 ちなみにここまでの防犯カメラの位置の情報は手に入れて避けているので、ボクの姿は一度も写っていないはずだ。


 扉の奥では男が一人、パソコンに向かって作業をしていた。

 集中しているのとボクが静かにしているのも相まって、ボクには気づいていないようだ。

 ボクは扉が完全に閉まったのを確認してから言葉を発した。


「お邪魔しま〜す!」




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