SCENE:Ⅱ-ⅰ 〖正体と授業初日〗

6話



 男子寮のとある一室に、彼ら三人は集っていた。


 一人は白髪に赤いメッシュが一筋入った赤と黒のオッドアイの少年。

 一人は青髪青目の青年。

 そしてもう一人は────



「お久しぶりですぅ、弥生サマ! んふふっ」



 紫の髪に青と紫のオッドアイを持つ少女だった。


 彼女の紫の髪は俗にお姫様カットと呼ばれる切り方で、腰あたりまで伸びているそれは緩く下の方で一つに纏められている。


「アゲハ、ここにいるってことは去年頼んだ情報収集は粗方終わってるって意味で合ってる?」


 ボクが自分の荷物が入ったダンボールの中からジェンガを出しながら言う。

 アゲハと呼ばれた少女はその言葉ににこりと笑う。


「はいっ!万事順調でございますぅ! アゲハは弥生サマに頼まれた事ならば例え火の中水の中、どこへでも行く所存ですよぉ〜」

「アゲハ、そこまでしなくても良いんだよ……」

「御遠慮なさらず! いつでもアゲハは準備万端ですからねぇ!」


 ヘラりと一緒にジェンガの準備をしている彼女もこう見えて名の馳せた犯罪者である。


 事実、鳳─あげは─と言うコードネームの犯罪者はボクを除けば有名人トップランカーだ。

 だからか擬態がとても上手く、どうやって消すのかは分からないが、誰も目の下の濃いクマがある今のアゲハと昼の健康そうできつい印象の美女が同一人物だとは思わないだろう。


「にしてもなぜアゲハがここにいるのかが俺は気になるんだが」


 そこで今まで殆ど空気だったアキちゃんが問うた。

 アゲハはノンノン、と言うふうに人差し指振って答える。


「弥生サマのいる所に私アリですよぉ、アキ。私はただ弥生サマがこの学校に来る気がしたので情報収集も兼ねて入学してきたのですぅ」

「なんか腹立つなこいつ。てか勘って……ああそうか。それなら納得だ」


 アゲハが無事に一本目を抜く。


 “勘”でアキちゃんが納得したのはそれは彼女の能力にあった。



[絶対勘知]



 それが彼女の能力の一つ。

 効果は勘が絶対に当たるというものだ。


「本当ならあまり使いたくないんですけどねぇ。

何せ、私の意思関係なく自動で発動してしまうものですからぁ。ま、ここで弥生サマと会えたのはこの能力の恩恵なのですが……」


 続いてボクが抜く。


「まあそこは諦めるしかないよね。

別段悪いことがある訳でもないし、今喚いても何にもならないし」

「かく言うお前は使ってないよな、能力」


 アキちゃんが苦笑しながら痛いところをついてきた。


「違う、違うよアキちゃん。分かってないなぁ。

ボクはね、能力が無くとも最強でありたいんだよ。

あいつらに思い知らせてやるんだ。

お前たちが必死こいて植え付けた能力なんてボクには不要だ、ってね」


 ボクの目に宿るのは確かな憎悪。

 が、それも一瞬で消え失せ、目はいつもの無に染まった。


「さて、明日は記念すべきボクの人生初の授業だからね。早く決着をつけて寝よう」

「だな」

「ですねぇ」


 そこからはほぼ文字通り閃光の如く、な勝負だった。

 手が見えなくなったと思えばジェンガの棒が一本消え、最上部に乗せられている。

 その勝負に見えはするがついていける者などこの世界には殆ど存在しないだろう。


「ちょっ! 弥生お前そこ行くか? かなりジリ貧……って成功させやがったこいつ!」

「んふふ〜。分かってませんねぇ、アキは。そのスリルが良いんです、よっ」

「はあ!? 一列全部無くなるのってアリなのかよ?!」

「倒れなければなんでもアリだよ、アキちゃん。よっと!」

「お前もかよ弥生!!」


 ツッコミを入れながらも器用に抜き取っていくアキちゃん。一番凄いかも。


 その後はただただ消えては積まれていく一方だった。


「(これって終わらないんじゃ……?)」


 アキちゃんがそう考え始めた時、それは起こった。




どがぁぁぁぁんっ!!




 一気に滝のようにジェンガが崩れ落ちる。



「あちゃー。負けちゃいましたぁ」



 額に手を当てたのはアゲハ。


「やったぁぁ! 今日はボクの勝ちー! これでジェンガはアゲハ3245勝、ボク3246勝だね!」

「むむぅ……でもトランプは弥生サマが3126勝、私が3127勝ですよぉ!」

「良いもん! 次はボクが勝つしぃ!」


「…………今の音は絶対ジェンガの崩れるような音じゃなかった」


 ボクとアゲハが言い争っている中、アキちゃんが一人戦々恐々としていた事は誰も知らない。


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