第8話

ジリリリ・・・

 何時も通り目覚ましにおこされる。今日は冷たい雨が霧をなす生憎の空模様。早くから走るバイクの明かりがぼんやり映る様を見ながら、モーニングの準備を進める。通りを掃いているとバーテンさんが出かけるのが見える。


「おはようございます。」


 少し驚いたような表情で反応する。

「おはようございます。ずいぶんと早いですな。」

「ええ、モーニングの準備をしておりまして。」

「なるほど。」

「ところで、バーテンさんはどちらかお出かけですか?」

「ええ少し、隊員時代の友人に誘われましてね。これから出かけるところです。」

「それはそれは。ところで、朝食はお済みですか?」

「いや、まだですが。」

「もし、お時間があるようでしたら、うちで召し上がっていっては如何でしょう?」


 バーテンさんの腹が鳴る。気まずい表情をしつつ、こちらの提案に賛同のようだ。少し早いが喫茶居酒屋朝の部開始だ。


「なにになさいましょうか?」

「トーストと目玉焼きにコーヒーを。」

「目玉焼きは半熟になさいますか?」

「そうですね。お願いします。」


チリンチリン・・・

「おはようございます。」

「いらっしゃいませ。甘蔵さんおはようございます。今日もいつもので?」

「・・・今日はチーズのホットサンドで。」

 甘蔵さんはバーテンさんを一瞥し、逡巡しつついつもと違うメニューを注文する。人目を気にしたか?


チリン!

「いらっしゃいませ。」

「おはようございます!また来ました!」

「こちらには慣れましたか?」

「お陰様で。前と同じのをください。」


 トーストを焼いていく。目玉焼きとポテトサラダを盛り付けバーテンさんに出す。続いて小倉あんを添えたトーストを青年に。最後にホットサンドを甘蔵さんに出していく。


「すみません。メープルシロップももらえますか?」

「甘蔵さん・・・相変わらずですね。」

 青年が思わず突っ込む。

「いやいや、だってさ、甘くないんだよ?」


「マスター。ケチャップはあるかい?」

「え・・・?目玉焼きにケチャップ・・・ですと?」

 青年が信じられない物を見るような目でバーテンさんに突っ込みをいれる。


「お、青年、なんだ?オムレツにもケチャップかけるだろ?つまり卵料理にはケチャップが最高なんだぞ?」

「なるほ・・・いやいや!おかしいですって!だって卵焼きにも親子丼にも天津飯にもケチャップかけないじゃないですか!」

 思わず相づちを打ちかけた青年であったが、妥当な反論をする。


「洋食じゃないから当然だ。まぁだまされてと思ってケチャップで食べてみれば新しい扉が開かれるかもしれんぞ?」

 まだ反論したそうな青年であったが、無駄だと思ったのか煮え切らない表情で朝食を食べ始める。


 今朝も賑やかに一日が始まる。気がつけば外は霧が晴れ、快晴の空に街が動き出す。そう言えば、今朝は駄洒落が出なかったな。甘蔵さんも存在感薄くなってたし。バーテンさんと青年はなかなか良い漫才コンビになりそうだなど、たわいもないことを思いつつ通りを眺める。

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