第10話:不本意・アマーリエ視点

 不本意です、不本意です、不本意です、納得できません。

 私は必死で抵抗しました。

 男尊女卑の考え方の強いこの世界で、女王の立場は非常に弱いのです。

 それは元々エドワーディス王家が持っていた力に、エヴァンズ公爵家の力が加わったとしてもです。


 まずロバート王太子の件に巻き込まれて潰された貴族家が、王太女に選ばれた私に八つ当たりする事が予測できますから、多くの問題が起こるはずです。

 王位を得られなかった他の公爵家や王族も邪魔するはずです。

 男尊女卑の考えが強い貴族も私の言う事など無視するでしょう。

 そんな状態になるのが分かっていて、王太女になりたい女などいません。


 ですがそんな問題も、兄上が王位を継がれるのなら解消されます。

 兄上は王弟殿下ほどではありませんが武名を轟かせておられます。

 若くして第二騎士団長の地位に就かれています。

 兄上なら処分された王太子の側近の名誉を少し回復すれば反感を抑えられます。

 他の公爵家や王族も文句は言わないでしょう。

 当然男尊女卑の考えが強い貴族も最初から反対しません。

 そんな事は国王陛下も王妃殿下も分かっているはずなのに、何故私なのですか。


「さて、みなに集まってもらったのは他でもない。

 次期国王の地位についての事だ。

 ロバートはあのような不始末をしでかしたので王族の地位を剥奪した。

 ただあれを殺すのは忍びないので修道院に送って反省させる。

 そこで問題となるのは余に万が一の事があった時だ。

 王位を争って王族が戦い、他国に付け入るスキを与えるわけにはいかん。

 一番いいのは王弟のアラステアを王太弟にする事なのだが、断りおった。

 武に生きてきたので政治はできないと言いおった」


 本当に王弟殿下は無責任です。

 政治ができなくても武に生きてもいいではありませんか。

 政治は信頼できる家臣に任せればいいだけです。

 普通の国王が政治を家臣に丸投げしたら大問題です。

 ですが王弟殿下が後ろから見ていると分かっていたら、誰も悪事など企みません。

 誰だって死にたくはないのです。

 ロバート王太子のような目に遭いたい者など誰一人いません。


「そこで余は色々考えた。

 王位継承権を持つ王族には優秀な男子が多い。

 血統と長幼の序を優先してロバートを選んだが、それが間違いだったのは今回の件で皆もよく分かっただろう。

 何よりも問題なのは、アラステアと上手くやって行けるかどうかなのだ。

 余もあれの正義感にはほとほと困っておる。

 どの王位継承権者を選んでも、その者が些細な事と思った事が逆鱗に触れかねん。

 皆もあれを怒らせるのは嫌であろう」


 え、そう言う事なのですか。

 そんな事が理由で私が選ばれたのですか。

 兄上以外の王位継承権所持者が露骨に目を避けます。

 もしかして、私は生贄の羊なのですか。

 助けてください、兄上、そんなうれしそうに笑っていないで!

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