第2話:魔眼・アラステア視点

 今日もまた苦行のような時間を過ごさなければいけない。

 できれば社交などしたくないのだが、生まれ持っての身分がそれを許さない。

 王子として生まれてしまった事は幸運であると同時に不運でもある。

 人の悪意を正確に映し出す魔眼を持って生まれた俺には、魑魅魍魎が利権を求めて蠢く王宮はオゾマシイ色に染まった地獄絵図そのものだ。


「アラステア王弟殿下、お久しぶりでございます。

 マクガヴァン伯爵家のショーンでございます。

 殿下のご活躍は以前から聞かせていただいておりました。

 私も王国の貴族として少しでも殿下のお役に立ちたいとずっと思っておりました。

 前回の魔獣の侵攻で魔境城も大きな損害を受けたとお聞きしております。

 魔境城の修築を誰に依頼するのか決まったのでしょうか。

 なんでしたら私がお手伝いさせていただきますが」


 どれほど魔眼の力を抑えても、こんな近くに下劣な欲望があると見えてしまう。

 吐き気がするほど醜悪な色彩の欲望が見えてしまうのだ。

 こんなものを見たくないから、騎士の道を選んで王宮を出たのだ。

 常に最前線を志願して王宮から距離をとって戦い続けてきたのだ。

 それなのに、出来損ないの甥の所為でこんなモノを見せられてしまう。

 命懸けで国を護って戦う騎士や兵士が受けるべき正当な報酬を、安全な後方にいて遊び惚けているくせに、かすめ取ろうとする連中の相手をしなければならない。


「左様か、だったら修理ではなく最前線で戦ってもらおうか。

 伯爵ほど裕福な家なら、相当数の騎士や兵士を引き連れて来てくれるのだろうな」


「残念ながら領地で大洪水が発生してしまいまして、そんな余裕がないのです。

 ですが将兵ではなく職人や人夫ならお送りすることができます」


 それで王家王国から法外な報酬を手に入れるというのか。

 本来なら命懸けで戦った騎士や兵士が受け取るべき報酬を。

 出来損ないの取り巻きに賄賂を送って利権を手に入れたか。


「それは私を愚弄して喧嘩を売っているのかな、マクガヴァン伯爵。

 大洪水の復興に不要な騎士や兵士は送れないが、大洪水の復興に必要な職人や人夫は送れると言うのか。

 その報酬に私と共に命懸けで戦った将兵が受け取るべき賞金をかすめ取る心算か。

 そこまで馬鹿にされて私が我慢すると思っているのか、マクガヴァン伯爵。

 よかろう、そこまで馬鹿にされて我慢などできん。

 決闘を申し込むぞマクガヴァン伯爵」


 バッチーン。


 これで少しは腹の中の鬱憤が晴れた。

 投げつけた白手袋1つかわす事のできない未熟者。

 みるみる熟し柿の様に腫れあがる頬が笑えるな。

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