第30話 三章◇ありがちな最強の聖霊と聖獣 07

「ぐっ……、主様、すまん……」


「ク、クロウっ、ごめ、んなさい……! もう、やめる、からっ」


苦しそうにそう絞り出したふたりに、両親がため息をつきながら『許す』と言うと、言葉が終わると同時にふたりの体が弛緩した。

へなへなとへたり込む天秤宮ライブラ

かなり強い力で締め上げられていたような様子で、『縛り』というものが強く逆らえない『命令もの』であることが窺えた。


「全く…大事な話をすると言っているだろう。」


「そうよ獅子宮レオ。アリスちゃんの前で醜い真似はやめてちょうだい。」


「ご、ごめんなさい…」


「すまない、主様。以降は殊更気を付けることにしよう。」


ふたりがしゅんと頭を下げる。

聖獣に頭を下げさせる…相変わらず両親は規格外なんだなと改めて思う。


「さて…改めて、天秤宮ライブラ獅子宮レオ白羊宮アリエス。これは僕達夫婦の総意だ。だが、君達に強要するものじゃない。いいかな?」


「いいよぉ〜。」


「主様の意志とあらば、以下様にも。」


「なんでも言ってね、クロウ!」


三者三様に、けれどどの全てもが主人の意志を飲み込む返答だった。


「君たちには、娘のアリスとも契約を結んでほしいと考えている。」


その衝撃的なセリフがあるまでは。


「…えっと、父様…?」


何も聞かされていなかった私としても、寝耳に水だ。

ただでさえライトニングの最上位の加護を受けてしまったというのに、更に聖獣と契約したとなればメルディロード家は完全に『ただの伯爵家』から逸脱してしまう。

いやもちろん、父様と母様が『ただの』の範囲に収まっていたわけではないのだけれど……。

完全に王家と同等の──もしくはそれ以上の力を持つ存在になってしまう。

それはもう、言い逃れができないほどに。


「……まだ、アリスには話していなかったね。でも、僕たちの考えというのがこのことさ。」


「アリスちゃんがこれからも私たちのそばにいたいと、そう考えてくれているのなら……この契約を、交わしてほしいの。」


「……どういうことだ、主様?」


どこか寂しそうに呟いた母様の様子を見た獅子宮レオが、異変を察してそう問うた。

天秤宮ライブラなんて、即答で嫌だと答えそうなものだけれど、他のふたりも、黙ってそれを見ている。

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