第4話 ありがちな前世の記憶? 03

「わざわざ記憶を戻すこともないでしょう? 何が目的ですか。」


「もっともな質問じゃな。まずは『記憶を戻した』ことに関して、じゃ。」


ジトッとした目線に苦笑しながら、グラインドが状況の説明を始める。説明を始めるのはグラインドなのか、と思っているとその疑問が顔に現れていたようで、


「いやぁの、水のエリオスにぜぇんぶ押し付け、っちゅうのも違うじゃろうて。」


との返事をもらう事ができた。

確かに、と頷いていると、グラインドはゆっくりと説明を再開した。


「記憶を戻したのはなあ、儂らの償いのようなもんじゃ。」


「……償い?」


「ああ。そう言うても、儂と水のエリオスが主なもんじゃが。いや、本当に、すまなんだ。」


ふう、とそこで一息つけ、グラインドは胡坐をかいたまま膝に手をつけて、アクアエリオスは立ったまま手を前に合わせて深く頭を下げる。


「償い、とは、なんの償いなのでしょう。」


「貴女の前世に関して、です。売女がやらかしやがっ……いえアレの不手際のせいで、私が関与しないままに貴女の前世を終わらせてしまった。」


……今ナチュラルにえげつない言葉が聞こえてきた気がした。アレ、と顎で示されたエーテルコラはぷんぷんという擬音が相応しいゆるい怒り方で、「言ったら怒るじゃなぁい!」と不満を口にしている。


「それが起こらないようにするのが役目でしょう! だと言うのに貴方は男にも女にもホイホイと」


「おやおや、それは今お嬢ちゃんを待たせてする事じゃあ、ないよね。」


目の前で始まりそうな大人の会話をスマートに遮ってくれたライアルエアに感謝。精神年齢はともかく、今の私は10歳児なので。


「……こうなるから儂が話すっちゅうたじゃろうに。んん、それで、償いの事じゃ。」


グラインドはどこか遠い目でアクアエリオスとエーテルコラの騒動を見やり、咳払いをして話題と注意をこちらに向ける。私も二柱の騒動は意識の外に置くことにした。

少し、気にならないわけではないけれど。


「前世が異世界人、ちゅうのもない話じゃあない。それはエーテルコラに聞いたな? けどなぁ、儂らはその記憶がこの世界に悪い影響を及ぼす事があるっちゅうのを知っておる。だからもし、異世界人の魂がこっちに渡ってきた時には必ず、魂の洗濯をしてやる。」


ふむ、と頷いてみる。なんとなく、言いたいことは伝わる。

大体考えていた理由と同じ理由で、記憶を消されたのだ、と。


「まぁっしろにして、転生させてやる。これは儂ら神の役目で、義務ってもんじゃ。儂らの世界の都合のいいようにするんじゃ、せめて苦痛のないようにするんが筋だからのぉ。」


ぞり、と顎髭を撫ぜた神が、何を言おうとしているのか。

今の私には、まだ少し、考えが及ばない。

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