第3話 アイドルに何が?

 真司は、彼女の口元に鼻を近づけ、手のひらで彼女の口元の臭を嗅いだ。微かなアーモンド臭がした。


 「このペットボトルの水か?やばいなこのままじゃ、俺が疑われる。しかし、ここから逃げても、身元がバレるのは時間の問題。ここは、警察に通報するしかないか」


 直様、慎司は警察に連絡し、救急車も手配した。その後、直ぐに、今回の事件に巻き込んだ張本人の鬼龍院花に連絡をとった。


 「あいよ、今、どこ?」

 「目と鼻の先さ」

 「で、何?」

 「花がお節介にも関わった女が死んだ」

 「えっ…、あの娘、死んだの?」

 「ああ、多分な、脈をとっていないが…、間違いないだろう。無闇に触れると、後々、厄介だからな」

 「やばいんじゃないの?」

 「やばいさ…、もう、警察は呼んだ。だから、時間がない。よく聞いてくれ」


 突然の慎司の告白で、無関心が常の花も、動揺を隠しきれないでいた。


 「うん…、私も捕まるの?」

 「俺が全てを話したらな」

 「いやだよ、私、警察って大嫌いだから」

 「俺も嫌いさ。花が刈り取った事件だ、責任はあるぜ」

 「責任って…、私の辞書にはありませーん」


 動揺から立ち直ろうと、毅然と振舞おうとする花は、正しい立ち直り方を今まで

学んだことがなく、強気に見せることで弱みを見せない防御本能を発動した。


 「じゃ、花のことを警察に話すか?」


 そう言われて花は、気取っている場合じゃないと自覚した。


 「ダメよ、やめてよ」

 「やめて欲しいなら、今から言うことを調べておいてくれ。俺は、第一発見者だ。素性も胸を張れるものじゃない。当分は、容疑者扱いで帰れないかも知れないからな」

 「で、何を調べるの?」

 「まずは、彼女の素性だ」

 「素性って言ったって…」

 「彼女はご当地アイドルのCat's-Cat'sの一員だ。衣装の色で分かるはずだ。色は黒だ」

 「Cat's-Cat'sの黒ね…、それから」

 「彼女の身の回りで起きていたことを、掻き集めてくれ」

 「どうーやって?」

 「らしくないな、おどおどして」

 「五月蝿い…あっ、SNSね」

 「そうだ、グループや彼女、その周りにまつわる噂や聞き流しそうなつぶやきを徹底的にな」

 「了解、その他は?」

 「…、あっ、そうだ、あの時の女だ。写真でも撮っておけば良かったって、カメラを持っていても撮らねーよな、くそー」

 「ううん、もしかして、赤い傘の女のこと?」

 「何故、花が知っているんだ」

 「えへぇー」

 「そう言えば、出不精の花が、青い傘の彼女に俺の連絡先を渡していたな…、お前は俺のストーカーか」

 「お前って言うな、僕はそう言われるのが大嫌いなんだ」

 「悪かった、悪かった。それで、どうして、知っているんだ」

 「仕方ないなぁ、教えてあげるよ」

 「ああ、頼むよ」

 「あなたの自慢のBMXに高性能のカメラを取り付けてあるの。それをスマホに繋いで映像を飛ばして、リアルタイムに、外の景色を楽しんでいたの、出不精の僕にはいい散歩でしょ」

 「はぁ…、勝手なことを…、で、赤い傘の女のことは」

 「ちょっと待ってね、録画してあるから。あっ、これだ。ズームアップ、輪郭補正とっ、う~んと、あっ、菜々緒に似たかっこいいお姉さんね」

 「そ、そうだ、そこまで分かるのか、凄いなぁ」

 「でも、誰だか分からいよね、これだけじゃ」

 「いや、見た目が同じような系統だ。きっと、彼女のスタッフや関係者にいるはずだ」

 「じゃ、公式サイトやファンのブログにこの写真を載せれば、反応があるかも知れないね」

 「公式サイトは避けろ。関係者なら不味い。手の内を悟られるまでの時間稼ぎは必要だからな」

 「分かった」


 ピーポーピーポー、ウ~ウ~。


 「PCと救急車が来た」

 「PC?…パソコンがどうしたの?」

 「PC、パトカーの隠語だよ」

 「そうなんだ?」。

 「とにかく、花は、何も知らないってことにしておけ。ポロっと口を滑らせて、不審がられては厄介だからな。無口で、首振りと単語だけで応対しろ、分かったな」

 「うん」

 「じゃ、切るぜ」

 「うん」


 ガシャンガシャン、バンバン。


 救急隊が青い傘の女の容体を確認し、呼び掛けながら、タンカに乗せて慌ただしく、この場を離れていった。その後に、不愛想な刑事がやってきた。慎司は、制服警官と刑事に包囲され、袋の鼠状態となった。


 「あなたですか、通報してくださったのは?」

 「はい」

 「私は、京都府警の都島です、あなたは?」

 「殊更慎司、探偵です。でも、暇を持て余してますけどね」

 「ほう、探偵さんですか」


 本名をフルネームで名乗らないのは、不味いかと思いつつもやり過ごした。


 「珍しいお名前ですね、漢字はどう書けばいいのですか」

 「殊勲の殊と、今更の更です」

 「それでは、殊更さん、通報された状況をお聞かせください」

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