地球産ゾンビ 異世界に行く ~防疫観念の存在しないファンタジー世界でゾンビウイルス無双~

黒井丸@旧穀潰

0章 発端

第1話 悪質な拉致犯罪世界に鉄槌(ゾンビ)を送ってみた

 異世界には良い異世界と悪い異世界がある。

 前者は本当に困っていて助けを求めている場合。

 後者は単なる便利屋として使い潰したり、ステータス的に役立たずだと使われもせずに見捨てられるブラック企業のような悪意に満ちた世界である。


 悪い異世界はだいたい後半で鉄槌が下されるのだろうが、即インスタントにオーバーキルで鉄槌が下されるのがこのお話である。


 なお、筆者は人間心理とか情景描写が死ぬほど苦手な事が良く分かったのでキャラ名は役職にします。

 感情移入したくないほど性格悪い奴らばかりですし。


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 物々しい魔法陣の前で悪意に満ちた人間たちが、召還の儀式を行っている。

 勇者と称して他の世界から使い捨ての人材を召還し、危険な仕事に従事させるためだ。

「こうして月に一度しか呼び出せぬとは不便なものだ」

 王様は偉そうに不満をもらした。

「前回の勇者様は多少貧弱でしたからな。旅立ってたった3日で死ぬ。なんとも情けない方でした」

 それを聞いて大臣は追従して言う。

「前々回がランクBの当たりでしたが前回はF、ゴミのような存在でしたな。それなのに少しおだてれば剣一本で魔物を退治できると信じているのだからおめでたいものです」

 ゴブリンの群に突撃させ死んでいった先代勇者をバカにするように司祭が言った。

 宗教家のトップらしく外見上は穏和な顔をしているが、自分の権力と安全のために他の世界から人間を呼び出す、人買いも真っ青な極悪人である。

「前回は『腕は普通でも、真面目で素直な人間』を召還しましたが今度はどのような方にいたしましょうか?」

 とピザの注文でも頼むかのようにリクエストを尋ねてきた。

「そうだな。どうせなら何度切っても簡単には死なないくらい頑丈な奴がいいな」

 と、召還された者が変な行動をしたら裏で処分するように命じられている暗殺者が嗜虐的な目を細める。

「そうですね、多少 特異体質というか今までとは変わった体質の方が解剖のしがいがあります」

 と研究者が言った。

 用済みとなった人間を『研究のため』と称して切り刻むのが彼の嗜好である。

「おいおい。死ぬのを前提に呼び出されては困るな。多少は戦闘の経験があったほうが良いじゃないか」

 と騎士団長がいう。魔物討伐の囮として何人も地獄に落とした彼としては頭は悪くても屈強な人材が欲しかった。肉の盾として。

「ふむ。わかりました。なるべく皆さんの希望に添えるよう神に祈りましょう」

 こうして呼び出す相手が決まると、司祭は魔法陣を前に呪文を唱える。


 呼び出した後に、ちょっとおだてて哀れにすがれば格安の鉄砲玉がでてくる月に一度のイベント。

 悪人たちによる最悪の召還ガチャの始まりだ。


 五忙星の角に置かれた生け贄の死体たちが溶けだし、中央に人間の形を生み出していく。どう見ても悪魔召還です。本当にありがとうございます。

 やがて大きな光の柱が現れると、陣の中心に一人の男が姿を現した。



「ここは俺がくい止める!早く逃げるんだ!!!!!」



 召還された男は開口一番、そう叫んだ。

 金色の短い髪にはちきれんばかりの褐色の筋肉。

 手にはバールのようなものを持っており、小さなダガーを腰に差していた。

 地球人なら彼を見て軍人と推測しただろう。

 なので地球から異世界に鉄槌を下しにきた彼の事は軍人と呼ぼう。

 次の話で死ぬし。


『これは変わった男が来たものだな』

 王様は値踏みするように男を見た。


「な、なんだここは」

 彼はアメリカの軍人。

 突如現れたゾンビと戦って、ショッピングモールに3ヶ月以上立てこもっていたのだが、ついに壁が破壊されゾンビに右腕を噛まれた。

 自らの死を悟った彼は自分を犠牲にして戦おうとする人生一番の見せ場で異世界に拉致された格好となったわけである。

「おい!リチャード!カールセン!どこにいる!」

 多くの異常事態に直面した歴戦の勇士である彼だが、さすがに異世界への召還は経験した事がないのだろう。

 なにが起こったのかわからず戸惑っていた。


 だが異世界の住人である彼らにはそんな裏事情は知る由もない。

 ただ、新しい奴隷をどう利用しようか考えているだけだ。


 ………これからひどい目に遭うのは自分たちなのだとも知らずに。


「よくぞ来た勇者よ」


 地球から来た軍人の姿を見て王様は男の責任感、自己犠牲の精神、最低限の戦闘経験があることを見て取り『今度の奴隷はなかなか性能が良さそうだ』とほくそえんだ。そこで

「勇者よ我が国は邪悪な悪魔の軍隊に侵攻され困って「そんな事よりも、そこの男。」」

 前もっていた用意していた定型文を遮られ、自殺幇助を要求された。

 急な殺人依頼に数多くの邪魔者を抹殺していた暗殺者も理解が追いつかなかった。

 今まで「俺が一体何をしたって言うんだ!困っていた民衆を助けようとしただけじゃないか!」とか「金ならやる!だから命だけは!命だけは助けてくれ!」という命乞いは何度も聞いてきたが

「何をぐずぐずしている!その剣で俺の首をはねろ!手遅れになってもしらんぞー!!!!」

 と言われたのは初めてだ。

 錯乱したように暴れる軍人。そこへ『静心サニティ!』という叫び声が響き渡る。

 精神を安定させる呪文だ。

「どうやら勇者様は、かなり混乱されているようですな」

 司祭はそういうと、落ち着いた軍人に改めてこの世界がどれほど困っているのか説明しようとした。だが

「君たちはわからないかもしれないが、私はアメリカの軍人で、1時間ほど前から人類を滅亡させるほどのウイルスに感染した。あと5時間もすれば正気を保て泣くだろう。ワクチンは効果が無い。このままでは君たちだけでなく周辺の町すべてが死者の町になるんだ!時間がない!早く!」

 と軍人は、まくし立てた。

 軍人は自分が何をされたのかは分からないが、目の前の連中がどれほどヤバい物を呼び寄せたのか理解できてないのだけはわかった。

 そして、この世界には顕微鏡もなくウイルスとかワクチンという言葉が何を意味しているのかわからないよである事もわかった。

「人類が滅亡?死者の町の事ですか?リッチかヴァンパイアでも現れたのですかな?」

 からかうように大臣が言う。

 リッチとヴァンパイアはアンデットの最高位。

 これらの存在は伝説のものとなっている。今では本当にいたのかさえも疑わしいおとぎ話の存在だ。

 だが、目の前の軍人は首を振ると大まじめに


だ」


 と言った。

 その瞬間、宮廷中に失笑が巻き起こる。

 彼の挙げた『ゾンビ』とは、地球だと噛まれただけでゾンビとなり、痛みも恐怖も感じなくなり、人間を襲う

 しかし、こちらの世界だと『体がもろく、動きも遅い』を指す。

 地球で言うならゆっくり歩く亀を大の大人が怖がっているかのように聞こえたのである。

「笑い事ではないんだぞ!ニューヨークからワシントン、メキシコ、イギリス、アフリカ ロシア、中国。これらの土地はすべて奴らの支配下になった。このままだと、この町は突如ゾンビだらけになるんだぞ!」

 と、まじめに訴えれば訴えるほど、王様や大臣は笑いが止まらないようだった。

 彼らにとっては3歳児の集団が世界中の人間を襲って支配下に置いたのと変わらないくらいあり得ない事だったからだ。

 その中で一人の若い侍女が「あら、こんな所にお怪我が…」といって進み出てハンカチで軍人の傷口噛まれた場所をぬぐった。


 良い人などとは思ってはいけない。


 こうして優しいふりで籠絡し、貧乏人の苦労話をでっち上げていろいろと生活必需品を貢がせてきた悪女である。

 この世界の人間に善人は一人もいない。

 そんな彼女でさえも『たかがゾンビ程度の雑魚モンスターで大騒ぎするなんて、今度の収穫は期待できそうにないわね』と内心小馬鹿にしていた。

 そんな嘲笑で弛緩した雰囲気を察した軍人は

「くそっ!!!ラチがあかん!!」

 そういうと持っていた短剣で自分の首を切り落とそうとした。

「きゃああああ!!!!」

 侍女が叫んだ。

 鋭い刃は軍人の首から血を吹き出させる。

睡眠スリープ

 後ろの魔術師が睡眠魔法を唱えなければ、彼はそのまま死んでいただろう。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「何を考えておるのだこいつは」

 あまりの支離滅裂な行動に王様は失望したように軍人を見下ろす。

 侍女も自分についた血を先ほどのハンカチで拭いながら、汚らわしいものでも見るように「あやうく赤字になる所でした」と言った。

 自分の大事な制服が血で汚れそうだったからだ。

「どうやら、勇者様は気が動転しておられる様子。ここは一度別室でお休みいただいて、明日改めてご説明されてはいかがでしょう」

 と司祭がとりつくろう。

「…そうだな。明日(=12時間後)にでも再び目通りすることにしよう」


 たかがゾンビにかまれた程度であそこまで取り乱すとは情けない男だ。期待はずれもいいとこだわい。と王様は思った。


 この時点で彼らがゾンビへの対処法を知る機会は永劫に失われた。


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「本当に最悪の男だわ!」

 先ほど軍人の血を拭った侍女が腹立たしそうに同僚に話す。

「体格は良かったからモンスター討伐で与えられたご褒美を貢がせようと思ったのに、ゾンビよ?ゾンビ!あんな弱いモンスターに噛まれた程度でこの世の終わりみたいな顔してるの。これじゃあハンカチ分の代金も回収できるかどうか分からないわ!」

 憤懣やるかたない顔で言う。

「いいじゃない。あんたのハンカチ、着古した服の切れ端でしょう」

 どうせ捨てる物だったじゃない。と同僚の侍女がいう。

 ウイルスの知識の無い彼女たちは雑菌だらけの布で傷口を拭う事に抵抗はない。

「で、そのハンカチどうしたの」

「もったいないから鼻をかんで捨てたわよ。血の付いてない部分を使って」


 そのあとから、なんか鼻がムズムズするのよね。と何も知らない侍女は不思議そうな顔で言った。


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 分からないものに対して必要以上におそれるのが人間の特性だと思っていましたが、今回のコロナでそうでは無い人もかなりいる事が分かり驚きました。


 特に一番驚いたのは、西洋人は。という点でした。

 むこうでは鼻をすするのは失礼で、ハンカチをつかって鼻をかむのが常識らしく、それを自分の妻に貸そうとしたとか…

 文化の違いなのでしょうけど、バイキンが移るという考えがないのかと思わざるを得ませんでした。

 鼻水とか唾とか汚れのついた部分では雑菌が繁殖し、洗濯せずに使用すれば ばい菌が体に入る事くらい分かりそうなものだと思いましたが、分からないようです。

 考えたくもありませんが、そのハンカチでテーブルを拭いたり、逆にテーブルを拭いて菌が付着したハンカチで鼻をかんだりしたからコロナがあそこまで増えたのではないかと思いました。

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