第33話「こんがり焼いて」

 爆発が起きてから数秒が経った絶界の森。

 耳をつんざく爆音に生徒達は耳を覆った。


 うるさいのは魔人達も同じだったのか、動きが鈍くなりその場で立ち止まっている。


「凄いなアリーシャちゃん……」

「俺達も負けてらんねえ! いくぞお前ら、俺様に着いてこい!!」


 バロンが武術組を率いてオーガ達の元へ突っ込んでいく。そこにはマオの姿もあった。


 マオはその歌声で武術組に防御力上昇のバフをかけ、すぐさま魔術組に戻りレイラの下に加わった。


「今よ! 足が止まってる内に消し炭にするわ!」


 レイラの号令で火玉の魔術を飛ばす魔術組。


 一体また一体と、的確にゴブリン達の数を減らしていく。


 オーガと交戦中の武術組も三人一組で確実にオーガを仕留めていく。


 その中でもバロンは別格だった。

 オーガを30体倒したというのもあながち嘘ではない。

 刀ではなく剣なら、ルークにも勝る才能の持ち主。


 オーガを手玉に取るようにバタバタと倒していくその姿は、鬼神の如くオーラを放っている。


 そして、ミノタウロスと対峙するアリーシャ達はというと、


「見て、エミリー! オークがこんがり焼き揚がってる♪」

「そのようですね……申し訳ありませんアリーシャ様。私は力を使い果たしてしまったようです……」


 こんがり焼き揚がったオーク達。

 全て丸焦げで息絶えている。


 それを見たエミリーは、安心したかのようにヘナヘナと地面に崩れ落ちた。


「寝てろ。次は僕の出番だ」


 支えていたルークは、エミリーをその場にゆっくり寝かせると、アリーシャの横に並び立つ。


「師匠。まだ奴は生きてる」

「そうみたいね」


「どうする? "アレ"をやる? 師匠の刀は持ってきた」

「うーん……その前に動きを止めたいわね。"アレ"をやるなら動いてる敵には不利だし……」


「エミリーはもう動けない。魔術組に頼んでくる?」

「ダメよ……あっちも一人抜けたら大変だし」


 合体技エレメンタルバーストを受けたミノタウロスだったが、その足はゆっくりと動いている。


 体の一部には少し焼けただれた痕があるものの、活きはまだまだ良かった。


「グオオオオオオーッッ!!」

「うわっ、すんごい怒ってる……」

「師匠。足止めする方法考えないと」


 そう言われても、特に良い案は浮かばない。


 自分で魔術を撃って足止めしても良かったが、さっきの技並みの火力を出すには、魔力をごっそり持っていかれる。


 そうすれば体力も集中力も途切れ、"アレ"は到底行えない。


 何か良い足止め案はないかと思考するアリーシャの元に、助け船はやってきた。


「その役目……僕にやらしてくれないかな?」

「ミケ君! 向こうは大丈夫なの?」


 魔術組に加わっていたミケがアリーシャの元にやって来て足止め役をかってでた。


「ああ、向こうはもうゴブリンを殲滅して、オーガと交戦中の武術組を援護しに行ったよ」

「そっか、良かった……」


 特別科生徒達の無事を確認し安堵するアリーシャ。

 ミケが来て心強いという気持ちもあった。


「あいつに最大の魔力を込めて魔術をぶっぱなせば良いんだよね?」

「うん! お願い出来る?」


「当たり前だよ。そのために来たんだから」

「ありがとうミケ君! ルーク、ミケ君を支えて上げて!」

「分かった師匠」


(僕の事は、呼び捨てにしてくれないんだね……)


 バロンやレイラを呼び捨てにしていたのを聞いていたミケは、少し拗ねている。


 しかしこの状況で態度に出す訳にもいかず、おねだりする事も出来ないので、ミケは大人しく魔力を高めるため集中する他なかった。


「魔術は炎系で良いかな?」

「うん! 丸焼きにしちゃって!」


「分かった……獄炎の地獄に潜りし冥界の鬼よ。その燃え盛る怒りの鉄槌を我の両手に宿らせ放ちたまえ……《インフェルノバーストッッ!!》」


 詠唱の言葉を刻み、しっかりと魔術のイメージを膨らませ火炎弾を放つミケ。


 普通はこうなのだ。詠唱もなしに馬鹿げた火力の魔術を使うアリーシャが異常なだけなのだ。


 ミケの最大魔力で放った魔術は爆風を広げミノタウロスへと迫っていた。


 放った反動もそれなりで、ルークも必死に支えている。


 そして、ミケの眼鏡は、爆風で飛んでいってしまっていた。


 露になるミケの素顔。

 整った顔立ちと漆黒の瞳。

 その横顔に、アリーシャは釘付けだった。


(どこかで見たような……あっ!?)


「ねえ……ミラン」

「ん……どうしたのアリー?」


 魔術を放ち終わり疲労感を覚えていたのが悪かった。

 これこそ【ついうかっり】というやつだ。


「やっぱり! どういう事ミケ君! あなたミランだったのね!!」

「なんの事かな? ちょっと言ってる意味が分からない」


「誤魔化しても無駄よ! その瞳は絶対ミランだわ! なんで今まで黙ってたのよ」

「チガウヨ。ボクハミケダヨ」


 動揺が隠せないミケは、とても誤魔化すのが下手だった。あのルークでさえ、


(あ、こいつミランだ)


 と、確信する位に……。


「なんで誤魔化すの? ねえなんで!?」

「あ、ミノタウロスの動きが止まったよ!」


「そんなんじゃ誤魔化されないんだから!」

「師匠、それは本当」


「え……あ、ほんとだ」


 ふと確認したミノタウロスの姿。フラフラとしていたかと思えば、その足をピタリと止めている。


 しかし、絶命した訳ではなさそうだった。あまつさえ、放っておけば回復しそうな気配まで感じる。


 トドメを刺すなら今が絶好のチャンス。

 この時を逃す理由などなかった。


「仕方ないわね……行くわよルーク! "アレ"でトドメよ!!」

「了解つかまつった」


「それと、ミラン! いえ、今はミケね! 終わったら全部話して貰うからね? 分かった!」

「は、はい……」


 アリーシャの気迫に負け頷いてしまったミケ。

 終わった後が怖いと思うと同時に少し嬉しかった。


(呼び捨てにしてくれた……)


「さあ、ルーク。準備は良い?」

「いつでも」


 足を止めるミノタウロスへ駆け寄ったアリーシャとルークは、トドメの準備へと入った。


 フシューッ、フシューッと鼻息が荒いミノタウロスを見上げ構える二人。


 腰に差した刀の柄を握り、一息呼吸を入れる。

 そして、一瞬柄を離したその瞬間――


「「天龍一心流奥義……《双龍覚醒一心》!!!!」」


 呼吸を合わせ、神速の如くミノタウロスの首を狙い飛ぶ。


 それは刹那の出来事。

 瞬きをした瞬間に事は終わっていた。


「グ、グガアアアアーッッ!!」


 最後の雄叫びを上げ、土煙と共に崩れ落ちる巨体。


「「一心貫徹……」」


 カチリと鞘に収まる二振りの刀。

 掃討作戦――完遂の時である。

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