第19話「楽しくない?ゲーム」

 新歓パーティーを楽しんでいた一年生達は、世界一の教育機関とはこんなものかと楽観的になっていた。


 特に一般科の一年生達は、受験に至るまでの勉学漬けの辛い日々が、余計に解放感を生んでいたのだろう。


 だから余計に、イザベラ学園長が放った一言で、戦慄が走ってしまった。


「楽しんでるか一年生達諸君よ!」

「おおっっー!」

「学園長最高ーっ!」

「楽しんで貰えて良かった。ではさっそく……最初の退学者を決めるゲームをしようではないか」


 とても先ほどまで酒を煽ってだらしない顔をしていたとは思えない真剣な口調に、一年生の表情も強張る。


「どういう事ですか!?」

「折角辛い勉学漬けの日々を送って入学出来たのに!」

「悪い冗談はやめて下さい!」


 一年生達のブーイングが飛び交う中、ケモミ民ことビースティアの民を肴に眺め、フルーツを摘まんで幸せを感じていたアリーシャも驚きを隠せずにいた。


「えっ、尻尾も生えてる子もいるの!? ちょっとまって、それは聞いてない!!」

「アリーシャ様ビースティアはいいですから、今大変な事になってますよ?」

「師匠はビースティアの事になると我を忘れる」

「あっ、ごめん……それで、なにが大変なの?」


 つい夢中になってしまった事を反省しつつ、一体なにがあったのかエミリーとルークへ質問するアリーシャ。


「なんでも、入学早々に退学者を決めるゲームをするらしいですよ」

「皆、不満みたい。あの学園長、中々意地が悪い」

「ええっ!? 入学した初日に!? いくら世界一の学園だからって厳しくない?」

「ですね……あっ、学園長が不満を受けて喋りますよ」

「今さら冗談だったわ許されない」


 学校長に集まる視線。どんな発言をするのか、一年生は固唾を飲んで待っている。しかし気になるのは、それをニヤニヤと見ている二年生と三年生だ。


(上級生の人達は何か知ってるみたいね。そしてこれからどうなるかも経験しているんだ……)


 きっと彼等も同じ経験をしたに違いないと、アリーシャは睨んでいた。実際その考察は正しい。去年、一昨年と同じ事が起こり、その時も全く同じ状況でこの場面を迎えていた。


「あのさ……あんたら甘いんだよっっ!! なにが勉強漬けの辛い日々だ。言っとくけど、この学園は世界一!だからあんたらも入りたかったんでしょ。なんで世界一か知ってる?」


(厳選された優秀な人材が集まり卒業して世に出ていくと、その人達は世の中で功績を残す。その人達がこの学園出身だと知り、優秀な人材はより集まっていく。きっと、そのループを何回も重ねて世界一の学園は作られたんだろうな)


 アリーシャの考察通り。というか、世に名を轟かせる名門とは、全てその積み重ねの上で成り立っている。


「私、いえ、学園が求めるのは世界一優秀な者達なの。その者達が切磋琢磨し、より優秀さに磨きをかけていく。ここはそういう所。キャハハウフフを求めてんなら今すぐ帰りな!!」


(あ~、やっぱりそういうのはないんだ……ちょっと期待してた私が馬鹿だった……)


 夢の学園生活を送りたいアリーシャにとって、学園長の発言は出鼻を挫くには十分過ぎる。ガックリと肩を落とすアリーシャに、更なる追い討ちが待っていた。


「今から始めるのはビンゴゲーム。そして退学者は一名。最後まで残った運のない奴は、この学園に必要ないからね。運の大事さなんて、ガーレストに入学出来た優秀な者なら分かるよね?」


 学園長の発言に言葉が出ない新入生達。

 それは、運の大切さが分かっていたからだろう。


 世の中に名を残す偉人とは、運を味方につけ躍進する者も少なくない。いつどこに落ちてくるか分からない好機を掴む"運"が、必要不可欠な時もある。


 狭き門のガーレスト学園に入学出来た事さえ、その運が役にたったと証明しているようなものだ。


「ガーレストに入学して運を使い果たした不運な奴なんて、この先学園でやっていくには所詮無理な話なのよ」


 意気消沈の新入生達。だが、その新入生の中でも、アリーシャを含む特別科の者達は、どこ吹く風とばかりに余裕な表情をしていた。


(まあ、学園長の言う事は最もだよね。運がないと、人生大変だもん。私は運が良かったな~)


 異世界に出戻りする前は、散々悩み苦痛を受けていたアリーシャにとって、運の大事さは身に染みて感じていた。この世界にこれたのは、運が良かったと思っているからだ。


「じゃ、始めようか。二年生と三年生は準備をお願い」


 学園長の一言で素早く動き出す上級生。新歓パーティーの会場に運ばれてきたのは、数字が刻印された何百ものボールが入った巨大な装置。


「ありがとね~! さて、ルールは簡単。今から配るビンゴカードに書いてある数字が出たら、その数字が書かれた場所を押し込んで穴を開けてちょうだい。縦横斜め、どれか空白が揃ったらビンゴと叫んでね! ビンゴした者から抜けていき、最後までビンゴしなかった人は退学ね♪」


 ただのゲームをするかのように、楽しそうな表情で説明をする学園長。実際参加する方は楽しい訳がない。己の退学かかったゲームなど、冷や汗ものだ。


「さっそく回すわねー」


 否応なしに始まる退学をかけたビンゴゲーム。


 学園長が装置の取っ手を回すと、ボールが擦れて鳴るガラガラとした音が、静まりかえった会場に響き渡る。


「最初の番号は……185! カードに同じ数字があったら押し込んで空白にしてね。あっ、後、魔術で不正しようとしても無駄だから。そのカードは、魔術を検知すると燃える仕組みになってるから気をつけてね。勿論、燃やしたら退学だぞ♪」


 ふざけているのか真剣なのか分からない学園長に、一層緊張が高まる新入生達だが、


「あっ、あった! しかも角だ! ラッキー♪」

「アリーシャ様!私もありましたよ!」

「僕はなかった……師匠と雑魚ズルい」

「へへー! どうやらルークに運はないようだな!」

「くっ!」

「もう、止めなよエミリー! 大丈夫だよルーク。次は出るから!」


 この一角だけは、どうやら別次元のようだ。


 緊張感の欠片もなく純粋にビンゴを楽しむアリーシャ達とは異なり、特別科の者達を除く他の新入生達は、震える手でカードを握り、書いてある番号が呼ばれるのを祈っていた。


「あっ、またあった! これで三回連続だ♪ 後少しでビンゴ出来る~」

「くぅぅっ! 私は二回連続で外しました……」

「僕は二回連続であった。やっぱり雑魚は雑魚だった」

「なにをーっ!」

「だから止めなよ二人とも~! ゲームなんだから楽しくやろうよ♪」

「分かりましたアリーシャ様!」

「師匠の教えは絶対」

「あんたら煩い! 退学が懸ってるのに良くそんな能天気で居られるな! 兎に角、呼ばれた番号が聞こえないから黙っててくれ!」


 当然怒られるだろう。


「ごめんなさい……」

「すまん!」

「詫びる」

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