第16話「特別試験②」

 なんとも面倒な俺様王子に絡まれてしまったアリーシャ。お花つみに行くと言って逃げ出したが、戻るタイミングを掴めないでいた。


(すぐ戻ったらまた絡まれるよね? どうしよう……)


 戻りずらい状況。筆記試験を終えた受験生達は続々と次の会場へ入っていく。紛れ込んで入ろうとも思ったが、扉の前で待っていられたらと思うと躊躇する。


「どうした。入らんのか」


 そこに現れた救世主。アリーシャが振り返ると、強面のアレキサンダーががっしり腕を組んでこちらを見下げていた。


「こわっ!」

「あん?」


 思わず言ってしまったが、それはしょうがないだろう。

 誰でも強面のマッチョが後ろで仁王立ちしていたら、何かしら声を上げる。


「い、いえ! お、お花つみに行っていたので直ぐに戻ります!」

「お花つみ? ああ、小便か。ちゃんと手を洗えよ。それより次の試験が始まるから早く入れ」


(人が折角オブラードに包んでるのに! デリカシーないのねこの先生!)


「は、はーい」


 文句を思いつつ魔法試験の会場へ戻ろとするアリーシャ。自分の後に先生が入ってくれば、余計な虫も絡んで来ないだろうと安心していた。


「そう言えば、お前さっき……」

「ん? どうかされましたか?」

「いや、なんでもない。どうせ後で分かる事だ」


 何かを言いかけたアレキサンダー先生。

 こういうのは非常に気になるものだ。


(な、に!? 教えてよ! すごーい気になるんですけどっ!! あー! ずーと、アレキサンダー先生が浮かんできちゃうじゃない!)


「そ、そうですか……では、戻りますね」


 モヤモヤした気持ちを抱きつつも、しつこく聞いても仕方ないと思い会場へ戻ったアリーシャ。


 会場へ入ると、案の定俺様王子が近くで待機して待っていた。


「遅いぞアリーシャ。俺様は気が短い。次からは気を付けろよ」


 なんとも馴れ馴れしい態度。頭でもこずきたくなったアリーシャだったが、それより気になるのは先ほどまで話をしていたレイラだ。


「ぜ……た……ゆ……いっっ!!」


 此方を睨みぶつぶつと何かを呟く姿は、ホラーも顔負けだ。


(え……一体なにがあったの? 凄い睨まれてる!)


 理由は明白だったが、アリーシャはそれに気づかない。

 いや、気づいた所でどうする事も出来ないので放っておくしか今の所手はないだろう。


「聞いてるのかアリーシャ? 俺様の第三婦人の件は考えたか? まあ、断る理由もないだろう。田舎の王女をこの俺様が貰ってやろうというのだ。これほど名誉の事はないぞ?」

「……」

「おいっ! 聞いてるのか!?」

「……」

「では次の試験を始めるっ! ここからは私語厳禁! 破った者は即失格だ!」


 アリーシャはレイラの形相が気になりそれどころではない。無視するつもりはなかったが、結果的にはフルシカトだった。


 そうこうしているうちにアレキサンダー先生の怒号が響き、受験生達は静まりかえる。


(この俺を無視だと!? くっっ!! こんな屈辱初めてだ!! なんという……快感っっ!!!!)


 どうやら、俺様王子バロンはドMに目覚めたようだ。

 アリーシャは変態を産み出す天才か。


 最後の希望(普通の人)と言えば、受験前に出会ったケモミミの貴公子ミランだけかもしれない。ミランもいつ会えるか分からないが。


「まずは魔法適正と魔力を順に測る。この会場の奥に測定室が用意してあるので順番に並ぶように」


 アレキサンダー先生の一言で測定室と書かれた扉の前に並ぶ受験生達。アリーシャもその行列に並びその時を待つ。


「一人目入れ。中には魔法講師がスタンバイしているから失礼のないように」


 魔法適正と魔力量の測定が始まり、大体三分ほどで入れ替わりながら進んでいく。


 数十分後。行列の中腹に並んでいたアリーシャの番がきた。


「失礼します……」


 目の前の扉を開け中に入ると、暗闇に淡く光る背丈ほどのクリタスルが浮かんでいた。


「いらっしゃい。名前と受験番号を教えて頂戴」


 クリタスルの横に立つヘソだしの際どい服を着た美女。

 くびれまで伸びた黒髪は、クリタスルに照らされて妖艶さが増していた。


 長いまつ毛にパッチりとした大きく赤い瞳。

 潤いのある唇は厚くプルプルとしている。


(セ、セクシー過ぎるっ!!)


「どうしたのかしら?」

「あ、いえ! 名前はアリーシャ=ベルゼウスです! 受験番号は185番です!」

「はーい。じゃ、このクリタスルに触れてくれる? それで適正と魔力量が分かるから」


 セクシー美女に言われた通りクリタスルに両手で触れると、両手が少し暖かくなるのを感じる。


(暖かい……ちょうど人肌ぐらいかな?)


 そんな事を感じた瞬間ーー


「あら、七色! オール適正は今日で二人目ね♪ 今年は豊作で嬉しいわ……」


 七色に光るクリタスル。セクシー美女は物欲しそうにアリーシャを見つめ指を咥えた。


(なんか知らないけどドキドキするっ!)


 セクシー美女の破廉恥な視線にドキドキするアリーシャ。それに共鳴するかのように七色の光は明るさを増していく。


「魔力量もかなり……あら?」


 丁度眩しさを感じ始めた時、クリタスルは電池が切れたようにプツリと真っ暗になってしまった。


「壊れたのかしら? うーん、なら他の方法で測るしかないわね。アリーシャちゃん? 私の手を握ってくれないかしら」

「は、はい!」


 暗闇の中差し出された両手を握るアリーシャ。微かに見えるその手は、細く綺麗でどこか心地よい肌触りをしていた。


「可愛いおててね♪ じゃ、今からアリーシャちゃんの魔力を右手で吸って左手で戻すわね。その時間が長いほど魔力が豊富ってことよ♪」

「わかりました!」


 クリタスルでの測定は魔法適正しか分からなかった。

 オール適正がどれほど凄いかも、アリーシャは良く分かっていない。


「オール適正の意味。アリーシャちゃんは知ってる?」

「い、いえ。読んだ本にはそこまで詳しく載っていなかったので……」


 この世界に出戻ってから何千もの本を読んだアリーシャだったが、オール適正については載っていなかった。


 適正は多くても三つか四つ。四つ適正があったのは、二百年前の人物である賢者マリーンが有名である。


 今の時代で三つも適正があれば天才と呼ばれるほど希少。それが全部というのはーー


「私が知っている限り……オール適正を持っていた人物はかつて世界を破滅させようとしていた魔王ぐらいね♪」

「えっ!? ま、魔王ですか!? それってーーあんっっ」


 詳しく聞きたかったアリーシャだったが、先を聞こうとした瞬間、まったく未体験の感覚に襲われてしまった。


「今魔力を吸出した所♪ どう? 魔力を吸われて戻されると、変な感じじゃない?」

「はぃぃっ、なんか、変な感じですぅっ、あぁっ」


 アリーシャのよがる姿を、意地悪な笑みを浮かべ観察するセクシー美女。一体なんのプレイなのか聞きたい所だ。


「あれ……なんか凄く大きいぃっ♪ アリーシャちゃんの魔力、凄く大きくて、私まで変になってきたぁーっっ」

「あぁっっ! こんなのおかしくなっちゃう!」


 数分後、測定室から出てきたアリーシャの顔は紅く火照っていた。


 一体なにがあったのか教えたい所だが、あまり事細かに説明すると倫理に触れる恐れがあるので割愛とする。


(なんだったの一体……)


 ボーとする頭でフラフラとへたりこむアリーシャ。

 しかし休んでいる暇はない。


「では実際に魔法を使った実技の方に移るぞっ!! 」

「アレキサンダー先生……」

「なんだっっ!!」


 気合いの入った声を飛ばすアレキサンダー先生に近づく上級生らしき男の子。近づくだけでも疲れそうだ。


「先ほどの結果が……」

「うむ……聞けお前らっっ!! 先ほどの筆記試験の結果が出た! 今から番号を呼ばれた者は……脱落とする!! 最初の脱落者は180ーー」

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