11 冒険者協会

「そうか、なら協会について説明していくぜ。簡単に言えば――」


 個人が武力を持つことを、冒険者という名前を与えることで認めるための組織といったところか。


 冒険者という言葉自体が協会に所属している者を差しており、その活動の支援、集まった情報の精査、統治者との連携など、多岐たきに及ぶ業務がある。

 中でも、個人では基準を設けにくいものに『ランク』を設定することで、冒険者の戦力や信用、発生した問題の規模等を正確に評価することが主要な目的らしい。

 元々は、冒険者達が活動を円滑にするための互助会だったらしいが、規模を広げていった結果、国をまたいで認められる組織にまで成長したようだ。


 そこまでして信用が求められるのは、国の管理下にある戦力だけでは魔物の被害を抑えきれない為だろう。

 管理外に武力が集まるのは怖いが、認めざるを得ないので、冒険者として協会に管理させたい。という統治者の本音が透けて見える。

 

「冒険者の評価項目は『戦力』『信用』『知識』の三項目だ。戦力はA+からC-とDからFまでの十二段階、信用と知識はAからFまでの六段階。総合的な評価が、一般に冒険者ランクって呼ばれてるやつだ」


 戦力がややこしい。なぜA、B、Cにだけプラスとマイナスをつけたのやら。


「言いたいことはわかるぜ。昔は戦力も六段階だったらしいんだがな、Cランク以降での格差がありすぎたんだとよ」


 さもありなん。私が思いつく範囲ですら、六段階での評価は無理があるとわかる。

 しかし、戦力をランク付けときくと、私やイリーナなどの位置づけが気になるところだ。


「冒険者以外もな、腕の立つ奴はほとんど戦力評価をされてるもんだ。ガディアスの嬢ちゃんはBランクだったな」


「はい。ティアミス所属の騎士は皆、マノス殿による測定を受けていますので」


 かなり強いと思っていたイリーナでBランクなのか。となると、それより上位の人間というのはどれ程いるのだろうか。


「ちなみにだが、ティアミス内だと、侯爵と俺、冒険者の一人だけがA-ランクだ。国内でもA-ランクは一○○人もいねえはずだぜ。Aランクは二人だけで、A+ランクに至っては数百年現れてねえ」


 少なすぎるだろう。一定以上の実力差があると、数の暴力が意味をなさないこの世界において、国が成り立っているのも不思議に思えてしまう。


 


「私やマリーはどう扱われるのかしら」


「ここで俺が聞きたかったことに繋がる訳だ。溢魔スタンピードを焼き払ったあの爆発。あれはアンタの仕業なんだろ?」


 なるほど、溢魔スタンピードの対応には冒険者も駆り出されていたと聞いているし、冒険者協会が爆発について確認したいと考えるのも当然だろう。


「そうよ。でも意外ね?侯爵はしばらくだんまりだと思っていたわ」


「侯爵の野郎は渋りやがって聞き出せなかったんだがな、教会に聞いたらアッサリ答えが出てきたもんだから驚いたぜ」


 ああ、カレンは事の顛末を全て見ていただろうから、私のことを知らしめる為にも教団を使って積極的に吹聴ふいちょうしていることだろう。


「あんな爆発、今まで見たことも聞いたことも無いが、ありゃ魔法か?」


「『プロメテウスの火』自作の魔法よ。といっても効率が悪すぎるから完成には程遠いわね」


 改善点を踏まえた改良は既に進めているので、次はもっと大規模なまとが欲しいものだ。


「……念のために確認しておくが、その魔法は再現できるか?もしくは、魔法に関する同程度の技量を示してもらうことは可能か?」


 面白い。


 飄々ひょうひょうとした様子が生来のものなのかは知らないが、これで仕事には真面目なのであろう。失礼な態度を取ることすらも、私という存在を見極めやろうという意図に思えてくる。


 急に下手に出てくるあたり、きっと爆弾でも扱っているつもりでいるのだろう。


「いいわよ、ここで再現しましょうか?街が無くなりそうだけれど」


「勘弁してくれよ。疑っちゃいねえんだけどな、確認も取らずに報告上げるわけにもいかねえんだよ」


 クスクスと笑いながらからかってやると、かなり焦った様子で弁明する。礼節にこだわる気はないが、線引きを探られるのも面白くないものだ。


「ならこうしましょう?あなたは私の技量が見たい。私はA-ランクの実力がどれ程のものか興味がある」


「おいおい……裏に練兵場れんぺいじょうはあるけどよ、剣で打ち合うくらいしか想定されてねえぞ?」


「十分よ。周囲に被害は出さないし、即死でなければエキナがどうにかするわ」


 対人戦の経験はし、人間の最上位層の実力を知れるというのは、願ってもない機会だ。

 こころよく腹を探らせてやったのだ。この程度の返礼はあってしかるべしだろう。


「行きましょう。本気で殺しに来なさい」

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