振り返ればあの人はいない。振り向いたらいた。


 「ねえねえ、久しぶりに遊ぼうよD男くーん」


 「あの、あんまりふっつかないでもらいますか?」


 この人はD男。わたしの彼氏である。



 「そんなこと言ったって、恥ずかしがらないでさ」


「すみません。貴方とは付き合ってません」



 見ての通り、私たち2人はラブラブである。こうして一緒に肩を組んで歩いているのも、毎日である。



 「ねぇ、キスしようよ」


 「できません」



 なんで断るのかなぁ。彼女のお願いをいつも聞いてくれない愛しの彼は、今日も拒む。デートの誘いだっても、映画を見るのも断られる。ほんと困っちゃうわ。



 「あの、僕は幽霊なのに貴方はどうして付き纏うのですか」



 いやぁ、わたしは昔から霊感があって。こうして体が浮いてるD男の霊体みたいなもんでも、抱きしめることができるんですよ。幽霊フェチ、てやつですよ。この冷たい感触が、堪らないんですもの。



 「じゃあ、どうしたら付き合ってくれるの?」


 「……そうですね。僕の未練を解いてくれたら考えやってもいいですよ?」



なにそれ簡単じゃん。やったぁ!!これで念願の幽霊セックスもできるぞ!!



 「その前に前払いとしてキスを!!」


 「とりあえず、ついて来てください」



わたしの願いを無視して、D男が連れてきた場所は、とある廃アパートだった。ジメジメとして寒いし、早く帰りたくなる嫌な感じ。使われてない部屋とか、穴だらけの壁とか見てて気味悪い。



 「ねぇ、ここに連れてきて何の意味があるの?」



わたしの質問に、D男はいつも以上に真剣な顔で見ていた。やだぁ、そんなに見つめられるとドキッとしちゃう。



 「単刀直入に言います。僕はゲイです」



 ……はっ?えっ、このタイミングでカミングアウト?



 「貴方は僕に一目惚れして、僕がゲイだとわかった時に、この場所で撲殺したんですよ。忘れたんじゃありませんよね?」



 「忘れてないよ?」



 だって初恋の人が同性愛者なんて、ノンケのわたしにとっては死活問題だからね。だから、霊感のある能力を使ってゲイから幽霊にすれば、ノーマルに変わること間違いないじゃない。



 「それで、わたしに復讐するの?」


 「ゲイだけで殺された僕の怨みは復讐では収まりませんよ」



 彼はポケットから写真を取り出して、わたしに見せてきた。写ってる紙には、D男ともう1人知らない男がいた。



 「ねぇ、そんな些細なことはイイから早く未練を叶えて付き合ってよお。もう貴方はゲイじゃなくて幽霊なんだから」


 「いえ、未練は解けました。後ろを見てください」



 えぇ、後ろ?彼の言う通りに振り向くと、写真に写っていた隣の男が、私の首まで金属製バットでフルスイングした。


 あー、そうか。2人は……。



 「知ってますか?幽霊てのは愛さえあれば通じ合えると」



 そこは盲点だったよ。あー、首が180度と曲がって、私の背中が見えるようになってるよ。

 わたしが振り返れば彼はいなかったのに、後ろを振り向くと笑顔の彼がそこにいた。


 なんだ、好きな人の前ではそう笑うんだ。


 わたしにも、その笑い顔を見せて欲しかったなあ……。


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