同棲──④

 俺じゃん!

 俺じゃん!!

 俺じゃん!!!


 画面に映ってるの、俺じゃんッ!!!!



『俺、丹波裕二はああああああああ!! 同じクラスの柳谷美南さんのことがあああああああ!!』


『『『おおおおおおおッッッ!!!!』』』


『……結婚したいほど大大大ッ、大好きだああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!』



「いやああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?!?」


「やったあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」



 テレビの絶叫!

 俺の悲鳴!

 柳谷の歓声!


 カオス!


 これだけでも手が付けられないのに、次にテレビに現れたのは柳谷。



『えっと……17歳高校2年生、柳谷美南と申します。……本当は、この場を借りてある男の子への想いをぶつけようと思っていました。でも……それはやめます。……彼が勇気を出してくれたことへの、返事をしたいと思います。……丹波裕二君』



 テレビの柳谷が俺を呼び、俺は両親祖父母に背中を押されて前に出た。


 くそっ、あの時前しか向いてなくてわからなかったけど、あの4人とんでもなくウザい顔してやがる!


 俺を見下ろす柳谷。

 柳谷を見上げる俺。

 その光景は、まるで女神から祝福を受ける村人のような構図だった。


 え? 騎士じゃないのかって? 俺が騎士なんて、世の中の騎士様に失礼すぎるだろ。騎士様に謝りなさい。


 って今はそれどころじゃなくて!!



『……丹波裕二君』



 あぁ……やめ、やめろっ! これは……これはっ!



『私も……私も大大大、大好きです。私と……結婚してください』



「地上波あああああああああああああああ!!!!」

「世間公認夫婦キターーーーーーーッッッ!!!!」



 がっっっっっくり。

 いや、地上波で公開プロポーズって……顔面露出って……。


 その後、代わる代わる出てくる目撃証言。


 ビックリした。

 可愛かった。

 おめでとう!

 計画? いやぁ、あの反応を見るに偶然居合わせたんじゃないかなぁ。

 等々。



「ふっふっふ。偶然じゃありません。愛ゆえにストーキング、です!」



 愛が重すぎて草も生えない。



『いや〜、やるなぁユウ。あっ、そこに美南嬢もいるのか? おめでとう!』

「高瀬君、ありがとうございます!」

「と、冬吾。これ色々とまずくないか? ほら、柳谷って読モで認知度も高いだろ」

『ああ、問題ないと思うぞ。ヤナギヤ家具の公式ツウィッターアカウントで、社長自ら公認してるわけだし。美南嬢の所属事務所も、オーケー出してるぞ』

「なんだって!?」



 通話を繋いだ状態でツウィッターを開く。

 ヤナギヤ家具、ヤナギヤ家具、ヤナギヤ家具……あった!

 つらつらとお堅い長い文章。

 要約すると、父親かつ社長の俺が認めるんだからお前らとやかく言うなよ、みたいな感じ。


 更に柳谷の所属事務所。

 弊社専属の読モではあるけど恋愛禁止ではないし、認めちゃうYOみたいな的な。


 これ……絶対裏で柳谷パパ動いてるじゃねーか……!?



『ま、明日始業式だろ? そんときに色々聞かせてくれ。じゃなー』

「ちょっ、冬吾!」



 ……切りやがった。

 なんつー爆弾を落としていってくれてんじゃあいつは……。


 テレビを見ると、全体的に肯定的なコメントを言ってるタレントしかいない。

 ツウィッターを見ても、アンチコメは少なくむしろ歓迎コメの方が目立ってるな……ちょっと安心した。


 ぁ……腰が、抜けた……。

 倒れるようにソファーに座り込む。

 と、少し離れて柳谷がちょこんと座った。



「あ、あの、丹波君……? もしかして、私と結婚するの……いやでした……?」



 ………………………………ん?

 何を言ってるのでせうか、この子?


 俯き、もじもじ、もじもじ。


 ……あっ、まさか今の流れが、実は結婚したくなかったんじゃって思われたってこと?

 なんてこった! 完全に俺のオーバーリアクションのせいじゃないか!

 アホか俺!



「……柳谷、こっち来て」

「え?」

「いいから」



 離れていた柳谷が、俺の隣に座る。

 膝を揃え、その上に手を置いて行儀よく座る柳谷。

 そんな所作1つとっても、育ちの良さが伺えるな。

 そんな柳谷に俺も少し近づき、手をそっと握った。



「!?!? たたたた丹波きゅんっ……!?」

「柳谷。ごめん、不安にさせちゃったな。俺、柳谷と結婚すること全く後悔してないよ」



 握った手を更に包み込んだ。

 一瞬で顔を真っ赤にし、目をバタフライばりに泳がせている。



「ただ、日本全国に知れ渡るなんて思わなくて、焦ったんだ。ほら、俺って普通平均平凡な高校生だろ? ヤナギヤ家具の名前や、読モをやってる柳谷とは比べ物にならないほどの一般ピーポー。こんなに注目を浴びるのは慣れてなくて……」

「ぁ……そう、ですよね……ごめんなさい。私ばっかり舞い上がってしまって……丹波君を陰ながら見守る会現会長としてお恥ずかしい限りです」

「いやいいんだ、わかってくれたなら……って待て。なんだその怪しげな組織は」

「なんのことです?(にっこり)」



 こてん。首かしげる柳谷も可愛いなぁ……。



「いやいや、流石に騙されないぞ! なんだその会は!」

「ピーヒョロヒョロヒョロ〜」

「無駄にハイクオリティ口笛!?」

「さ、さあお皿洗いましょうかぁ〜」

「あっ、おい逃げるな!」

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