13話 俺の幼馴染と先輩が修羅場!?

 放課後、俺は速攻で教室を出て帰路を歩いていた。

 帰り道にある河川敷には学校から帰っている途中の小学生たちがランドセルをほっぽり出して遊んでいる。


 おーおー若いねぇ……。ふと年の瀬も行かぬガキ達を見ると、老害じみた事を思ってしまう。最近は公園の遊具も規制されたらしく、外で元気に遊ぶガキも少なくなっているらしいし。にしてもよくあんな土手付近で追いかけっことか出来るよなぁ……。


 まぁ川に落ちても溺れるほどで深くはないから大丈夫なのだろうけど。

なんて俺が余計なことを考えていると、遠くから見知った声が聞こえたような気がした。


 ……気のせいか。

 振り返ることをしないで先に歩こうと決意するものの、明らかに状況がおかしいことに気が付いた。何故なら叫び声は次第に大きくなっているのである。即ち声主が俺に近づいているに他ならない。


「待ってよハル君~!!」


 ……げ、七宮じゃねーか。

 振り返ると俺の視界に幼馴染の姿が映る。

 彼女は走って俺の方に向かってきて、そのまま勢いを止めることはなかった。


「ハル君やっと捕まえた~!」


 ガシッとと七宮が俺の腕を握って拘束してくる。痛ぇっつの。


「何なんだよ急に……つーか離れろよ」


「なっ、その態度は酷いし! あたしは必死にハル君追いかけてきたのに……というかハル君が同じ学校で同じクラスだなんて聞いてないし!」


「そりゃあコッチの台詞だっつーの。んで何、俺に何か用? どーせ明日も会うんだし、席も近いんだから何時でも話せるだろうが」


「そんな事ないし! ハル君、授業中は寝てることも多いし、話しかけても無視するじゃん。それに中休みも話しかけづらいオーラ放ってたし……」


「そうか? まぁそういう日もあるだろ」


「とぼけるなんてズルい……というかハル君ぼっちなの? クラスの誰とも話してなかったし」


「うるせぇ、放っとけ」


 ボッチじゃなくて孤高だっつーの。

 俺は踵返してその場を後にしようとする。

 すると七宮が俺の背中に向かってこう口にした。


「待ってよハル君、まだ話は終わってないし」


「んだよ……まだ何かあるのか?」


 今日は早く家に帰って仕事絵書かねばならんのに……。

 俺が振り返りながら問い掛けると、七宮がとんでもないことを言い出した。


「ハル君は前に居た女の人と付き合ってるの?」


 ……どうしてそうなった。


「な訳ないだろ」


「嘘だし! 絶対ハル君嘘付いてるもん! 本当のことを話さないなら学校中に言いふらすし!」


「お前……それはマジで止めろ」


 仮に藤原先輩と付き合っているなんて噂を流されてみろ。俺はともかく彼女に対する風評被害が酷いことになる。周りからあーだこーだ言われるのは一番避けたい事だ。


「だって同居してるんでしょ? そこまで仲が進展しているならやる事もヤッてるだろうし……」


 顔を染めながら七宮がそう口にしたせいで、色々と想像してしまった。

 確かに藤原先輩はちょっとからかい上手でエロい所もあるけれど、流石に一戦は超えていない。


「お前何言い出してんだよ……俺と藤原先輩がそんな乱れた関係な訳ないだろうが」


「ならどうして一緒に買い物してたし!」


「それは……」


 どうやら七宮には俺の家の事情って奴を話した方が良いのかもしれない。

 親が再婚して俺と藤原先輩が血の繋がってない姉弟になった事を言えばそれで済む話である。出来れば学校の人には知られたくなかったが、彼女だって仲の良いポニーテール先輩には打ち明けるって言っていたし、俺も幼馴染である彼女なら問題はないはずだ。


「……実は俺と藤原先輩は血の繋がってない姉弟なんだ」


 俺がそう言った瞬間、七宮が大きく目を見開いた後に暫く沈黙した。

 その直後、彼女がこう口にする。


「……絶対嘘だし、ハル君の言う事信用できない」


「そう言われても事実だからな……」


「ならあの女の人に会わせて欲しい! あの人の口から言われたら認めてあげるし!」


「はぁ……でも藤原先輩は生徒会で忙しいからな」


 今から学校に戻るのも面倒いし、明日以降なるべく人気のいない所に呼び出すぐらいしか方法は無いな。いやでも学校内で親が再婚して同居する事になったなんて話をするのはリスクが大きい気がする。と脳内で俺が考えていると、七宮がこう口にしてきた。


「違うよハル君、今日会わせて欲しいって言ってるの。あたし、今から家に行くから」


「……は?」


「もう決定事項だし! じゃあハル君、家まで一緒に帰ろ?」


 ふっと破顔しながら七宮が俺の腕に絡みついてくる。仕草自体は可愛いのだが、それは絶対に逃がさないという意志表示に他ならない。


 ……マジでどうしてこうなったし。


 でもここは彼女の言う通りにしないと噂とか広められたら困るしなぁ……。

 仕方ないので俺は諦めて彼女を家に連れていくことにした。


 ※※※※               

 

 その日の夜。


「たっだいま~!」


 俺が家の洋室で座り込んでいると、玄関の方から藤原先輩の声が聞こえてくる。

 どうやら彼女が家に帰ってきたらしい。時刻は六時半過ぎである。

 やがて彼女が部屋に入ってきたので、俺は労いの言葉を掛ける。


「先輩お疲れっす」


「ん、ありがと……所で隣に女の子が居る気がするんだけど気のせい? まさか立花君浮気!? 酷い……私というものがありながら」


 七宮の姿に気が付いた藤原先輩がわざとらしく拗ねた様子を見せる。

 おいおいマジで今その演技は悪手過ぎるって。俺と先輩の関係がクリーンだって証明するためにこいつを家まで呼んだって言うのに……。


「……やっぱりそういう関係なんじゃないですか! 貴女どういう手を使ってハル君を騙し込んだんですか!」


 キレた、遂に七宮がキレやがった……。


「そんな大声上げないでよ。隣の人に声が漏れちゃうじゃない」


 冷静に藤原先輩が対処する。それに対して七宮はぐぬぬと黙り込んでしまった。

 まるで大人と子供、二人は相性がかなり悪いらしい。

 このままじゃあ事態の収束は難しそうだと感じたので、俺は行動を起こすことにした。


「藤原先輩、ちょっといいですか?」


「ん、何?」


 俺は藤原先輩に聞き耳を立てる。


「実はあいつ、色々と勘違いして俺と藤原先輩が付き合っているって思い込んでいるんすよ。だから俺達が再婚して同居することになったって、先輩の口から説明してもらえませんか?」


「ふむふむ。なるほどねぇ、随分と思い込みが激しいタイプなんだね」


「そうなんすよ。俺が言っても嘘だって突っぱねて来るんでどうしようもない感じっす」


 結局七宮がこうして家まで押しかけてくる始末。

だから俺以外の人間の言葉が彼女には必要なのである。


「二人して何コソコソ話してるし」


 じーと七宮がこちらを見つめながらそう口にする。

 仕方ない、作戦会議はこれで終わりだ。

 俺は藤原先輩に目で合図をして、彼女に全てを打ち明けてもらうことにした。


「えっとね、先ずは自己紹介からしよっか。私は藤原千春、一応桜高の生徒会長やってるんだ。宜しくね」


「あたしは七宮咲良です……ってそんな事はどうでも良いし! 貴女はハル君の彼女かどうか聞いているんです!」


 おいおい自己紹介がどうでもいいことないだろ、七宮はせっかちすぎる。

 まぁ取り敢えずこれで藤原千春が再婚したことを話せば問題は解決である。

 そう思っていたのだが……。


「実はね……こんな事言うのは恥ずかしいだけど、私と立花君は許嫁なの」

 ……。は?


 あろうことか藤原先輩がそんな事を言い出した。

 これはまずいだろ……。


 恐る恐る七宮の方を見ると彼女は身体をプルプルと震わせていた。


「ハル君」


 名前を呼ばれた。声のトーンが低すぎて恐怖を感じたのか、俺の全身に悪寒が走る。


「何だよ……」


 恐る恐る俺は七宮に返事をする。


「どういう事か説明してくれる?」


 凄まじい程の笑顔で七宮が俺に口にする。

 いや、全くそういう態度が一番怖いんすよ。分かりやすく顔真っ赤にしながらキレるならまだいい。静かな怒り、これが一番俺の胃に優しくない。

 そんな事を思いながら俺は笑いを必死に堪えている隣の藤原先輩をどついた。

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