第5話 二度目の異世界

 俺とハヤトの頭の上には【15】の文字が浮かんでいた。

 一夜でレベル15に到達したのだ。

 あれから俺たちはお互いのレベルを確認して解散。家に帰った。

 家に帰り飯を食って、風呂に入り、勉強をして眠る。

 そして朝になった。

 ケツを掻きながら起きる。

 今日は異世界に帰還する日だ。

 早寝早起きするしかない世界にいたせいか、寝付きがいいし朝もすぐに起きられる。

 起きて着替えて顔を洗う。鏡には腹筋バッキバキの男が。俺やん。


「一夜にしてこれかよ」


 さすがに異世界にいたときよりは細いが、それでも人前で脱げる体だ。

 お肌もツヤツヤ。

 やだ、レベルアップ凄い!

 部屋に帰るとスマホにハヤトからメッセージが来ていた。


【きんにく。】


【俺もだ。】


【了解】のスタンプが贈られてくる。

 どうやらハヤトも同じらしい。

 メシを食べ、学校に向かう。

 今日もまた彼女いない勢の虚無がはじまる。

 駅に向かうと停まっていたスクーターの近くに見覚えのある顔がいた。

 金髪ヤンキー、ただし女。

 昨日公園にいたサラである。


「うーっす。昨日は面白かったね」


「できれば内緒にしてくれる? キクピーにばれたら犯されちゃう」


「ぎゃははは! おもしろいやつだな。菊池病院送りだってよ」


「友だち病院送りにしてすまねえッス」


「友だちじゃねえよ、知り合いの知り合いかな。あたしは真田咲良さなださら。近くにある学校の芸術科の一年な」


 って、お嬢様学校のあそこじゃねえか。

 しかも学費高そうな学科。


「え? お嬢? 牛丼食べてみる?」


「ばーか。……今日はさ、その、菊池と一緒にいたバカどもなんだけど、許してやってくれないかな?」


「殴りに来なきゃ別に……。顔すら憶えてないし」


「そっかー。面白いやつだな。なんかあったら連絡してよ」


 咲良のIDを登録。

 母親と妹以外で初めての女の子フレンドである。

 ほら……クラスの女子はキクピーのいじめのせいで。

 ……あ、ちょっと涙出てきた。


「悪かったね。じゃあ、あたしも学校行くから」


 そう言って去ろうとする咲良に声をかける。


「あ、ちょっと待って……あの……彼氏いる?」


 なにを口走ってる!

 俺はなにを言ってるんだ!

 うきー! 俺のバカ! バカバカバカ!

 俺が心で悶絶してると咲良がニヤッと笑った。


「いないよ! 今度遊ぼうな!」


 スクーターに乗って去って行く咲良を見ながら「お、おう」と俺はつぶやいた。なにこれカッコワルイ!

 ちょっと気持ち悪い顔をしながら学校に行く。

 ちょっと幸せな気分だ。

 学校に着くと掲示板に菊池の退学の告知が貼ってあった。

 やりすぎたとポリス沙汰を覚悟したが、なにも起きなかった。

 結局、菊池がすべての罪を被り終了。

 公園でスクーター暴走させて爆発炎上という話で円満解決したのである。

 誰もかばわないし、誰も助けない。

 証言すらしてやらない。

 嫌われ者の末路よ。

 今までの行いが自分に降りかかってきたわけだ。俺も気をつけようっと。


 そして放課後がやって来る。


 俺はいつもの待ち合わせ場所に行く。

 時間厳守。レベルは充分なれど、次は帰って来られないかもしれない。

 俺たちには時間を知らせるカウントダウンが見えていた。


「シュウ、生き残るぞ」


「もちろんだ」


 カウントダウンゼロになる。

 いきなり目の前が暗くなり、気が付くと例の部屋にいた。


「ハヤト、帰ってきたな」


「だな。まずは部屋から出るぞ」


 そう言った瞬間、頭の中にシステムメッセージが響く。


【スキルポイント獲得。割り振ってください】


「スキルポイントだってよ! じゃあ催眠術と時間停止おーくれ!」


【催眠術も時間停止も現在のジョブでは取得できません】


「バカかお前は! 黙って罠解除と格闘にポイント振っておけ。俺は回復魔法に振る」


「はーいママー。じゃあ罠解除と格闘」


 格闘レベル1を獲得しました。

 罠解除レベル1を獲得しました。


「ところでポイントはいくつあるの?」


【残り98です。スキルの獲得には1ポイント消費します】


「じゃあ、罠解除に10、格闘に20振って。それと、オススメセットみたいなのってある? どれを選んでいいかわからん」


【残り68です。生存率を高める構成でよろしいですか?】


「おしおし。索敵に10振ったら、あとはオススメで」


【残り0】


「俺は神聖魔法だ。回復魔法を中心に振ってくれ。残りはお任せだ」


【残り0。スキルはリストで確認できます】


「スキルリスト」


 俺がつぶやくと、ARスクリーンでスキルの一覧が出る。

 料理に魔法に心眼に……あとは剣に投擲武器……パリピとか酒豪、鉄の胃袋なんてのもある。おいおい結構多いな。

 ほとんどがレベル1だ。

 どうやらレベル1でも使い物になるようだ。


「こっちは神聖魔法がレベル30。メイスが30。あとは料理に魔法、学者に浄化。魔力回復まであるぞ。……なんだこの嫌味っての」


「そりゃ普段の行いの結果だな」


「うるせえ!」


 ポイントを振り終わるとシステムがメッセージを発した。


【ポータル開通します】


 突如として青く光る渦が部屋に出現する。

 どうやら出口のようだ。


「じゃあ行くベ」


「先に行け。お前が死んだら別の方法考えてやる」


「へいへい。わかったよママー」


 ポータルをくぐると外に出る。

 外ってのは迷宮の中ではなく、本当に外だった。


「さーて、キャンプに戻るか決めないとな」


 キャンプというのは迷宮前に作られた軍事基地のことだ。

 そこで俺たちは管理されていた。

 一年間でも本当の意味での外をうろつくのは、はじめてなのだ。

 なぜ外とわかるのか?

 そりゃ簡単だ。

 迷宮の中とは殺気の質が大違いだ。


「ふん、外に出たか。【探知】」


 ぶんっと音が流れていくのが見えた。

 ソナーみたいなものらしい。

 下にマーカーリストがあるのでにらめっこ。

 敵対者を示すマーカーはなし。よし安全だ。


「外か」


 ここでハヤト合流。


「敵影なし。近くに村がある模様。どうするハヤト。キャンプに戻る? それとも村に行ってみるか?」


「村だろうな。日本から戻ったなんて知られたら口封じに消されかねん」


 俺はうなずいた。

 というわけでさらばダンジョン攻略キャンプよ!

 次会ったら壊滅させてやる!


 30分ほど歩くと街道があった。

 街道を通って村に向かう。

 村はすぐに見つかった。

 なんだか様子がおかしい。

 ざわざわと騒がしい音が聞こえる。

 探知を発動させると赤い大きな点が見えた。


「モンスターに襲われてる!」


 俺は槍を構え突撃する。


「あ、待てシュウ! あークッソ、蛮族めが!」


 ハヤトもメイスを手に持ち俺に続く。

 村人のおっさんの手に噛みついたクマが、そのままおっさんを振り回したのが見えた。

 俺は飛び上がる。

 とんでもない高さの跳躍。

 これがレベル15の世界。

 俺の脳にはスキルの情報が組み込まれていた。

 爬虫類のようにどう戦えばいいのか理解していた。

 俺は落下しながら槍をクマに突き刺した。

 槍がクマを貫通する。

 よっしゃ! 心臓を一突き!

 おっさんは投げ出され血まみれのまま横たわる。

 俺は槍から手を離し、ゴブリンから奪った剣を抜く。

 クマは肩で息をしながらも、俺に爪を振りかざした。

 クソ、野生動物の生命力半端ねえ!

 俺はその手に斬りつける。

 刃が骨で滑った感触が伝わる。

 だけど肉は切り裂いた。

 俺はそのまま剣で胸を突き刺した。

 そして当たり前のようにエルフ語で呪文を詠唱した。


「【雷の精霊よ。炸裂せよ!】」


 俺の剣から電撃が放たれ熊は感電した。

 雷はあっと言う間に内臓の機能を停止させる。


「グアアアアアアアアッ!」


 最後に咆吼してクマは力を失った。

 ふう、死ななかった。

 やはりレベルアップで魔法が使えるようになっていたか。

 俺は剣を振って血を落とす。

 ハヤトはおっさんに手をかざす。


「【光の精霊よ。癒し給え】」


 体が光り、血まみれで変な方向に曲がっていたおっさんの腕が元に戻る。

 今まで気休め程度の魔力しかなかったハヤトも魔力を高めていたのだ。


「ふう、これで大丈夫」


 ハヤトはそう言うとため息をついた。

 俺たちは村が設置した柵に寄りかかった。

 疲れた……まだ戻ったばかりだというのに疲れた。

 次々と村人がやってくる。

 何が起こったかは一目瞭然。

 俺が手を上げると向こうも挨拶してきた。

 休ませてくれるといいな。

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