file 05. 訓練

 この世界に来てから、1週間が経った。




 体はばきばきで、傷だらけだ。




 リアと出会った次の日から、冒険者になるための訓練を始めた。


 アールデウでの基本的な武器は、6種類。


 片手剣、大剣、双剣、槍、弓、ハンマーである。




 超有名主人公に憧れていた俺は、最初片手剣を両手に持ち、二刀流になると言った。


 現実は甘くない。


 呆れ顔のリアに半殺しにされた。


 槍や弓やハンマーを使った事もあるが、全く使えない。




 部活をやっていたおかげか、動きは悪くないと言われ結局剣になった。


 妥協である。


 剣なんてゲームでしか使ったことがないから、ぼこぼこにされてばかりだ。


 木刀を使った素振りは地獄だ。




 剣術の稽古の合間に、魔術の練習もした。魔術は、魔力を使った技のことだ。




 1番大事なのはイメージ。




 魔術はすぐに使えるようになった。


 アールデウの世界の人は、イメージを強くするためそれぞれ詠唱というものを行うらしいが、元の世界で勉強していた俺は必要がなかった。


 大学生を嘗めるな。




 魔術には、火、水、木、光、闇の5種類が原始属性と呼ばれ、そこから多くの属性が派生している。


 人によって得意不得意はあるが、誰もがどの属性も使えるらしい。


 きっとイメージ出来るかどうかなのだろう。


 元の世界に帰る方法も意外とすぐ見つかるかも知れない。




 こうして約1週間、リアと剣術と魔術の練習をしてぼろぼろの俺が完成した。




「もう、痛いのやだ」




 リアがむっとした顔でこっちを見る。


 小さい声で言ったつもりだが。聞こえてしまった。




「男なんだから文句を言わない。早く立つ」




 男女差別だ。心で伝えた。


 でもかわいい子に言われると悪い気はしない。




「なー、リア。そろそろ俺も冒険者ギルドに行って良くない?」




 アールデウのことを学ぶにはそろそろアグロス村では限界だった。


 ミリューなら新しい知識を学べると考えていた。




「確かに剣術はあれだけど、魔術は使えるようになったからいいかもね」




 変な気を遣わせてごめん。


 剣を振ってると、高校のころ毎日バットを振ってたことを思い出す……。




「なら、明日にでも――」




 リアが食い気味に割り込む。




「明日、アグロス村の近くの魔物を倒してから決めましょ!」




 この近くにも魔物はでるのか。


 なら経験するのも悪くないか。




「分かった。でもこの近くで魔物見たことないよ?」




「ちゃんといるよ。でもアグロス村のあたりは弱い魔物がほとんどだから、村の人でも倒せるの」




 クエスト依頼するような敵じゃないということか。


 それでも少しわくわくする。




「じゃあ今日はこの辺にしましょ。明日はデイビスの家に13時に迎えに行くね」




 リアはそう言うと宿に戻っていった。




 ――ガチャ。




「ただいま」




 俺はアグロス村の人の手伝いをしてデイビスの家に帰った。


 この1週間でこの村の人ともだいぶ仲良くなった。




「おかえり。今日もぼろぼろだな」




 デイビスは俺を見るなり笑って、そう言った。




「そういえばデイビス。ちょっと試したいことがあるんだけどお風呂借りてもいいか?」




 魔術もだいぶ慣れてきたし、やってみる価値はある。


 それは。水風呂地獄からの脱出!


 今までずっと寒い思いして頑張った。




「いいけど。なにするんだ?」




 このお風呂はただの木の桶のようだか、そこに水属性の魔術が組み込まれているらしい。


 そのおかげで魔力を流して自由に貯めたり乾かしたりできる。


 ならここに火属性を組み込めれば……。




「まあまあ、見てなって」




 イメージ。お風呂。水に火を加えて。ちょうどいい感じに。




 ファン! シューーーー! ピカッ!!




「お、おい。なにをした! 壊してないだろうな」




 見た目には何の変化もないか。


 ほんとに成功したのか?




 お風呂にいつものように魔力を流した。




 ザバーン! モクモク。




 いつもの水。でも煙が出ている。


 もしかして!!!


 お風呂に指をつけた。懐かしい温かさだ。




「よし! 成功したぞ! これでちゃんとお湯につかれる!」




 俺はアールデウに来てから1番はしゃいだ。




「リュウ、お前すごいな。お湯にしたのか。でもなんでだ?」




 デイビスは目を丸くしていた。




「なんでってお風呂といえばお湯だろ」




 俺がそう言っても理解していないようだった。


 話を聞くとどうやら、お風呂=お湯という考えがないという。


 そんなのに入るには、アクアという全種族の中立街に行くしかないらしい。すごく損している。




 久しぶりに気持ちのいいお風呂に入った俺は、明日に向け早めに寝た。






「おはよ! リュウ」




 楽しみで集合より少し早く家を出たが、リアはもういた。




「おはよ」




 リアは見慣れないかごを持っていた。


 ポーションだろうか。




「リア、それなに?」




 リアはかごを隠しながら答えた。




「ひ・み・つ」




 隠す必要あるか?


 最初からポーションに頼るなって事か。




 早速、2人で魔物のいる村の外へ向かった。




 そういえば、アグロス村から出るのも久しぶりだな。


 ドラゴンに襲われて以来か。


 嫌な記憶だ。




 ――カサッ。カサカサッ。




 何かいる。


 咄嗟にデイビスからもらった剣を構えた。




 ポヨンッ




 こ、これは!


 見たことがある! いや、本物は初めて見る。


 この曲線! 青色! 動き方!


 王道RPGでよくいる最初の敵。




 スライム!!!




 感動していた。


 するとスライムが向かってきた。




 シュッ!!




 倒れるように交わした。


 意外と速い!




「リュウ! 気を抜かないで! それはスライム・アクア! 強くはないけど動きは速いよ!」




 アクアってことは水のなんかなのか!?


 弱いなら俺でも倒せる!




 剣でスライムに斬りかかった。




 シュバッ! ブン! シャキン!




 スライムは粉々になった。




 なんだ楽勝じゃん。


 リアに笑ってピースした。


 リアの様子がおかしい。




「ばか! スライムはまだ死んでない!」




 粉々になったはずのスライムがみるみる再生していく。




 ニョ……ウニョ……キュ……ウニョョョョ。




 なんで!?


 今斬ったよね!? 生き返った!


 実は強いのか!?




「魔術を使って。スライムには核がある。それを壊せばスライムを倒せる。でも小さすぎて剣じゃ切れないの」




 それを先にいえ!


 つまり、スライム全体を一気に攻撃すればいいんだな!




「分かった!」




 イメージ。


 一気に潰す。重力をかければ潰れるか。


 地球と変わらずに生活できるということは、アールデウも地球と同じだろう。


 重力は、地面に寄っていく力、物体を引き寄せる力。万有引力と自転による遠心力の合力!




 潰れろ!




「反重力≪グラビティ・コントロール≫―10G―!!!!!」




 ゴゴゴゴゴゴゴ……。




 キ……キュュュュュュュ……。パリンッ。




 何かが割れた。


 スライムが消えていく。




「リュウ! もういい! 倒したよ!」




 どこからかリアの声がした。


 魔力を使うのをやめ、後ろを見るとリアが苦笑いしている。




「やり過ぎだよ……。このくらいの相手なら火球火球ファイア・ボールくらいで十分だよ」




 そう言われてもまだ赤い火しか出せないんだよな。


 もっと頑張んないと。




「ごめん、ごめん。あんまり自信なかったから。でもあれくらいなら俺でも倒せることが分かったよ。スライムっていろんな種類いるの?」




 スライム・アクアって言ってた事を思い出した。




「スライムは、属性によって姿や特徴が変わるの」




 いろんなスライム。見てみたい。


 でかいのもいるのかな……。


 顔がにやけてしまう。




 その後もスライム・アクア、スライム・リーフ、バイトウルフ、スモールタイガーなどいろんな魔物を倒した。


 いつの間にか、日も落ちてきた。


 夕陽をちゃんと見たのは元の世界でもあまりなかったな。




「今日はこんなとこかな。行きたいとこあるんだけどいい、かな?」




 夕陽のせいかリアの顔が少し赤く見える。




「いいよ」




 山に入り、少し歩くと、開けた場所に着いた。




「ついた! ここに連れてきたかったの」




 風が吹き抜ける。


 言葉が出ない。


 その景色に胸を打たれた。




「どう? ここ私のお気に入りの場所なの」




 まっすぐその景色を見ながら答えた。




「すごい。俺、好きだ」




 リアの落ち着きがない。


 見なくても分かる。


 その理由に、すぐに自分で気づいた。




「い、い、いいいや。そ、そういう意味じゃなくて! これ!この景色のこと!」




 焦って訂正した。




「わ、わ、分かってるよ!」




 顔を真っ赤にしたリアがそう答えた。




 お互いの焦ってる姿に、2人とも笑った。




「これ作ってきたの。宿の厨房借りて。一緒に食べない?」




 リアは、今日ずっと持っていたかごを出した。


 掛けてあった布を取ると、サンドウィッチが入っていた。




 これ、ポーションじゃなかったんだ。




「ありがとう。いただくね」




 近くの岩に2人で座って食べた。




「おいしい。これ、すごくおいしい!」




 すごく嬉しそうな顔をしている。


 なんだか俺も嬉しくなる。




 暫く2人でくつろいだ。




「じゃあ、帰ろっか」




 人は、山道を降り、アグロス村に帰った。




「リュウ! 明日なんだけどちょっと話があるの。だから私の宿にきてもらってもいいかな?」




 話? なんだろう?


 もしかして……。




「分かった。いつもの時間にいくね」




 そう言ってお別れをした。


 部屋に戻ると疲れがどっと押し寄せてきた。


 アールデウの洗礼を受けた気がした。

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