平凡大学生の異世界将来設計!

狼谷蒼海

第1回 レポート提出

file 01. 日常

 ――ピピッ! ピピッ! ピピッ! ピッ! 




 眠い。眠すぎる。あと5分だけ。




 嫌なほど聞き慣れた音と葛藤が1日の始まりを押しつけてくる。




 何ということもない毎日を淡々と過ごしていた。


 中学、高校共に勉強と部活漬けの青春を過ごし、国立大学の理系に進学した。大学に入学してからは一人暮らしを始め、もうすでに4年の冬を迎えていた。


 友達は多い方ではないがちゃんといる。狭く浅く関係を作るタイプだ。少し前までは彼女もいた。振られてしまったが今は独り身の生活にも満足している。これは、断じて強がっているわけではない。


 家族は尊敬できる両親に、運動神経の良い妹1と頭のいい妹2がいてみんな仲がいい。妹たちとは外見も性格も全くというほど似ていないと言われるが、1つだけ共通点がある。みんな漫画好きである。とはいっても、妹1と俺は最近はまりだしたばかりで、最近できた共通点だ。


 こんな感じで別に自分の人生には特別なことは何もなかった。全国の大学生の平均的な人生の歩み方であろう。やりたいことを見つけた訳でもなく、なるようになると身を委ね、決められた道を逸れないように歩く、そんな人生だ。だからといってこの人生に不満があるわけではない。ただ何かきっかけがあれば変われる、自分の特別を見つけられる、そう考えていた。


 いろいろ考えながら学校の準備をしていると、なにやら壁時計がいつもよりも進んでいる。




 ――――遅刻だ。




 玄関のドアを開けると一瞬、きらきらした何かが部屋に入っていくのを感じた。とっさに周りを見渡す。




「気のせいか」




 俺は、急いで学校に向う。




「おはよう、琉」




 同級生の将だ。割とイケメンで頭が良くていつも勉強を教えられている。だが重度のアイドルオタクである。




「将、おはよ!」




 大学ではほとんど毎日実験をするので、白衣は友達だ。いや家族と言っても良い。いろんなファション雑誌に白衣を取り入れた理系のおすすめコーデなんかも提案できる自信がある。そしたらいつか、定番人気アウターの1つになるかも知れない。




 お昼の時間にふと今朝の事が気になり、将の目をじっと見て質問する。




「将って妖精とかみたことある?」




 我ながらよく分からないことを言っている。




「は? どうした? 漫画かアニメの見過ぎで頭おかしくなったのか。ほどほどにしろよ」




 お前にだけは言われたくない。いつも家に行くと推しのアイドルのライブを見るどころかただずっと流してるだろうが! 心の中で叫んでやった。


 やっぱり気のせいか。そう確信した俺は、笑いながら指を指して返事をした。




「だよね。魔力に目覚めてる展開かと思ったんだけどなー」




 それからいつも通りにこの日の学校を終えた。帰宅後、将に呼ばれ、少し家に行った。


 将が珍しくテレビでニュースを見ている。明日は雪が降るかも知れない。その光景に違和感を持ちながらテレビを眺める。




「――で、原因不明の火災がありました。住人に被害は出ていません。原因については引き続き警察が、放火の可能性を視野に入れて調査行っています。」




 なんだかテレビに映る風景に見覚えがある。すると将がこちらを向いて、




「琉ー。これってすぐそこだよな。あそこの角曲がったとこのコンビニの向かいの」




 思い出した。確かにそこだと確信した。




「あそこか。放火だったら怖いな」




 なぜか少し胸がざわつく。今朝のあの光が思い出される。あれは本当に気のせいだったのだろうか。唐突に不安になった俺は早めに家に帰ることにした。




「もうそろそろかえるね。将、またね」




 将はにやにやして返事する。




「今日はやけに早いな。なんだ? 怖くなったか? びびりめ。 またな」




 いろいろ言うくせにいつもすんなり帰してくれる。そういうあっさりしているところは気が合う。


 帰る途中のコンビニで夜ご飯とおやつと飲み物を買った。これは不健康な食事でなどではなく、コンビニ本来の便利さを最大限に活用し、あえて欲望通りに動くことで、心までもが満たされる素晴らしい食事なのである。




「ただいま」




 いつものように誰もいない家に挨拶する。


 靴を脱いで顔を上げると、何か光が通ったように見えた。




「え?」




 気になって恐る恐る家の中を確認して回った。特に何もない。




「なんだ? 疲れてんのか。早めに寝るか」




 まだ火曜日だから土日で貯めた体力が残ってるはずなのに。高校生の時みたいにはいかないな。そう数年前のことをつい最近のように考えながら寝る準備を済ませ、ベッドに入った。




 ……ポワン…………ピカ……ポワワ……ピピ……シュン……ピカ!!!




 なんか明るい気がする。外かな。車の光か? 夜中だぞ、何時だと思ってんだ。よっぱらいか。いつまで飲んでんだよ。などと内心ぼやく。


 だが、睡眠に勝てるものはない。光が気にならなくなり再び熟睡した。




「ナマエ、ヤエガシリュウ、セイベツ、オトコ、スキル…………」






 ――――風が吹く。




「んー、眠い。寒い。眩しい。固い。……ん?」




 寝ぼけながら自分で発した言葉を疑った。固い? 間違いない。うつぶせの顔に明らかにごつごつとした固いものが当たっている。俺の知っているベッドは、柔らかくふかふかで幸せな空間のはず……


 この瞬間すぐに、ここはベッドの中ではないと判断させられる。




「どういうこと?」




 昨日の将の家でのニュースを思い出す。


 目を開けたら死が待ち受けているかもしれない。そう思うと、目を開ける勇気が出なかった。


 ゆっくりと手を伸ばして周りを確かめる。




 ……カサッ……ジャリッ……




 草? 土? なるほど。ここは外だ。




 だがなぜだ? そんなに寝相悪かった覚えはない。そもそも寝相がいくら悪くても素面で外で寝てたなど聞いたことがない。それに家の周りに草と土なんてあったか? 多くの疑問と焦りが頭の中を覆っていく。




 見るしかない……!!




「すぅぅぅぅっ、ふぅぅぅぅ」




 深く深呼吸する。覚悟を決める。


 正座をして、ゆっくり目を開けた。




「ここ、どこ?」

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