4−2「補足できない怪獣」

「よお、20年ぶりだな櫻井。ずいぶん姿が変わっちまったようだがな」


 その声に顔を上げてみれば筋骨隆々の外国人男性が立っていた。

 白髪と白いひげから初老ぐらいの年齢に見える。


『各支部指定のスマートフォンには転送機能が備わっていてな、こうして怪獣が出現した際、すぐに現場に駆けつけられるようになっているんだ』


 【師匠】の言葉に男性の手元を見ると点滅するスマートフォンが見えた。


『…もっとも、この機能も最初にできたものではない。先代が【上】と約束し、転送後に怪獣の持つ固有能力を拡張機能として使えることになったことがきっかけだ。以来、こうして怪獣を転送するたび徐々に機能を増やせるようになった』


 そして、【師匠】は男性に話しかける。


『久方ぶりだな、ジョン…射撃の腕は健在か?』


 すると【師匠】にジョンと呼ばれた男性は豪快に笑い、奥の板を指さした。


「あれが最近撃ち抜いた的だ。スコアも年とともに上がっているよ」


 【師匠】は『そうか』と続ける。


『それなら安心だ…じゃあ、今回の怪獣の元へ連れて行ってくれ』


 言われて部屋の奥へ目を向けた私は驚いた。

 …そこには人型の周囲だけを綺麗に撃ち抜いた的があった。


 「ここは【財団法人・スターライト】の第21支部・通称【軍艦モンスター】。対怪獣用に造られた大型巡視艦だ、こいつで海の怪獣を探るのが俺たちの仕事なのさ」


 ジョンの案内で甲板へと向かうと、大型のヘリコプターが待機していた。


 ここまで来て、私はまともに挨拶もしていないことに気がつき、口を開けようとするも先にジョンが話し出す。


「奴さんはこっから数キロ先の海を泳いでいる…が、どうも動きが妙でな。先程から動きを監視しているが、どうにも行動パターンがつかめない」


『…暴れている感じなのか?』


 【師匠】の問いにジョンは「うーむ」と顎に手をやる。


「まあ、見てもらえば早いな…えっと佐々木さんか?俺のことはジョンでいい。今日は1日櫻井と一緒にこの船とフライトを楽しんでくれ」


 私は「…あ、ハイ」と恐縮しながら頭をさげるが、そこで初めて気づく。


「え、フライト?」


 …そして数分後。

 私はヘッドフォンをつけ高度1000フィートの上空にいた。


「ええええ!?」


 昔の映画で見た限りヘリコプターはもっと揺れるものだと思っていたが、今のヘリは乗り心地が改善されているらしく、あっという間に上空へと移動する。


「ヘイ、見えるかい?あれが今回の怪獣だ!」


 操縦席にいるジョンの言葉に下を見れば…なるほど、鯨のような生物がいる。

 しかし、それが本当に鯨かといえば自信がない。


 銀色の光沢ある頭部。白く薄い体は角張があり、脊椎が飛び出たような尾の先には四角い尾ひれのようなものが付いていた…だが、それを眺めていると怪獣の周囲に白っぽい粒のようなものが浮いていることに気がついた。


『…周囲にいるのは魚で腹を出して気絶しているようだ。おや、奴さんはこれから捕食に入るようだ。窓越しでも撮れる位置だし、チャンスだぞ!』


 【師匠】の声に私はスマートフォンのカメラを素早くアップにして構える。


 角ばった怪獣の上あごが大きく仰け反るように開き、海水ごと周囲の魚を飲み込んでいく。そして、カメラを向けたことで画面内の青いグリッド線の中に怪獣の姿が見える…はずだったのだが。


「あれ、ズレた?」


 私は慌ててスマートフォンと目の前の海面を見比べる。

 怪獣の位置が先程よりも10メートルほど離れていた。

 

 もう一度スマホを構えるも、また別の場所にいる。

 その後も数回海面の上にカメラを向けたが…なかなか捕縛ができない。


 私は上手くいかないことに焦り始め、次第に手に汗が伝っていく。


 すると、ジョンさんが私の方を向きとっさに文句を言われると身構えたが彼の口から出てきたのは意外な言葉であった。


「なあ、変だろ櫻井。まるで奴さん瞬間移動でも持ってるみたいだ」


 ジョンの言葉にしばらく黙っていた【師匠】は『…おそらくそれは違うな』と答えた。


『移動も短距離だし、ランダムにカメラを向けてさえいればいずれ捕まえられるはずだと算段していたが、奴さんはカメラにかすりもしない…つまり、ここから導きだされる答えは一つ』

 

 【師匠】は一拍置いてからこう続けた。


『おそらく、奴さんは予知能力持ちだ』

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