第30話 百合の虹と美少女たちの共演

 昨日、リュドミアの専属メイドが我が家にやって来て、リュドミア一行の所在を聞いて来た。

 一昨日の夜中、村と村をつなぐ一本道で馬車を残して全員行方知れずになったという。

 心配だ。

 私のせいではまったくないが、私と関わりのある人物が事件に巻き込まれたなんて……

 やはり、この中世ヨーロッパ風の異世界は野蛮のようだ。

 まぁ、この家の住民を見れば、この世界の異世界人が野蛮極まりないのは分かる事。


「ユリお姉ちゃん! バカンスに行こ!」


 午前のティータイムでイスに座っている私に、テルザがうしろから抱きつきながら提案した。

 あん……バカンス……?


「いあ〜ん、ばかンス!」


 私のとっさの発言にテルザは戸惑いを見せた。

 テルザにはハイレベルでしたね。

 異世界人に通じないレベルの私のハイセンスなギャグ。

 でもどこで考えたギャグなのか思い出せない。


「ユリお姉様、気晴らしに近くの湖に遊びに行きませんか?」


 リュドミアを心配している私に気遣って気晴らしに誘っているようだ。

 湖……あまり良い印象がない……なぜ?


「湖はちょっと……」


「綺麗な川と滝があって入ると気持ちイイですよ」


 エルサは私の手を取って微笑みを投げかけて来る。

 エルサってば……私に滝行をせよと言っているのですね。


「ユリお姉ちゃんと一緒に遊びたいなぁ」


 テルザも反対側の手を取って引っ張る。

 両手に花を持った私はあまりにも可愛らしさに重い腰が浮き上がった。

 アウトドアには興味ないですが二人の喜ぶ顔が見たくて一大決心した。


「分かった、分かったから行く」


 二人は大喜びで私に抱きついて来た。

 両手の花の笑みが満開に開き、元気よく私の身体に絡みついて来た。

 可愛い花たちは私を溶かし尽くす食虫植物と変化した。


「だめぇ、とろけちゃうぅ! すぐ行、行くから……すぐに行、イク〜!」



   ***



 インドアで充分、汗をかいて遊んだ私たちだが、近くの湖までさらに遊ぶ事になった。

 屋根付きの馬車に乗って、行きはエルサが私のお世話を、テルザがカガとレデイの牝馬を操って現場に向かった。


 もう夏ですから水に入るのも良い思い出になるかもしれない。

 私の地球での夏休みといえば……家から一歩も出なかったなぁ……

 この地域は私の田舎よりも暑さを感じないが、私のお世話をするエルサとの馬車の車内は熱気ムンムンだ。

 だって私を無理矢理全裸にして、恥ずかしがる私をもてあそびながらエルサは濡れても良いように水着の替わりの白い薄着のワンピースを着せるんだもの。


 馬車は三十分もかからず湖についた。

 エルサに着替えさせられた時は恥ずかしかったけど、エルサを裸にして白い薄着を着させる時は凄く興奮した。


「モウ、ユリお姉様ったら、イヤらしいんだから」


 エルサは赤い顔をしながら馬車を降りた。


「えへへ」


 ご満悦な私。

 いえ、私は百合であって百合ではない。

 そこの所を間違わないように。


 湖だ。

 それほど大きくなく、大自然に囲まれた綺麗な所だ。

 水も透き通っていて底が良く見える。 

 近くには小川とその奥には滝があり湖と繋がっている。


 あっ!

 奥の方で女性たちの声がする。

 先客がいるようだ。

 それは村の女性たちで皆んな薄着だ。

 水辺で薄着ではしゃいでいる姿は華やかだ。


「えへへ……」


 浮かれてる私にエルサは、この湖の紹介をしてくれた。


「ここは女性専用の湖です。

 食事を作るかまどや寝そべる石のベットもあります」

 

 こんな近場にそんな保養所があるなんて。

 でも……


「男性が勝手に入って来ないの」


 ほかの女性客も薄着で、私も薄着で水に濡れたら透けて丸見えセクシー姿は殿方にはたまらんはず……まさに目の保養所だ。


「マァ、その時は……ざまぁですかね、ウフッ」


「ざまぁって……」


「男より女性の方が圧倒的にざまぁの威力はありますから……イチコロです」


 エルサの笑顔でイチコロって、ギャプ萌え〜!

 新事実、女性の方がざまぁパワーは強いんだ。


「それにここ、お高いんじゃないの?」


 言ってみたいセリフを吐いてみた。


「お金なんて取りませんよー!」


 ああ、普段のエルサとは違う普通の少女の表情で私と話してる。

 ああ、幸せ……


「お待たせしましたー!」


 着替えを終えたテルザがやって来た。

 しまった、テルザの着替えを忘れていたわ! 見ぐるみ全部剥がして、くすぐり倒す予定だったのにぃ!  

 まぁ、帰りがあるでしょう。


「くびひ……」


「ユリお姉ちゃん、どうしたの?」


 私の崇高な思いに、理解が及ばないテルザは不思議そうに私を見た。

 だって私は百合であって百合ではない、ただ可愛い花を純粋に愛する乙女なのだから。


「えい!」


 薄着の可愛い花のテルザに私は純粋に抱きついた。


「ユリお姉ちゃんのエッチぃ!」



   ***



「まだ見つからないのか⁉︎」


「ハッ! リュドミア・ゴスロリスキーの所在はまったく分かりません!」


「なんとしても行方を掴むのだ、分かったな!」


 “チン!”


 軍服を着た女性は無線の有線受話器を台に叩きつけるように置いた。

 別働隊の定時連絡からは、なにも得られず時間が一刻と過ぎて行くばかりだ。

 まだ、うら若い彼女はこの狭い室内で神経質そうにウロウロと歩き回った。

 胸には勲章が幾つか付いており、武功を挙げたのか、もしくは身分の高い人物である事が分かる。

 

「もうすぐノットリダーム村の上空に入ります」


 大きな羅針盤らしき物を操作している軍服を着た中年が、若い彼女に敬語を使った。


「ウム、最後に会ったという、ここの領主に面会したい。

 名はなんという」


 軍服のスレンダーな女性は隣にいる背の低い男に聞いた。

 彼は彼女の補佐役として付き添って来た。


「子爵のマアガレット・リボンヌ、まだ二十歳の女性です。

 女性ひとりでこの村を運営しているようです。

 ……いえ最近、養女として妹を付けたようです」


「妹? 名はなんという」


 軍服の赤髪の女性は興味を持って聞き返した。

 妹の養女とは珍しいからだ。


「ハイ……そこまでは資料がありませんでした。

 あっ、待ってください!

 セバス城で行われたざまぁ大会で公爵令嬢のアンジ様に因縁を付けたそうです。

 なんと、クルミゴ国王陛下に嘘をついて困らせたようです」


「なんと恐れ多い……妹とやらは命知らずか」


 アンジに因縁うんぬんの話は、アンジ派もしくはトッシィ派が流した悪意ある情報であったが真実である。


「さらにノットリダーム村の住民からは『漏らし嬢』と呼ばれているとか」


「意味が分からんな、その妹やらは……」


 軍服の黒い瞳の女性は、その妹の存在にますます興味が湧いて来た。

 もし神聖タルタルソーニア帝国にあだなす者であれば、この自分が処分しなくては。


「艦長、リボンヌ子爵の屋敷まで進路を向けてくれ」


「ハイ、承知しました」

 

 艦長は操舵を面舵いっぱいに回した。

 この狭い艦橋では操縦も兼任する艦長だった。


「この件、姫様のざまぁ予言が当たらぬよう願いたいものだ……」


 独り言のように呟いた彼女は艦橋の窓から下を眺めた。

 下にはリュドミア達の馬車が通った道が見える。

 軍服が似合う女性は飛行船に乗ってやって来たのだ。



   ***



「キャッキャウフフ」


 “じゃばっじゃばっじゃばっ!”

 

 楽しい! 水の掛け合いだけでもこんなに楽しいなんて!

 私は全力でエルサとテルザに水を掛けた。


 “じゃぱーんじゃぱーん!”


「キャッキャウフフ」


 かまどのあるキッチンでは、なんと村の娘たちが私のために料理を作ってくれるそうだ。

 石のベットにもふわふわのも毛布を用意してくれた。

 ありがたい、感謝感謝!


「ユリお姉様、向こうの川の方に魚を取る網がありますから見に行きましょう」


「キャッキャウフフ、そうですね」


 エルサとテルザの白い薄着が透けて見えてます。

 このシュチュエーションがエロくてたまらない。


「ユリお姉ちゃん、透けてまるみえだよ」


「キャッキャウフフ、いや〜ん!」


 私の胸も透けてピンクがピンと立ってます。

 私は百合ですが百合ではない。

 でも二人のミューズ、女神の透けた薄着はモロ興奮物だ。


「あっ!」


 村の娘のひとりが空を指差した。

 皆んなが指差す方へ顔を向けた。


 虹です。

 遠くの方では雨が降っていたようで、その影響で虹が出たようだ。

 

 私からはエルサとテルザの上に虹が見える。

 ああ、虹と美少女たちの共演です。


「虹は幸運をもたらすと言われています。

 ユリお姉様、ワタシたち幸せになりますよ」


「ユリお姉ちゃん、ワタシと幸せになろうね」


 二人が私の手を取り、引っ張って行く。

 虹をバックに、三人の白い薄着のワンピースの美少女が手を取って駆けていく姿はまさに、映えるー!


「キャッキャウフフ……」


 映えていたら、いつの間にか川に着いていた。

 

「お昼に食べるお魚を捕まえましょう」


 エルサが指を差す先に網らしき物があった。

 そういえばここの保養所では漁師体験が出来るんだった。


「ひょっとして、ボッタくられるんでしょ?」


「お金なんて取らないよぉー! ユリお姉ちゃんはお金の事ばっかりなんだから」


 テルザはおかんむりだ。


「ごめぇぇんちょ」


 私はテルザに頬と頬、胸と胸をすりすり擦り合わせて、ご機嫌取りをした。


「ヤン! お姉ちゃん、くすぐったーい!」

「キャッキャウフフ」


 では、さっそく網を引き上げてみましょう。

 村の娘たちも手伝ってくれた。


「ユリお嬢様、かけ声をお願いします」


 村の娘が私に声を掛けてくれた。

 嬉しい……村に大波乱をもたらした私に声を掛けてくれるなんて……


「わ、分かりました。

 い、一緒に、こ、こ、声かけをしましょう」


「はい!!!!!」


 エルサもテルザも村娘と一緒に良い返事を返してくれた。


「よ、よいしょ」

「よいしょ!!!!!」


「よいしょ!」

「よいしょ!!!!!」


 私のかけ声に皆んながついて来る。

 嬉しい……調子に乗って来た。


「良い塩!」

「よい……?????」


「グッドソルト!」

「?????」


 ああ、楽しい。

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