第27話 【勇者現るwww】


「神の座はッ、ガブリエル様が引き継ぐ! 当然よ、神がすべき事は全て彼の方が代わりにこなしていたんだから。啓示をし預言者を輩出しては、人々に神の存在を認識させこの地に信仰を深めさせてきた……それらは神の言伝というていでやってきたけど、本当は違う。全部ガブリエル様がひとりでお考えになってやってきたこと。そうやってガブリエル様が仕事をしている間……あのアホがやった事と言えば、余計なことばかり! 自分より頭のいい生き物を創るし、自分より強い生き物を創る!不死身で賢い生き物を創る! 〝神〟は、あらゆるものの頂点にいるべき唯一無二の存在であるのに、その〝神〟までぽこぽこと生み出していった!」


 火の神……というだけでも、火を司る神はこの世に沢山いる。

 〝特別〟とは、区別があってこそである。


「何を言う……この世を生み出したという、その事実だけで彼の方は頂点に君臨するに相応しい。自分より高い能力の者を生み出す……それは僻みのない、美しい心をお持ちであるということの——」


「ネェ、神サマ殺ス必要アル? アホナラ、無害ナンジャナイノ? ホットキナヨ〜。無駄ナ仕事シタクナイデース。」


 ダズビーは、マスクの口元に付いているチャックを開ける。

 剥いた茹で卵のようにつるんとした白い肌の上に、細い線で描いたようなイラストのような口。肌と同じ真っ白な歯は、インプラントのように整った綺麗な歯並び。

 どこか宇宙人を思わせる不気味な口元へ、摘んだポテトが運ばれていく。


「ガブリエル様が神になるには、今の神の死は必須なの。天界にも派閥があって、神がいる間はガブリエル様が天界を掌握することは——」


「つまり……今まで俺がお前を通じて聞いてきたのは神の言葉ではなかったと! 全て、ガブリエルの命令であったと! バレンタインの始末も! そういう事か?!」


 レヴィの独特な口調は、常に余裕を持ち冷静を保つという意識が影響したもので、興奮するとその口調は崩れる。

 割と頻繁に、彼は興奮する。


「るっさい! 声がでか——」


「ふざけるな! 神の座を狙うなど……! 見損なったぞ天使! 貴様らが神を殺すと言うのなら、俺はッッッ、命に変えてでも神をお救いする!!! お救いするぞぉおおお!!!」


 熱気のこもった声を上げながら、レヴィは勢いよく席を立ち上がると、イルメルの方へ身を乗り出した。


「……ちけぇんだ、よォッ!!!」


 イルメルは、ピザの乗った皿を思い切りレヴィの顔面へぶつけた。


「何度も言うけど、神は何もしてない! 玉座に座ってただけ! 神の行いは全て、ガブリエル様によるものなのよ! だから、あんたが崇拝していたのはガブリエル様と言っても過言ではない! 分かった?! ガブリエル様が、真の神!」


「デモサー、ガブリエル ッテ天使ノ中ジャ ナンバー2ジャナイ? 神ノ後釜ニナルトシタラ、ミカエル ジャネ?」


 ダズビーの指摘に、はんっ! とイルメルは鼻で笑った。


「立場はそうでも、天界での支持率はガブリエル様の方が圧倒的に上よ。ミカエルなんて、剣を振り回すしか脳がないんだから! 神の次に馬鹿よ、バーカ。」


 ガタン……


 レヴィが席を立った。


「俺は降りる……ドワーフウサギの小娘も殺さない。神は……俺が守る!!!」


「ちょ……待ちなさいよ! 今の話聞いても、神に味方するわけ?! あんたが思ってるようなヤツじゃないんだってば!」


 イルメルの声に耳を貸さず、レヴィは顔にピザを張り付けたまま去っていった。




 ♦︎♦︎♦︎




 フランス・パリ 夜明け前


「えー……これからおれの親友は、勇者になりまぁす。」


 髪をカラーリングして、背中に飛行機のタトゥーを入れた後だった。

 携帯のカメラを自分の方に向け、動画の冒頭を語る神。彼の背景には、ノートルダム礼拝堂の岩壁によじ登り聖剣を引き抜こうとする市原…彼は両手で剣の柄を持ち、靴裏を壁に押し付けて踏ん張り、引き抜こうとしている。

 しかし、剣は1ミリとも微動だにしない。


「イッチーの、イートコ、見てみたいーッ! ホッホホイ! ホッホホイ! テッケテケッテッテーン!モンブラン☆ モンブラン☆」


 神から謎のエールがおくられるも、状況は変わなかった。


「……うむ。我が友は苦戦しているようだ……ここは、おれが奇跡を起こしてやらねば。」


 カメラを市原の方に向けて実況する神。

 携帯画面に、神が伸ばした右手が映り込む。

 間も無くして、彼は「はぁあ〜あ……」と喉の奥から力強い唸りをあげた。


「……抜けろ! 抜けろ抜けろ抜けろ抜けろ抜けろ抜けろ抜けろ——」


 神がブツブツと呟き始めてから、1分ほど。

 突然、滝が流れ落ちるようにガラガラと礼拝堂の岩壁が崩壊した。無論、壁で踏ん張り続けていた市原も岩と共に流れ落ちてゆく——。


「なんてこった……」


 ……思ったのと違う展開だった。


 神の背中に、冷たい汗がツーッと流れた。

 次の瞬間、カメラワークはぐるぐると回る。


「イチハラ……イチハラぁあああーーーッ!!!」


 どうしようどうしよう、やばいやばい。

 つまずながら瓦礫の山をよじ登り、神は親友の名を幾度も叫ぶ。

 どこらへんに生き埋めにされたのか見当もつかず、神は適当に瓦礫を持ち上げては自分の真後ろへ放り投げていった。


 ……と、その時だった。

 神の真後ろで、ゴロ……ゴロ……と岩がゆっくりと転がる音がした。

 神がそちらを振り向くと、そこには錆びれた剣を掲げて瓦礫の上に立つ、市原の姿があった。


「おぉ……生きてたか……」


 朝日が登り、夜が明けてくる。

 白い光がゆっくりと、市原を照らす。

 その眩い光を真正面から受けているというのに、彼は瞬きをせず。目はギンギンに開かれ、太陽のその先を見ているようだった。


 カメラを構え直し、神は歓喜に唸る。


「うおおおおおお……!!! 勇者だ! この者こそがッ、勇者であぁ〜るっ!!! 勇者っ! 勇者っ! ……おれにもかしてっ! 同じポーズとる!」


 ……後に、この出来事は世界ニュースとなり、ふたりは追われる身となる。

 そして彼らのこの行いが、離れていた者たちを引き合わせるきっかけとなる———

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