27.Round1−3 Side「アルテミス」

 さて、ここで、視点をもうひとつの地球に切り替えよう。

 そして、誠に簡単ではあるが、もうひとつの地球の戦力説明をしよう。

 ややこしいので、互いの地球の月面開発のプロジェクト名で呼ぶことにしよう。


 Side「アルテミス」。

 通信テクノロジーが驚異的に進化した地球の戦力説明だ。

 すなわち、物理法則が「電磁気力」「弱い力」「強い力」そして「重力」で構成されている地球の戦力説明だ。


 月面戦争に投入された兵器は全32機。

 補給、並びに、移動型電波塔としての目的を担う、車両型兵器8機。

 火器を搭載し、敵兵力の殲滅を目的とした、四足歩行型兵器22機。

 そしてSide「アルテミス」の秘密兵器、全長50センチのドローン兵器2機。


 Round1では、これらの機体のうちの半分とマイナス1機、すなわち……


 補給、並びに、移動型電波塔としての目的を担う、車両型兵器4機。

 火器を搭載し、敵兵力の殲滅を目的とした、四足歩行型兵器11機。


が導入された。


 Side「アルテミス」の秘密兵器、全長50センチのドローン兵器は今回は導入が見送られた。



 Side「アルテミス」の戦果は悲惨なモノだった。


 補給、並びに、移動型電波塔としての目的を担う、車両型兵器4機。

 重機を搭載し、敵兵力の殲滅を目的とした、四足歩行型兵器11機。

 これらの兵器は、Round1では全く使い物にならなかった。


 補給、並びに、電波塔設置の役割を為す、車両型兵器4機は、そもそも武装がないので致し方ない。

 だが、火器を搭載し、敵兵力の殲滅を目的とした、四足歩行型兵器11機。

 これらは、Side「アルテミス」の16機のうちの、1機のロボット、及び4機のビット機関に蹂躙じゅうりんされた。

 かろうじて、4機のビット機関のうち、2機体を撃墜したが、悲しいかな、Side「アルテミス」のビット機関は使い捨ての兵器だった。


 つまり、重機を搭載した四足歩行型兵器11機は、たった1機のロボットに、一切のダメージを与ることなく蹂躙じゅうりんされたのだ。しかも、相手はAIだった。

 Side「アルテミス」の月面基地に鎮座ちんざしたスーパーコンピューター「オルカ Mark-II」による自動操縦だった。


 ただ、これらの悲惨な戦果は、正直どうでも良い。本来であれば、もっと悲惨な出来事が起ころうとしていたのだ。

 危うく、Side「アルテミス」の降伏が、早々に決まろうとしていたのだ。


 時は、4分前にさかのぼる。


 ・

 ・

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 四足歩行型兵器のパイロットのひとり、十流九とるくトルクは、かっる〜い関西弁で、見たことを、見たまま言った。そのまま言った。


「なんやぁ? あのガチャガチャ、チカチカしたカラーリングのロボット。

 休日の朝早い時間からやってる、お子様向けの特撮番組のロボットみたいやないか!」


 見たことを、見たまま、そのまま言った十流九とるくトルクは、相棒のリアクションがないことに驚いた。

 となりに座っている長身の少年、蘇我そがテンジから、一切のリアクションがないことに驚いた。


 彼らは、今、互いの表情をうかがい知ることはできない。なぜなら、彼らはVRゴーグルをつけていたからだ。遥か38万キロメートル先の月面を見ていたからだ。


 十流九とるくトルクは、嫌な予感がした。嫌な予感がしたからそのまま聞いた。


「おい蘇我そが! ひょっとして、今、大ピンチか?」


 ずっと、黙りこくっていた蘇我そがは、恐ろしいことを言った。


「ああ、このままだと、今日でゲームオーバーだ」


「はぁああ!?」


 蘇我は、恐ろしいことを言った。続けて言い続けた。


「あっちには、多分、ユウリがいる。卜術家ぼくじゅつか遊梨ゆうりユウリがいる。だとしたら、こっちの作戦と戦力は、アホみたいに筒抜けだ」 


「はぁああはぁああ!?」


「だとしたら、目の前にあるロボットの周辺に浮いてる

 なんか、三角や四角やひし型や……なんか凸凹した

 がめちゃくちゃヤバイ。アホほどヤバイ。

 は、きっとエレメントの塊だ」


「はぁああはぁああはぁああ!?」


「オレはわかる。オレがだった時の得意科目だったからわかる。

 占術せんじゅつは、得意科目だったからわかる。

 は星座だ。黄道12星座をかたどったエレメントだ」


「はぁああはぁああはぁああはぁああ!?」


が星座だとしたら、スクエアとトライアングルを描ける。星座で座標を定義して、惑星エネルギーを注入すれば、アホみたいな『エネルギーの拡大解釈』が可能になる」


「はぁああはぁああはぁああはぁああ!? ……あ!」


 話を聞くたびに、「はぁああはぁああ」言っていた十流九とるくトルクは突然口をつぐんだ。思い当たる節があったのだ。目の前にある、月面に浮いている趣味の悪いロボットを作りそうなヤツに心当たりがあったのだ。


を動かしてるんは、あっちの地球に行った厨二病か! だとしたら、多分、ホンマにヤバイ!!」


「戦闘開始まで……10……9……8……」


 イヤホンから、オペレーターの音声が聞こえてくる。おっさんのオペレータの声は、務めて平静を装って戦闘開始までのカウントダウンを行う。


「……3……2……1……ミッションスタート!」


 十流九とるくトルクは叫んだ。「多分」が「確信」に変わったから、ありったけの声で叫んだ。


「あかん! これ3Pシュートや!

 射程外から、バスケットボールが狙撃される!!

 バスケットボールを狙撃されて、月面基地が破壊される!!」


 叫び声と同時に、十流九とるくトルクの耳に、大きな物音が聞こえた。

 蘇我そがテンジが、VRゴーグルを剥ぎ取って、別のマシンを操縦するために走ったのだ。


 蘇我そがテンジは、務めて冷静に声を発した。務めて冷静に、その席に置かれてあったVRゴーグルをかぶり、明らかな命令違反を、務めて冷静に言い放った。


「せっかくだから、オレはこの赤い機体を選ぶぜ。

 バスケットボール、テイクオフ!」


 十流九とるくトルクはVRゴーグルをかけたまま、蘇我そがテンジに命令を出した。


「敵機、5時方向。前方200キロメートル! 急げ! 早く射程圏外まで、バスケットボールを移動させてくれ!!」


「余裕。モーション見てからでもブロック余裕」


 蘇我そがテンジは務めて冷静に、赤いバスケットボールの様なドローンを操縦した。

 大気のない月面で、初速にロケットエンジンを使うドローンを操縦した。

 いきなり、フルスロットルで操縦した。


 蘇我そがテンジが操縦する、月面用ドローン「バスケットボール」は、月面基地3.5キロメートル手前で、敵のロボットのレーザー砲に被弾した。いや、被弾


 レーザー砲をブロックしたのだ。核弾頭を積んだ月面用ドローン「バスケットボール」をぶつけて、レーザー砲を阻止したのだ。


 ・

 ・

 ・


 Side「かぐや姫」の作戦はこうだ。


 核弾頭を積んだ月面用ドローン「バスケットボール」の存在を、遊梨ゆうり卜術ぼくじゅつにより察知した葛城かつらぎイルカは、敵基地に格納された「バスケットボール」をピンポイント狙撃することで核爆発を発生させ、Side「アルテミス」月面基地の崩壊を狙っていたのだ。


 しかし、Side「かぐや姫」の作戦は失敗に終わった。


 蘇我そがテンジは、VRゴーグルを外すと「ウン」と頷いた。


 そして一言、


「ウン、わかった」


と言った。


 コレでもう、蘇我そがテンジは絶対に失敗しない。ドローン操作を絶対に失敗しない。月から地球まで、約1.3秒もの、タイムラグがあるドローン操作を絶対に失敗しない。蘇我そがテンジは、必ず、射程外のビーム砲をブロックできる。絶対にブロックできる。


 蘇我そがテンジは全く動揺しない。

 蘇我そがテンジは全く混乱しない。

 蘇我そがテンジは全く狼狽ろうばいしない。

 蘇我そがテンジは全く緊張しない。



 Side「かぐや姫」は千載一遇のチャンスを、未来永劫みらいえいごう失った。

 


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