第26話 友だちの助言

「先輩! おはようございます!」


 今日も琴梨ちゃんは朝から元気だ。


「おはよ」

「ほら、背筋伸ばして空を見ましょう!」

「わ、ちょっと」


 琴梨ちゃんは俺の背中をグイッと押す。


「朝の空を見てるとなんか元気出てきませんか?」

「別に。人にもよるんじゃないかな?」

「またそんなこと言って! はい、これ。お弁当です! それじゃ!」


 琴梨ちゃんはいつもよりハイテンションだ。

 恐らく昨日スズキと話をしてモヤモヤを解消したからだろう。

 余計なことをしちゃったかも。

 もう少し押さえ目に彼氏と接するといいとかアドバイスしておけばよかった。


 琴梨ちゃんの隣を歩く親友のマキちゃんは今朝も歩く生ゴミを見るような目で俺を睨んでいた。



 どうしたらアレルギーが消えるのだろう?

 うんざりしながら教室に到着する。


「はぁ……」


 椅子に座って教室を眺める。

 みんな悩みはあるのだろうけど、それでも楽しそうに毎日を過ごしている。

 思いどおりにいかないことを、みんなはどうやり過ごしているのだろう?


 受け入れて諦めるのか?

 いつか何とかしようと努力しているのか?

 代わりのなにかを探して満足しているのか?


 自分だけが大変な訳じゃないと知りつつも、やはり自分の身の上を嘆いてしまう。


「おい、藤堂」

「ん? なに、鳩田くん」

「どうしたんだよ?」

「別に。どうもしてない」


 鳩田の方から声をかけてくるなんて珍しい。


「ちょっと来い」

「面倒くさいから嫌」

「いいから来いよ」


 引きずられるように連れ出されてしまう。

 辺りに誰もいないことを確認してからオドオドした態度をやめる。


「っんだよ、鳩田」

「お前、なんか悩んでるのか?」

「は? どうでもいいだろ」

「琴梨ちゃんのことか?」

「だったらなにか? お前に関係ないだろ」

「あるよ」


 鳩田はムッとした顔で俺を睨み返してきた。

 一度ガツンといわせてからそんな目で俺を睨んでくるのは、はじめてだった。


「俺と藤堂は友だちなんだろ? 凹んでるの見たらほっとけねーだろ?」

「は? なんだそれ? いつ友だちになったんだよ?」

「はぁ? 藤堂が言ったんだろ、俺らは友だちだって。自分の発言くらい覚えておけよ。まあ友だちならもう少し暴力的なところを直して欲しいけどな」


 鳩田は笑いながら俺の肩をポンッと軽く叩く。


「あれだけ無茶苦茶してやったのに、恨んでないのかよ?」

「はじめはムカついたよ。でもよく考えたらその前に俺は藤堂に無茶苦茶してたからな。しかもその気になれば俺のことなんて軽くボコれるのに」


 鳩田が本当に俺のことを友人だと思うなんて全く予想もしてなかったので驚いた。


「で、どうした? 琴梨ちゃんにフラれそうなのか?」

「は? 違うし」

「じゃあなんで最近落ち込んでるわけ?」

「それは……」


 女性アレルギーのことも、素顔を隠していることも、両親が芸能人であることも話せない。

 相談のしようもなかった。


「まあ色々あって悩んでるんだよ。琴梨ちゃんを本当に受け止められるのかも心配だし」

「なんだそれ? あいまいでよく分からねぇな。ま、いいけど。本当は喧嘩強いのに弱いふりしてたこともあるし、なんか言いたくない事情があるんだろ?」

「悪りぃな……あんま、言いたくなくて」


 口だけじゃなくて本当に友情を感じてくれているのか、鳩田の言葉は優しかった。


「聞いた話では琴梨ちゃんはお前にベタ惚れらしいな。何がいいんだか知らないけど」

「うっせーわ」

「藤堂も琴梨ちゃんのことは好きなんだろ?」

「ま、まぁ……」

「だったら琴梨ちゃんとは真剣に向き合ってやれよ。俺とか他の奴には隠さなきゃいけないことがあるとしても、あの子の前でだけは包み隠さずいた方がいいんじゃね?」


 確かに鳩田の言う通りかもしれない。

 真剣に向き合いたいのならば、隠し事をしていたらダメだ。

 単純だけどストレートな意見だった。


「引かれないかな」

「そんなこと気にしてたら深い関係になれないだろ。そりゃ反社とかに属してるとかなら隠した方がいいだろうけど。あはは! ……って、違うよな?」

「んな訳ねーだろ」


 いまの顔は半分マジだった。

 鳩田は俺をなんだと思ってるんだ。


「もし全てをさらけ出して嫌われたらどうするんだよ」

「そのときは諦めるしかないだろうな」

「他人事だと思って簡単に言うな」

「簡単には言ってねぇし。でも考えてみろよ。ずっと嘘ついて、隠し事して付き合えるか? 無理だろ?」

「……そうだな。鳩田の言う通りだ。ありがとう」


 これ以上隠すのはやめよう。

 アレルギーのことも、本当はイケメンだということも。

 素顔を晒せば俺がスズキだったということもバレてしまうが、それは自業自得だ。


 全てを覚悟するとやけに清々しくて、心が軽くなった。

 背筋を伸ばして空を見上げる。

 確かに琴梨ちゃんが言う通り、空を見上げると元気がもらえるようだった。




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 いつも応援ありがとうございます!

 こんな問題児のラブコメなんて人気出ないだろうなぁと思っていたので、こんなに応援してもらって夢のようです。


 物語はいよいよ佳境です!


 今回からラストまで怒涛の展開で続きます!


 でもしあわせな最後が待ってますのでご安心を!


 これからもよろしくお願いいたします!

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