第29話 吹雪の中の刺客


 キンッ! キンッ!


 遠くの方で、鋭い音とともにキラッと閃光が走るのが見える。

金属を撃ち合っている様な音だ。

その音に聞き耳を立て、ルミエがつぶやく。


「冒険者だね。魔獣と交戦しているのかな」



「でも、この金属音って……」


「はい。ディアス様の思っている通り、魔獣相手ならこんな音は響きません。人間同士という可能性があります」


シルエが俺の言葉に答える。


「……行ってみよう!」

俺は2人を見て先へと進み、その音のする方へと走り出した。

後から2人も続く。

激しい吹雪で視界がボヤけていたが、やがて音が近くなってきた。

その次の瞬間、何かが足に引っかかり、俺はその場につまづいた。


「ディアス様!」


「ディアス君どうしたの?」


「いえ、何かが足に引っかかって……」


俺は躓いたそれを見る。


「ッ!?」


俺たちはそれを認識した途端、息を凝らした。

それは赤い鮮血に包まれ、グタッと力無く雪の地面に転がっている。

冒険者の死体だった。


辺りを見渡すと、数人の冒険者の亡骸が雪の上に転がり、雪を赤く染めている。


「ぐっ!」


突然、金属音のする方から冒険者の声が聞こえた。



「大丈夫ですか! 今助太刀を!」

と、俺は背中に背負う剣のツカに手をかけ、その声のする方へ駆け寄ろうとする。


「来るなっ!!」


激しく降り頻る吹雪の中、切羽詰まった冒険者の声が投げかけられた。

吹雪がひどくて顔は見えないが、姿は見える。やはり、他の冒険者と交戦している様だ。


「あんたら、早くこの場から逃げろっ! 殺される……。早く逃げっ、グっ!」


次の瞬間、ズバッと何かが切れる音が響き、ドサっと何か重いものが雪の地面に倒れる音が聞こえた。


目を凝らすと、1人の冒険者が倒れているのがうっすらと見える。

その側には、血に染まった剣を手に持ち、その亡骸をみる男の背が見えた。


「あなたはっ……。どうしてこんなことをっ」


その男は、俺を横目で見ると口を開いた。


「オマエも、コノヨノ異端者か」


「?」


男はそう呟くと、俺に素早く駆け寄り剣を振り下ろしてきた。


「くっ!」


「シルエっ!」


その間に割って入ったシルエが、男の刃を受け止める。


「邪魔するナ。オマエもコロす。

さっきの奴モ、ナカマ庇った。だから皆コロシタ」


「お姉ちゃんっ!」


すかさず、男の背後からルミエがタガーを突き立て斬りかかる。

男は後ろに目があるかの様に、余裕の表情で攻撃を避けるとそのまま回し蹴りをルミエに食らわせた。

続け様に、シルエに手をかざすと詠唱を唱える。


「あれは、単発詠唱炎魔法! しかもあんな近距離でっ! お姉ちゃん!」


「ヤキツクセ、獄炎ごくえん


「くっ……ファイヤボールっ!」


ドォンッ!とシルエと男の間近で、お互いの魔法がぶつかり爆発する。


巻き起こった煙の中から、シルエが素早く出てくる。


「シルエっ! 大丈夫ですか?」


俺はすかさず声をかける。

シルエは俺の方をみてコクッと頷くと、すぐさま煙の方を見る。

見ると、煙の中から男が平然とした表情で出てきた。


「ウソッ、あの近距離で無傷だなんて……。お姉ちゃんみたいに脱出したわけでもないのに」


チラッとフードの中から、いかつい傷のある顔が見える。男は俺たちを交互に見やり言う。


「なるホド、お前たちツヨイ。

さっきの冒険者ヨリ強い。ダカラ、ここデ殺す!」


男は、単発詠唱を唱える。


「スベテを貫け、氷のツルギパゴス・スパシ


男の頭上に、氷のマナが集まり鋭く尖った氷柱が何本も形成される。


「まさかっ、さっきのアイスブレードは彼が」


シルエが思い出した様に口にだす。


「シネ」


男が手を前に翳すと、氷のツララは勢いよく

俺たち目掛けて飛んできた。


俺は背中の剣を抜いて、迫りくる全ての氷柱を叩き切る。

これまでの疲労と寒さで、手が悴んで剣を上手く握れない。

防ぐのが精一杯だ。


「全てを切り刻め、風の刃アネモス・クスフィー!」


「水のマナよ、我が身を包み、この身を守れ。水の障壁ネロ・アスピダ!」


シルエ、ルミエも、各々の得意魔法を使って攻撃を防ぐ。


「くっ! 全部捌ききれないっ!」


俺は徐々に押される。

2人も時間の問題だ。

男の攻撃は止むことは無く、むしろ勢いを増すばかりだ。


息をする間もなく、絶えず氷の刃が身を襲う。

その中で、一際大きい氷の刃が俺目掛けて放たれる。

俺は剣を構え直して、足を前に踏み出し、勢いよくそれを一刀両断する。

次の瞬間、一刀両断された刃に隠れて、その間から男が現れる。


「ツカマエタ」


「なっ!?」


しまったっ! 攻撃に夢中になりすぎていて、男の方に意識が向いていなかった!


俺は男から距離を置こうと後ろに大きく跳躍しよう体制を崩したが、時すでに遅く、男の手から鋭い氷の剣が顕現され、俺の胸を貫いた。


「ガッフッ!」


鮮血が迸る。


「オマエ、弱い。

オンナの方が強い。オマエ何も守れナイ。ダカラ死ぬ。自分スラ守れずに」


「ディアス様っ!!!」


「ディアス君っ!!!」


シルエとルミエが叫ぶ。


血が体から溢れ出ているのがわかる。

おい、まじかよ。

ここで死ぬのか?



俺は雪の中にドサッと力無く倒れこんだ。









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