第6話 眼鏡をプレゼントしました



今日は待ちに待った、プリスタイン公立高等学校(こうりつこうとうがっこう)眼鏡科(めがねか)の入学式。


「どう、アキト。似合ってる?」


「はい、お嬢様。とてもよくお似合いです」


「ふふっ、ありがと。アキトも制服ぴったりだね」


鏡の前でくるっと一回転すると、ふわふわしたミルクティー色の髪がなびく。


眼鏡科の制服は紺のブレザーに、胸元にはエンブレムが入っている。


女子はリボン、男子はネクタイで、ズボンやスカートは無地もチェック柄も選べるようにした。


「ああー懐かしい、これぞ高校生って感じ!」


「お喜びのようで何よりです」


「そりゃそうよ。だって念願の眼鏡科に、アキトと一緒に入学できるんだもん」


アキトは濃い紫色の瞳を丸くする。


「私、ですか?」


「うん。年離れてるし、普通科は貴族ばかりで一緒に通えなかったしね。あ、そうだこれ!」


青いリボンを巻いた白い箱を手渡すと、アキトはさらに大きく目を見開いた。


「これは……」


「開けてみて。私からアキトへの入学祝い」


アキトは慎重な手つきで箱を開ける。


そこに入っていたのは黒縁の眼鏡だった。


「リムロックさんにお願いして、アキトのを作ってもらったの。アキト昔から本たくさん読むから、眼鏡があったらもっと読みやすくなるんじゃないかなって思って。度数は軽いのにしてあるから、変な感じにはならないと思う」


丁寧な手つきで眼鏡をかけたアキトは、それはもうびっくりするぐらい似合っていた。


よし! これで制服眼鏡男子(しかも執事スペックつき)の一丁上がり!


「ぴったり!! うんうん、分かってたよ、似合うと思ってた。さすがアキト、完璧だわ!!」


鼻が高いし、目鼻立ちのくっきりした顔立ちだから眼鏡に負けていない。


しかも知的な印象がさらに増して、大人の色気すら漂っている。


テンションMAXの私は、そのときのアキトの何かをこらえるような表情に気づかなかった。


「お嬢様」


「え、何?」


「本当に……本当にありがとうございます」


え……アキト?


彼の瞳が心なしか潤んでいるように見える。


ただ、すぐさま膝をついて片手を体の前に回し、頭を下げるという最敬礼を意味する仕草をしたので、その表情は見えなくなった。


「私のような使用人に、ここまでの温かなお気遣いをいただき、深く感謝申し上げます。この眼鏡は一生の宝物にいたします」


「や……やあね、かしこまっちゃって。これからクラスメイトになるんだから、普通に接してもらわないと困るわ」


顔を上げたアキトと目が合って、どきっとする。

その目には光と、熱がこもっていた。


「はい、ティアメイ様。これからはどうぞ、クラスメイトとしてよろしくお願いいたします」


花が咲きこぼれるような笑顔で言われ、私はアキトに手を差し出し、温かく力強い握手を交わした。

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