49話 第20層ボス・骸骨戦士大隊長(2)

 ここは第20層。

 目の前には骸骨戦士。


 俺達は第20層のボスに挑戦をしていた。


「いくぞ、クリス。攻めるぞ」

「うんっ!」


 隣のクリスと頷き合う。


 俺達と相対している骸骨戦士は片腕がもげていた。

 というのも、俺が関節技を使って骸骨戦士の関節を破壊したからだ。


 肉も靱帯もない骸骨にとって、関節の破壊は四肢がもげることに他ならない。彼らにとっての明らかな弱点だった。


 こうして骸骨戦士は片腕が無くなり、盾が使えなくなっている。

 今が攻め時だった。


「キイイィィィッ……!」

「お……?」


 と思っていたのだが、骸骨戦士が己を鼓舞するかのように甲高い声を上げる。

 腕を一本取られて焦りが出たのか、表情の無い顔から鬼気迫る迫力を発し始めていた。


「キイイイイイィィィィッ……!」

「来るよ! レイ、気を付けて!」

「これは……」


 敵が一際大きな声を発しながら、剣を大きく振りかぶる。

 この構え、見たことがある。一番最初だ。


 戦いの始めの強力なスキル、回転斬りと構えが一緒だった。

 俺たち三人が同時に吹っ飛ばされた技である。


 強烈な攻撃に備えて身構える。

 すぐに後ろに飛んで回避行動を……と思ったが、俺は結局それをしなかった。


 骸骨戦士の回転斬りは妨害に合ったからだ。


「ん、《不可視の壁》……」


『【フィア】 Skill《不可視の壁》発動』


 バックスの使っていた宝剣のスキル《不可視の壁》。

 それをフィアが発動させた。


 回転斬りの始点、威力が上がり切る前の場所にフィアが不可視の壁を3枚ほど貼る。

 ……いや、壁は透明だから見えないが、その後の骸骨戦士の挙動からそう察することが出来た。


 骸骨戦士の剣が不可視の壁を叩き割る。

 強度はそれほど高くないのだろう。パキンという壁が砕かれる音がこの場に響いた。


 しかし、その壁の妨害で回転斬りの威力は高まらない。


「これならっ……!」


 その弱々しい回転斬りをクリスは一人で受け止めた。

 クリスは俺達3人の中で最もレベルが高い。妨害のあった敵の技なら余裕で防ぎ切れるようだ。


『【零一郎】 Skill《スライドスラスト》発動』


 俺は攻撃スキルを使い、骸骨戦士に攻撃を加える。

 《スライドスラスト》。《三連閃》と同じく、《剣士》のレベルを上げた時に習得したものだ。


 飛ぶように前へと駆け出しながら、突きの一撃を放つ技。

 スキルの説明欄には『敵との距離を一気に詰める技』みたいなことが書かれていたが、俺はそれをゼロ距離で放つ。


 渾身の刺突が敵の腹を突き、敵の体勢が少し前屈みになった。


「まだまだぁっ……!」


『【零一郎】 Skill《イノシシタックル》発動』


 更に踏み込んで、タックル技を続けて放つ。

 この第20層に至るまでに食べたイノシシから手に入れたスキルだった。


「キイイイィィィッ……!?」


 刺突とタックルを続けざまに喰らい、骸骨戦士の体が目に見えてくの字に折れ曲がる。


「たたみ掛けるっ! 《ツインクロス・サンダー》!」


『【クリス】 Skill《ツインクロス・サンダー》発動』


 クリスが二刀の剣を交錯させながら、敵を十字に斬る。雷の魔法を纏わせながら、だ。

 どうでもいいが、クリスは技名を叫びながら攻撃をするタイプのようだ。


『【零一郎】 Skill《不可視の壁》発動』

『【零一郎】 Skill《ラビットキック》発動』


 俺は不可視の壁を作ってそこを足場にしながら、骸骨戦士の顔にドロップキックをかました。

 ウサギのモンスターから手に入れたスキル《ラビットキック》である。


『【クリス】 Skill《氷纏双剣》発動』

『【零一郎】 Skill《スライムアシッド》発動』

『【フィア】 Skill《ホーリーランス》発動』

『【零一郎】 Skill《ゴーレムストライクパンチ》発動』

『【クリス】 Skill《カマキリスラッシュ》発動』

『【クリス】 Skill《カマキリスラッシュ》発動』


 クリスが双剣をどちらも逆手に構えて、二連続でカマキリスラッシュを放つ。


 《ホワイト・コネクト》の強みは手に入るスキルの豊富さだ。

 次々と飛び出す新たな技に、骸骨戦士は全く対応しきれていない。


「キイイィィィッ……!」


 骸骨戦士が苦しそうな呻き声を上げる。

 左手の盾が無くなっていることも効いている。咄嗟に盾でガードしようとしてしまう挙動がちらほら見え、その度に俺達の攻撃が直撃してしまっている。


「アイス」


『【フィア】 Magic Skill《アイス》発動』


 フィアがまたしてもファインプレーを起こす。

 氷の魔法によって敵の右肘の関節を凍らしたのだ。


 骸骨戦士の動きが明らかに鈍る。右肘を強引に動かし、何とか氷を砕くが、それは大きな隙となっていた。

 俺とクリスが骸骨戦士の懐に飛び込む。


 ……今日のMVPはフィアだな、これは。


「終わりだっ! 《ハイ・ツインストロングスラッシュ》!」


『【クリス】Skill《ハイ・ツインストロングスラッシュ》発動』


 クリスが剣を上段に構え、二刀同時にハイ・ストロングスラッシュを放つ。

 バキリと鈍い音を鳴らしながら、骸骨戦士の肋骨を幾本か砕いた。


『【零一郎】

 Skill《カマキリスラッシュ》が進化し、

 Skill《カマキリスラッシュ・クロス》を習得しました』


『【零一郎】Skill《カマキリスラッシュ・クロス》発動』


 ……俺の方はなんかよく分からんスキルの進化が起きていた。


 逆手で構えた剣で二連撃を放ち、相手に十字の傷を付ける技。

 《カマキリスラッシュ・クロス》を発動させた。


 ……なんでスキルの進化なんてかっこいいことが、よりにもよってカマキリスラッシュなんぞに起こってしまうのか。

 少し納得がいかなかった。


「キイイイイィィィィィッ……!」


『骸骨戦士大隊長を倒した。

 Base Point 648 を獲得した。』


 それは敵の断末魔だった。

 シェアリーの窓が骸骨戦士の死を伝え、骨の体がガラガラと崩れ落ちていく。


 骨と骨を繋ぐ関節の魔力は骸骨戦士が生きている時にしか働かないのだろう。骨はパーツごとにバラバラに分かれ、その場に骨の山が出来上がった。


「ふぅ……」


 小さく息を吐く。

 この戦い、俺達の勝利だった。


「や、やったー! 僕たち、生き延びたよーっ……!」

「ん、ナイスー、クリス、レーイチロー」

「フィアもナイスーっ!」


 うちの女子二人……いや、女性一名と女性っぽい何か一名がボス戦勝利にはしゃいでいる。

 微笑ましい光景だった。


「おう、フィア、クリス、お疲れ様……」


 俺もこの勝利を仲間と喜び合おうと、その輪に近づいて行ったら、


「あいたっ」


 べしんと、クリスに頭を叩かれた。


「そもそもだよっ!? レイがもう少し、もう少しって先に進まなかったら、こんな大変な戦いしなくても良かったんだからね!?」

「悪かったって」

「なんで誰も止めなかったのさ!? ボスの骸骨戦士と戦うってことしかり! 第20層なんて場所まで潜っているこの状況しかりっ! ……いや、僕自身にも言えることだけどさっ!」


 クリスがキレ散らかす。

 まぁ、その通りである。この戦いは別にやらなくてもいい戦闘だったのである。


 なんか思ったよりもガンガン先に進めてしまったため、調子に乗って先に進んでしまったのだ。

 無駄に命を張ってしまった。


 でも折角だから、最高効率の場所でレベル上げがしたかったんだ。


「レーイチローって、案外バカなのかも」

「くっ……」


 フィアからも詰られてしまう。

 俺は心にダメージを喰らった。


 でも、だって、道中の敵が弱かったんだ……。


「大勝利だけど、なんか納得いかないーっ!」


 Lv.10以下での第20層ボス撃破という大快挙。

 だけどそこにはクリスの嘆きのような雄叫びが轟くだけであった。

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