第3話 使用人は?

「ふわぁ~あ~」


次女のワカナが呑気に欠伸をする姿に苛立ちを感じる中、集められた使用人たちを見てベーリュは怪訝な顔になった。何故なら、自分の知っている顔が一人もいないのだ。それはベーリュ個人が雇った使用人がいないことと同じだ。


「……おい、何だこれは?」


「な、何ですか?」


言っている意味が分からないというネフーミの態度に苛立ちが増すベーリュ。


「私が雇った教師はどうした? 優秀な者を送ったはずだが?」


「そ、そいつらは……ワカナが厳するからっていうから、帰ってもらったの」


「はあ? 何だと!? 一流の教師たちだぞ!?」


「で、でも。ワカナが厳しすぎるから、冷たいから、怖いからって言うのよ。言ってることも理解できないから嫌だって聞かなくて。だから彼らには辞めてもらったわ。その後に優しい教師をつけて……」


ベーリュはめまいがしそうになった。つまり、わがままな娘の願いを聞いて教師を解雇しまったのだ。これで今のワカナの能天気さも納得できる。こんな状況で欠伸ができる馬鹿な娘がいるのはそのせいだ。


「なんてことするんだ! 優秀で最高の教育を与えてくれる者たちを解雇して都合のいいことしか言わない者をつけただけではないか!」


「ワカナが泣き出すんだもの! 仕方がなかったのよ!」


「そんなことすればワカナのためにならん! 教養が身につかなくて頭が悪くなるだけだろうが! そんなことも分からないのか!」


両親が言い争ってる(母が悪い)中、肝心のワカナは興味無さそうにしていた。更に、ワカナは集まった使用人たちに勝手に命令を下した。


「ねえ、誰でもいいからお菓子とお茶を持って来なさいよ。イスとテーブルも忘れずにね」


「「「「「ええっ!?(ちょ、この馬鹿こんな時に何言ってんの!?)」」」」」


使用人たちが目を丸くするほど驚くのも無理はなかった。彼らから見てもワカナは非常識で我儘だったがここまでとは思っていなかった。今、誰がどう見ても呑気にしている場合じゃないというのに、お菓子とお茶を出してと言うのだ。そんなワカナに対して、驚き、呆れ、幻滅、失望、嫌悪、そういう感情が湧き起こらずにはいられない。


「……………何だと?」


それは、耳に入った父親のベーリュも例外ではなかった。父親である分、余計に問題に聞こえる。


「何を馬鹿ことを言ってるんだワカナ! そんなものは後にしろ! こんな状況で何を言ってるんだ!」


父親に叱られているのに………


「えー、せっかく勉強ばっかりで面倒くさい学園を出たんだから今にしてよ。お母様と一緒に食べるのー」


娘の態度にやっと危機感を感じた母親も注意するが………


「ワ、ワカナ、今はそんなこと言ってる場合じゃないのよ……! あなたの姉のことで………」


「そんなの知らないもん」


両親が注意しているにもかかわらず、ワカナはわがままを言い続ける。挙句にはこんなことまで口にした。


「お姉さまですって? いつも私がお願いすればドレスもお菓子も何でも譲ってくれる人のことでしょ? いないんならいないでもいいんじゃない? いなくてもドレスもお菓子もてに入るし」


「「なっ!?」」


両親は絶句した。実の親に咎められても自由奔放にし続けるだけで酷いが、実の姉がいなくなっても構わないという調子でいるのだから最悪だ。家族のことさえ関心がないという態度を貫いている。


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