第2話 見えない町

ケイトは翡翠色の石にそっと指を触れ、話し始めた。

「私が住んでいる町はここからずっと南にある、フェリシタンといって、別名治癒の町とも呼ばれているの。元々そこにはずっと昔から湖しかなかったけど、そこから白い光が常に溢れ出していたの。その光を浴びるとたちまち傷が消え、治らないとされていた病気さえ治したの。始めの頃は噂が噂を呼び、皆喜んで光を求めて多くの種族がその地へ赴き、みんな敬意を表して、《神の光》と呼んでいた。けれどあまりにも治癒力が高くて、徐々に体の細胞が悪性に変わって身体中を蝕んでいき、やがて死に至ったの。そしてその湖の周りには屍が湖を取り囲むようにして累々と積み重なっていたそうよ。各地の博識者や賢者、魔術師たちはどうにかこの光を有効活用できないかと研究に研究を重ねた。そして、ようやく一人の魔術師が光を結晶化してその光の絶大な回復量のみ抽出することに成功したの。・・・自身の体にその結晶を埋め込むことで。」

「えっ!!それじゃあ・・・」アルドは目を丸くし、ケイトをハッと見た。

「ええ、そうよ。その魔術師が私の祖先。その結晶、私たちはアペズタントと呼んでいるんだけど、常時体に触れさせることで、光の効力である、常に回復状態にして、毒のエネルギーを祖先自体が持つ魔力で抑え込んで中和させていたの。でもやっぱり光の毒を抑え込むのに莫大な魔力を消費するから、かなり短命だったそうよ。長い年月をかけてようやく光の毒のエネルギーを極限まで取り除いて、回復の効力だけ抽出できるようになったわ。だから今では全然体も何ともないし皆60から80歳位まで生きてるわよ」ケイトはにっこりと笑った。

「でもそんな凄いアペズタント?や町ましてや湖なんて、聞いた事無いな・・・。風の噂位あってもいいと思うんだけど。」アルドは腕を組んで思い出そうとした。

「わしも長いこと生きとるが、湖の存在さえ知らんかった」村長も腕を組んで、昔の記憶を掘り起こそうと眉間にしわを寄せた。

「聞いた事が無いのも無理ないわ。いくら《神の光》をアペズタントに改良したからって、危険なものには変わりないし、当然ほかの権力者がこの石を狙ってくるのは目に見えていたわ。私の先人たちが研究段階から他者に気づかれないよう、研究施設の周りを工夫して隠してたの。それが今でも守られてるはずだった・・」ケイトは急に表情を曇らせ俯いた。

「『はずだった』って事は今は違うの?」エイミが尋ねた。

「あなた達に助けてもらう前に、突如町に武器を持った男たちが押し寄せてきたの。突然の事で皆パニックになって逃げまどい、戦える者は応戦したけど虚しく次々と捕まっていったわ。私も戦っていたんだけど、父と母が『お前だけでも逃げ延びろ』と言って何とか敵を食い止めてくれて・・・、それで私は敵の追っ手を撒いてあてもなくひたすら相棒のリックと一緒に逃げて、気づけばこの地へたどり着いていたの。」

「それでは拙者たちを最初執拗に疑っていたのは、お主の町を襲った敵だと思ったのも無理はないでござるな。」サイラスが頷く。

「命の恩人なのに、疑って悪かったわ。みんな、話を聞いてくれてありがとう!不思議と気持ちがスッとしたわ。けれど、早く、町に戻らないと!あいつら町の皆に何しでかすか分からない!今すぐここを発つわ!」ケイトは自分の荷物を取ると息巻いて階段を下りようとした。

「今一人で行っても捕まるだけなんじゃないか?俺たち割と強敵と戦ってきてるし、それなりに腕は立つと思うんだ。良かったら連れて行ってくれないか?」アルドが呼び止めた。

「さすが、お兄ちゃん!そう言うと思った!ケイトさん、一人は危ないよ、私たちもお供します!」フィーネが続けて言った。

「腕が鳴るでござるな!」とサイラスも自分の刀を確かめた。

「みんなで立ち向かえば怖くないわ!」エイミはケイトににっこり笑いかけた。

「汎用アンドロイドがしっかりお役ニ立ってみせマス!」リィカが仁王立ちになりながら続けた。

 ケイトは、突然の申し出に驚きつつ「うぅっ・・・、みんなどうしてそんなに優しいの?こんな見ず知らずの私を助けてくれただけじゃなくて、ついて来てくれるなんて・・・世界中探しったってあなた達みたいな人いないわ!でも本当に危険よ。あなた達にも家族がいるんでしょ?相談もしないでそんなすぐに行くと決めていいの?」と、目に涙を浮かべて言った。

「俺のじいちゃんは困っている人を見たら助けなさいって口癖のように言うし、じいちゃんも昔は冒険家だったんだ。だから心配ないよ。」それを聞いた村長は力強く頷いた。

「私のおやじもそうよ。困っている人を黙って見過ごすなんて出来ないわ」

「拙者の主に困り人を見て見ぬふりが分かった際には、一生岩の上に正座の刑でござろうな」サイラスはハッハッハと快活に笑った。

「私のメモリに『旅は道連れ世は情け』とインプットされておりますノデ!」

「というわけだから、俺たちを連れて行ってくれないか?」アルドが優しくケイトに尋ねた。

「ありがとう、みんな!」ケイトは感動のあまり涙で顔がぐしゃぐしゃになった。

「ケイトさん!?大丈夫ですか?」一同がビックリする中フィーネがオロオロしながらケイトに駆け寄った。

「フィーネ、大丈夫よ。私昔から涙脆くて、特にこういう感動的な話はもう我慢できないの」ケイトがまだワンワン泣いていた。

「せわしないお人やなー」ペポリがボソッと呟いた。


 「さて、旅の準備はできたけど、ここからケイトの町まで経路は大丈夫そうか?」アルドがケイトに尋ねる。

「道案内は任せて。このアペズタントが導いてくれるわ。外に出て初めて分かったけど、原光とこの石とが共鳴してるようでうっすらとだけど方向は分かるわ。」ケイトはそっと胸の石に手をあてた。

「ヌアル平原より南から来たってことは、カトラの森を抜けてきたということじゃな?」村長がケイトへ聞いた。

「名前は分かりませんが、確かに森の中を抜けてきました。」頷くケイト。

「ほぉ。あの森は物凄く俊敏な魔物や《カトラの目》と呼ばれている魔物が常に森を監視していると噂で聞いた事があっての。」村長が険しい顔をした。

「その時はとにかく逃げるのに必死で、しかも暗かったからよく分からなかったけど・・・、でもその森を抜けるのが一番の近道だと思うわ。」

「常に監視の目があるのが気になるけど、とりあえず、カトラの森を目指そう!」アルドが皆に向かって言い、一同頷いた。

「みな、くれぐれも気を付けるんじゃよ」村長、モベチャ、ペポリが手を振って見送った。


 一行はヌアル平原を南に向かい、足を進めた。

暫くして「ケイト、どうしたの?そんなに周りを見渡さなくても大丈夫よ」エイミがせわしなくきょろきょろしているケイトに声をかける。

「そんなつもりは無かったんだけど、こうやって外の世界を歩くのに慣れてないからそわそわしちゃって」そう言うケイトに、馬のリックが頬を寄せた。

「ふふっ、ありがとう、リック。」

「本当に、外の空気を吸うのは滅多にないでござるか。」サイラスが驚き体をのけ反った。

「うーん、そうね。正直アペズダントのおかげでほとんどの事が出来るし、大人からは外は恐い魔物がたくさんいて、食べられてしまうと教えられてきたから、どっちかっていうと外に出ようとも思わなかったわ。けど、私にはジルっていう弟が一人いるんだけど、ジルは違ったわ。」ケイトは何かを思い出したように表情を綻ばせた。

「どんな弟さんだったんですか?」とフィーネが聞いた。

「小さいころからいつも町中走り回ってたわ。とっても好奇心が旺盛で、町の皆がすることを聞いては真似したり、町の外れまで行ったりして、こっちはジルを探し回るのに苦労したわ。次第に町の外にも興味を持ち出して、いくらこっちが外には魔物がいるから行っちゃだめと教えても、『そんなの実際に見てみないと分からないだろ』って言ってたまに外に出かけては町で見たこともない植物や何かの道具みたいなものを拾っては皆に見せてたの。大きくなっても全然子供の頃のままで、しまいには、町の子供を引き連れて探検隊みたいなものを結成して外に行くようになったわ。そんなある日、探検隊の子供たちが外から怯えて帰ってきて、沢山の大人が来て、子供たちはジルが食い止めてる間に逃げてきたと言ってたわ。それからジルが戻ることはなかった。そしてその数日後に町も襲われたの。」ケイトは思い出し、悔しそうに顔を歪めた。

「そんな!ケイトの弟まで攫われていたのか!その後の安否は分からないままなのか?」アルドがケイトに問いかけるも、ケイトは虚しく首を横に振った。

「そうか。よし、早くカトラの森を目指そう!」アルドは元気づけるように言った。

一行は歩をすすめ、後ろに見えていたヌアル平原がすっかり見えくなった頃、前方にどんよりとした木立が見えてきた。

「前方にこれまでとハ違う粒子を感知。カトラの森へ近づいていると思われマス。」リィカが目を光らせた。「いよいよね!」エイミが勢いづく。

「この森を抜けたらすぐそこよ!」ケイトははやる気持ちを抑えて言った。

「腕が鳴るでござる!」一同は気合を入れて森へと向かった。

 そうして、一行はカトラの森に到着した。そこは昼間だというのに、天まで届きそうな位ぼうぼうと伸びた木ののっぺりと黒い幹や枝葉の表面には、無数の棘が返しのように突き出ており、太陽の光を拒んでいるかのようだった。黒い木は乱立しており、道というような歩ける所はぬかるみ、時々目の前にハエのような小さな虫が目の前をうるさく飛んでいた。

「足元が悪いし、前方が全然見えないな。みんな気を付けて進もう!」アルドが振り返って皆に声をかけた。

「なんでこんなに暗いの?何だか寒気もするし、な、なんかへんなものとか出ないでしょうね」エイミが両腕をさすりながら恐る恐る歩いた。

「いや、何か出てもおかしくない雰囲気でござるな、拙者の寝床を思い出すでござる」サイラスも用心して先に進んだ。

「みんな待ってー!うぅ・・・、足元がとられて中々前に進まないよ」フィーネがヴァルヲを抱きながら足元をおぼつかなく歩く。

「こんなにぬかるんでたなんて、全然気づかなかった。こんな中を走ってくれていたなんて、リック偉いわね」ケイトがリックの頭を撫でた。

「いや、そんな悠長な事言ってる場合じゃ・・・」アルドがケイトの方へ声をかけようと後ろを向いたとき、

「アルドさん!前方注意デス!!」リィカがアルドに声をかけるのと同時に、前方から何か白い残像が見えたと思った瞬間、アルドの目の前に白い上下の4枚の歯がキラリと光り、アルドの頭にかぶりつこうとした。アルドがとっさに腕を顔の前に庇う様に上げた時、サイラスが大きな口に刀をかませて食い止めた。

「すまない、サイラス!助かった!」

「こやつ、なんという力でござるか、体が押されるでござる!」サイラスが必死で踏ん張るがぐいぐいと体を押されていく。

「これでも喰らいなさい!」エイミが魔物に向かって拳を浴びせた。すると魔物はギャッと叫んでその場にゴロンと仰向けに倒れた。

「ふぅ、刀が折れるかと思ったでござる。」

「みなサン、周囲に高エネルギーを感知。どうやら私たち囲まれているようですノデ!」

 すると、深い闇に怪しく光る金色の眼が次々と浮かび上がり、カチカチと歯を合わす音がどんどんアルド達に迫ってくるのが分かった。

「どうしよう、お兄ちゃん!後ろからも迫ってきてる!」

「こんなの相手にしてたら、いくら体力があっても足りないわ!」エイミが辺りを見渡し警戒した。

「くそっ!何か方法はないか」アルドが剣を構えたその時、

「みんな!目を閉じて!」ケイトが白く眩く光る剣を高く上げ、剣全体から目も眩むような閃光があふれ出し天へと昇っていった。魔物があまりの眩しさでどっちを向いているのか分からないようで魔物同士でぶつかり合っていた。

「今のうちに、ここから離れましょう!」ケイトがみんなに言い、一行は急いで森の中へと進んでいった。

「なんとか、撒けたみたいだな。ケイト、助かったよ、ありがとう」

「いいのよ。間に合ってよかったわ」

 一行は木立の中をぬかるみに足を取られながらも、前へ前へと暗闇の中へどんどん進んでいった。相変わらず、ハエのような小さな虫が目の前を遮るように飛び回っていた。

「しかし、こうも同じ景色が続くと、いつ出口にでるか分からんでござるな」サイラスが足取りを重くしながら息を吐いた。

「だいぶ奥に進んでる気はするんだけど・・・」フィーネも疲れたのか少し元気がなく言った。

「おかしいわね・・、アペズタントの気配は強くなってきてるから、近づいてるのは間違いないんだけど・・・」とケイトも自信なさげに言った。

「なんか奥に進むに連れてハエみたいな虫が多くなってないか?」アルドが虫を払いながら皆に聞いた。

「確かに、なんかこの虫しつこいわね」エイミも、うっとうしそうに体にまとわりつく虫をはたき落とした。

「きゃーーー!!!リィカが大変なことになってる!!」ケイトが急に大声を上げた。他の皆がリィカを見るとリィカのボディの色が分からないくらい、びっしりと虫がまとわりついていた。

「ボ・・・ボディ内部に異物侵・・入アリ・・・、メインシス・・テムエラー・・・発生・・・・緊急・・・メンテナンス・・可動・・しマス」リィカのボディが震えだしたかと思うとツインテール部分が回転し始めた。勢いはどんどん増し、しまいには地上から足が離れ、ピンクのプロペラが2枚、どんどん虫を剥がしていった。

 みんなが呆気に取られて見ている間に、虫が全て剥がされ、「・・・緊急システム・・メンテナンス完了。・・内部、外部ともニ異常ナシ。危うく私のキューティクルボディが動かなくナルところデシタ。・・みなサン、どうしましたカ?空からサファギンが降ってきたみたいなナ目になってますヨ!」

「いや、それどういう例えだ!?とりあえずリィカが無事で良かったよ」

「虫は光るところが好きだものね。だからリィカにくっついたのかしら」ケイトが首をかしげた。

 ホッと息をついたのも束の間、今度は森全体がザワザワとざわめき、静かに佇んでいた木々が急に暴れだしたように激しく揺らぎ始めた。

 「みんな、あれを見て!」フィーネが前方を指さした方向へみんな一斉に向くと、黒々とした木の表面から小さな黒い粒が次第に剥がれていき、道の真ん中にどんどん大きな黒い塊となった。よく見てみると黒い粒はリィカを襲った先ほどの虫で、ブォンブォンと羽音がけたたたましくなり、遂には道を塞ぎ、2m程の巨大な目のような形となった。

“貴様ら、ワシの住処で一体何をしておる!!”羽音に混ざり、怒号が飛んできた。

「しゃ、しゃべった!?」アルド達がビックリしていると、

“この森で散々暴れまわってくれたようじゃな!よくもワシらの仲間を傷つけおって・・・ただでこの森から出られると思うな!!”

「待ってくれ!暴れてなんかないよ!向こうが俺たちを襲ってきたんだ、それで仕方なく応戦したままで・・」アルドが言い終えないうちに巨大な目を大きく見開いてさらに羽音をざわつかせながら、

“侵入者の言い訳は聞かん!すぐに木っ端微塵にしてワシらのエサにしてやる!”と、言うや否や大きな目がぐにゃりと歪んで、今度は木を10本は軽々と握り潰してしまいそうな大きな手に変わり、そのまま垂直に上空に上がりそのままアルド達めがけて上からドスンと落ちてきた。

「これはやばいぞ!みんな逃げろ!」アルド達は間一髪のところで巨大な手から逃れられた。

サイラスが体制を立て直し巨大な手にめがけて切りかかるも、手は一斉にちりじりになり刀は空を切るだけだった。

「攻撃しようにも、すぐにバラバラになって当たった感触がないでござるな」

「あぁ、それにばらけた後、だんだん手に戻るスピードが速くなってきてるぞ!早いとこ決着をつけないとまずいな!」アルドとサイラスが背中合わせなって虫に攻撃を防いだ。

「リィカ、さっきみたいに虫をひきつけられない?虫がかたまってくれたらなんとか攻撃が当たりそうなんだけど」ケイトがリィカへ言った。

「分かりまシタ!何とか引き付けてみマス!ワタシのエネルギーをハンマーへ集中させますノデ、少しお時間下サイ!」

「それまで皆で持ちこたえるんだ!」アルド達はなんとか巨大な手の攻撃をかわしながら時間を稼いだ。

「お兄ちゃん、もう体力が・・・」フィーネが肩で息をしながら片膝をついて踏ん張っていた。

「リィカ、後どの位かかりそう!?みんなそろそろ体力がやばいわ!」エイミが巨大な手に向かってパンチを繰り出すも、攻撃をした部分だけぽっかり穴が空きまたすぐに元通りに戻った。

“貴様ら、ちょこまかと逃げ追って!これならどうだ”

巨大な手がぼこぼこと小さくなったり大きく膨らんだりしながら徐々に形を変えていき、やがて鋭利な刀のような姿になった。

「なんと!こやつ、七変化するでござるか!」

「ちょっと、感心してる場合じゃないでしょ!」エイミがサイラスに向かって怒鳴った。

「エネルギー充填完了。皆サン、お待たせしました!ワタシから離れて下サイ!」

リィカが今にも光が飛び出しそうに煌々と光るハンマーを頭の上にかざすと、巨大な刀は吸い寄せられるようにハンマーの方へと近づいていった。

「よし、今だ!」アルドが言うや否や全員が一斉に刀に向かって攻撃を繰り出した。

すると、刀は瞬く間に姿を消し、虫達は散り散りなり、叫び声とも羽音ともとれる音を出しながら黒い塊がみるみる小さくなっていった。

「やったか・・・?」アルド達は虫の方へ少しずつ近づいていった。

“・・・これで、終わりだと思うな!”

あの羽音の隙間から聞こえる声が聞こえた時、アルドは急に身動きが取れなくなり足元をふと見てみると、虫がアルドの足にびっしりとひっつき地面にまで延びていた。

「しまった・・・!まだこんなに残ってたのか」

“貴様ら全員葬れないのは無念だが、せめて一人だけでも道連れにしてやる!”

アルドの目の前で黒い小さな群集が1m程の鋭利な刃物に変わり、アルドに切りかかった。

「危ない!」ケイトがアルドを庇う様に刃物とアルドの間に入ると、その瞬間、刃物がケイトの左腕を切り裂いた。

「ケイトーーーー!」アルドは崩れ落ちていくケイトを抱き留め叫んだ。

サイラスとエイミが動きを止めた刀に攻撃を放ち、遂に黒い虫の群集は姿を消し、アルドの足元に引っ付いていた虫も逃げるように森の中へ消えていった。

「アルド、大丈夫よ…言ったでしょ?私は自然治癒で体を治せるから」ケイトがそう言っているうちに、腕の傷は消えていき、最初から傷など無かったかのように元に戻った。

「この位の傷は全然平気よ、私はいくらでも皆の盾になるから」ケイトが笑ってそう言うと、アルドは「バカ‼いくら傷が勝手に治るからって、そんな事言わないでくれ!ケイトは大事な仲間なんだ、俺は仲間が目の前で傷つく所なんて見たくない!」そこまで言うとアルドは顔を伏せた。

「アルド…、ごめんなさい。確かに軽率な行動だったわ、心配をかけさせてしまったわね」「ケイトさん、無事でよかったです!こちらこそお兄ちゃんが怒鳴ってしまってごめんなさい!本当に悪気はないんです!」フィーネが優しく言った。

「アルドは仲間の事になるとつい熱くなっちゃうのよ、気にしないでね」と、エイミ。

「うっ…そんなに熱かったかな?でも確かにちょっと怒りすぎたな。すまない、ケイト」

「ううん、心配してくれてありがとう、アルド」ケイトが目に涙を浮かべ礼を言った。

「皆サン、ここから先ケイトさんと同じエネルギー反応が強くなっているようデス!出口は近いようですノデ!」リィカが示した先には僅かながら光が差し込んでいた。

「ふぅ、やっとこの森ともおさらばできるでござるな」

「よし、皆急ごう!」アルド達は小さな光に向かって進んでいき、ようやく森を抜けると、

「ああ、やっと戻ってこれた!ここが私の町、フェリシタンよ!」ケイトが指をさした先には、木も草もない平坦な殺伐とした大地が続いていており、一陣の風が地面をなぞる様に飛んでいき舞った土埃を地平線の彼方へ運んで行った。

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