喧嘩
とある未明の薄闇に、突如、カラスが鳴き喚く。
ガーガー、ギャーギャー、バッサバサ。
とにかく、只事ならぬ音。
叩き起こされ不機嫌な、わたしの耳にもはっきりと、バサバサ、ガサガサ、物音が、闇の向こうで響いてる。そして、そのまま騒音が、ずんずん近付き、コンクリの、壁に撥ねては大音声。
寝ぼけまなこで見た先の、窓の向こうのすぐ間近、黒い何かが突っ込んだ。室外機しか置けない場所に、ガサガサ、バサバサ音立てて、黒い塊、突っ込んだ!
日除けと手すりと室外機、コンクリートの隙間では、ガーガー、ギャーギャー、大騒ぎ。バサバサ羽音を響かせて、吹き抜け全部に反響し、何やらとにかく、只ならぬ、激しい攻防、鳴き渡る。
「これはいったい、何事だ?」
もこもこ舞い降る羽毛わた。コンクリ引っ掻く爪音と、ギャンギャン喚く鳴き声が、狭い隅から舞い上がる。
恐る恐ると窓を開け、そうっと覗いて見てみれば、日除けと手すりの隙間から、バサバサ聞こえる騒音の、主は大きなカラス二羽。取っ組み合って、暴れてた。
ガーガー、ギャーギャー威嚇して、一羽ががっちり片足の、爪を開いてのしかかり、組み敷くカラスの喉笛を、ぎゅっと押さえて引き倒す。
仰向けカラスは両足を、ぎゃっと開いて応戦し、ガーガー、ギャーギャー鳴き喚き、羽根を冷たいコンクリの、上でバサバサ羽ばたかす。
その都度、組み伏すカラスの爪が、がっちり喉笛捕まえる。
「これはいったい、何事だ?」
眠気も吹っ飛ぶ光景に、わたしはただただ驚いた。きりもみしながら墜落し、こんな場所では、ろくに身動きとれないだろうに、日除けを突っつき暴れては、狭間に絡まり立ち往生。それでも威嚇は鳴り止まぬ。
「これこれ、喧嘩はやめなさい」
たまらず声をかけたなら、刹那鳴り止む喧騒と、二羽が揃って首傾げ、きょとんとしながら瞬く眼が、四つ同時に振り仰ぐ。
ほっとしたのも束の間で、再びカラスは目の前で、ガーガー、ギャーギャー暴れ出す。
「だから、喧嘩はやめなさい」
慌てて声をかけたなら、やはり鳴り止む喧騒と、二羽が揃って首傾げ、くりくりお目々が振り仰ぐ。言葉を理解してるかは、分からないけど迷惑な、未明の喧嘩はやめてほしい。
しかし、残念無念かな。
カラスは素直に言うことを、聞いてはくれぬ生き物だ。
やっぱり始まる大げんか。突っつき、引っ掻き大暴れ。
ご近所迷惑、甚だしい。何とか、やめてはもらえぬか。やけっぱちにもなりながら、わたしは「カー」と鳴いてみた。
「?」
「?」
カラスは今度こそ、ピタッと静止し、振り仰ぐ。そして束の間考えて、二羽が同時に「カー」と応えた。
も一度「カー」と鳴いたなら、やっぱり「カー」と鳴き返す。
これは、またまた驚いた。どうやら「カー」は通じるらしい。
喧嘩はやめてもらえぬ「カー」。カラスは小首を傾げては、キョロキョロ左右を振り仰ぐ。
斜め向かいのアンテナに、とまっているのもカラスなら、向かいの屋根の端っこに、とまっているのもカラスのようだ。仲間が見守る目の前で、二羽のカラスはキョロキョロと、首を傾げて上下する。
喧嘩はやめてもらえぬ「カー」。
溜息混じりに鳴き真似すれば、気付くと辺りは日が昇り、どんどん明るくなっていく。コンクリ上に散らばった、カラスの羽毛は意外にも、淡いグレーのふわふわで、思った以上に、ちまかった。
——————
二月某日……まさか、狭いサービスバルコニーに、カラスが突っ込んでくる日が来ようとは、夢にも思いませんでした。(掃除も大変でした)
半当事者(強制的)になってしまったわたしは、その後しばらく仲間のカラスに定位置からロックオンされましたが(常に見張られてた・笑)、特に襲われることもなく、今日もカラスたちはご機嫌で我が家の真上に陣取っています。
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