モノマネ

 近所にちょっと有名な、「おえっほん」じいさんが住んでいる。

 いつも早朝、夕方と、一日二回のお散歩で、近所を出歩くおじいさん。どうしたわけか、同じ場所、同じ時間に「おえっほん」。大きな、大きな、クシャミする。


 今日も朝から「おえっほん」。

 毎度、夕方「おえっほん」。

 ルーティンワークの一環か、今日もどうやら、ご健在。


 ある日、いつもと違う時間。突然、聞こえた「おえっほん」。

 普段と何かが、ちょっと違う。何とも不思議な「おえっほん」。


 あれ、と思って窓覗き、きょろきょろ周囲を見回せば、向かいの屋根のてっぺんで、カラスが元気に「おえっほん」。


 何と、くだんのじいさんは、どうやらカラスの琴線キンセンに、触れた様子だ「おえっほん」。

 どうだと言わんばかりのカラスは、ご機嫌調子で「おえっほん」。


 それから、しばらく朝夕以外も、カラスが真似する「おえっほん」。

 舌ったらずな「おえっほん」。元気な、元気な「おえっほん」。


 カラスの声帯、どうなったい。

 カラスの本分、どこいったい。

 モノマネカラスのモノマネ対象、どうやら、じいさん以外にも、近所に潜んでいるらしい。


 斜め向かいのファミリーが、新たに迎えたファミリーの、わんわん元気に吠える声。新たな環境慣れるころ、斜め上から「ワン、ワン」と、少し変わった鳴き声が、舌ったらずに響き出す。

 お空の上で「ワン、ワン」と、ご機嫌カラスが鳴いている。


 カラスの声帯、どうなったい。

 カラスの本分、どこいったい。

 舌ったらずな鳴き真似は、徐々に崩れて元通り。次にカラスが真似るのは、何になるやら、どうなるのやら。



——————

 初めて聞いた時は、本当にびっくりしました。

 最初は、「クォーエーックォン」みたいな感じだったのが、段々上手になって、限りなく「おえっほん」に変化していく過程は、興味深かったです。


 そして、犬に対抗して「クァンッ、クァンッ」→「わん、わん」と鳴き出した時には、笑ってしまいました。気になって調べてみたら、カラスはどうやら声帯模写ができる生き物のようです。芸達者なんですね。

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