カンカン、コツコツ

 駅のホームで電車待つ。

 スマホ片手に時間を見ると、何かコツコツ音がする。


 はて、と思って見上げると、向かいのホームの屋根の向こう。

 鉄柱の合間に、カラスが一羽。

 カンカン、コツコツ、くちばしで、器用に足元打っていた。


 カンカン、コツコツ、カン、コツ、カンカン。


 首を左右に大きくに振って、黒い大きな嘴の、あっちとこっちを使い分け、カンカン、コツコツ、打ち鳴らす。


 カンカン、コツコツ、カン、コツ、カンカン。


 同じ音をきっちり三度、同じ動作で繰り返し、カラスはひょいっと頭を上げる。元の姿勢にすっかり戻ると、今度は尾っぽを振り下げて、「カー」と三度、大きく鳴いた。


 口をぱかっと開くと同時に、尾っぽが、ぴょいっと振り下がる。

「カー」と鳴いては、ぴょいと尾を下げ、ぴょいと尾を下げ、「カー」と鳴く。

 三度鳴いたら、カラスはまたもや頭を下げて、カンカン、コツコツ、嘴で、元気に鉄柱打ち鳴らす。


 カンカン、コツコツ、カン、コツ、カンカン。


 さっきと全く寸分違わず、おんなじ音を繰り返す。きっちり三度、嘴の、あっちとこっちを使い分け、おんなじ音を鳴らしたら、またもや姿勢を元に戻して、尾っぽを振り下げ「カー」と鳴く。


 何度、続けるつもりかと、手元のスマホは見向きもせずに、ホームの向こうをじっと見る。

 三度、大きく鳴いたカラスは、俯き加減に首回し、そこでピッタリ動きを止めた。

 それから器用に、頭を回し、こちらとピッタリ目があった。


 ようやく見られていることに、気づいたカラスは顔上げて、ちょいと小首を傾げては、じっと、こちらと足元を、交互に見つめて考える。


 そして、素知らぬ振りをして、ばさりと羽音を響かせて、駅の向こうに飛んでった。駅の向こうの住宅街の、大きなビルへと飛んでった。



——————

 コロナ禍で、出歩く際はマスクをして俯き加減で、

なるべく非接触を心がけて、他人様ともよそよそしく、

待ち時間は、手元のスマホをいじるだけだったのですが、

そんな世情もお構いなしに、カラスは楽しく過ごしているようです。

 見られているって、ちゃんと自覚するんですね。びっくり。

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