文字のひまわりに初めておぞましさを感じた

 読み始めたときの感想は「スケッチ(風景画の表現)が上手い」だった。
 主人公の様子をえがいて、なにを感じているのか伝わってくる。「文学なんだから当然」という意見も寄せられるかもしれないが、描写で読み手に感情を伝えるということは難易度が高い。状況を説明したほうが早いにもかかわらず、作者は描写に力を入れている。「蜻蛉の翅の縁紋が滲み…」の文章から作者の品格を感じた。
 また、この作品を冷めた視点で見ると怖くないところが興味深い。上手い言い方が見つからないのだが、「怖いものを主人公が作り出している」のだ。作者の表現力が足りなければ、学校へ行くくだりで主人公の体感を十分に味わえなかった。
 この作品には怪物の影も恐ろしい人間も登場しない。蟻の行列を見てからだ。不穏な感情が続く。