第14話 現実的な話


「結婚式をしたい」


 そう口にすればイリーシアは少し困った顔をして恥じらった。

 今更と俯ける顔を上向かせ、目を合わせ告げた。


「けじめだイリーシア。叔父たちが食い潰したせいで、伯爵家は暫く立て直しに時間が掛かるだろう。だけど、だからって、祝い事を遠慮をする必要は無いんだ。……それに君にはこれから伯爵夫人として私の隣に立って貰う。領民にも紹介したいし……だから……」


 段々と自信を無さそうに尻すぼみになるアウロアを、今度はイリーシアが励ました。


「そんな……嬉しいわ。でも……三年前のドレスではもう似合わないと、思うの……」


 イリーシアは二十二歳だ。

 十九歳のギリギリ娘時代のドレスで挙式に臨めば、流石に参列者からの視線が気になる。それこそ伯爵夫人の最初の印象は良く無いかもしれない。


 アウロアが結婚式を望んだのはイリーシアの花嫁衣装を見たいからだが、それ以上にイリーシアと結婚したと周囲に知らしめる為だ。それは勿論イリーシアが望む形である事が大前提である為……


「何も心配いらないイリーシア。全て私に任せて」


 そう言ってイリーシアの手を掬い取ったアウロアは、目を細めて笑った。




 ◇




「……で、なんで俺なんだ? 俺はまだ結婚してないから、何の助言も出来ないぞ」


 そう言ってフォンは顔を引き攣らせたが、次いで勢いよく頭を下げたアウロアに目を剥いた。


「金を貸して欲しい」


 伯爵家はたった三年でその財産の殆どを食い潰されており、果ては借用書まで出てきた。

 アウロアの名前で勝手に借りたと主張する事も出来るが、どうしたって借金を踏み倒したという不名誉な噂は流れるだろうし、後々に響くだろう。何より両親の残した家にこれ以上疵をつけたく無かった。


 けれど、それとイリーシアとの結婚式は別だ。

 お金が無いのなら慎むべきなのかもしれないが、それでも一生に一度の事を、彼女と何の思い出も残せないのは辛かった。何より彼女は遠慮するだろう。それが嫌だったのだ。

 これ以上我慢させたくなかった。

 多少無茶をしても。


「無理なら、貸してくれそうな奴を紹介してくれるだけでも────」


「貸すよ」


 頭を掻き、フォンは、はーっと息を吐いた。


「ったく、お前がなあ……虚勢張ってばっかりのガキだったくせに……人に物を頼む態度も取れるようになったんだなあ」


 そう言って、目を細める幼なじみに、アウロアは感謝を込めて笑った。

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