第34話

 


 


「……そろそろ、戻りましょうか。あまり遅くなるとアンジェリカのご両親も心配なさるわ。」


 ローゼリア嬢とロゼリーと一緒に夜の空中散歩を満喫していたが、ローゼリア嬢が突然そう言ってきた。確かにもう空には猫の目のように細長いお月様が浮かんでいる。日はとっくに落ちており、帰りが遅くなったことに、流石の私の両親でも心配しているかもしれない。


 まあ、行き先は侯爵家だって知っているから安心してはいると思うんだけどね。


「そうね。ローゼリア嬢。素敵な空の旅をありがとうございます。」


 綺麗な夜空を空を飛びながら見たことで、私はすっかり先ほど侯爵に言われた言葉を気にしないようになっていた。確かに私はローゼリア嬢に比べると幼児体系だし。色気なんてものより猫の方が大事だし。いろいろ女性として足りてないんだと思う。


 さっきは侯爵に言われて腹が立ってしまったが、こうしてゆっくりと考えたことで女性としての魅力がないと言われても仕方がないんだなと思い直した。それに、女性としての魅力がないことで、侯爵に襲われる心配もない。これは喜ぶべきことではないだろうか。


 ……微妙だけど。


 それにしても、なんでさっきはあんなに侯爵のことを怒ってしまったのだろうか。それに、なんであんなにショックだったのだろうか。


「心配しなくても、アンジェリカは魅力的よ。私はそう思うわ。」


 沈んだ顔をしていた私に、ローゼリア嬢がなんでもないことのように告げた。


「ありがとうございます。でも、侯爵様の言うことももっともなんです。私、女性らしくないし。体つきだって、ローゼリア嬢みたいに女性的じゃないし。ぺったんこだし。」


「それを魅力的に思う人もいるわ。」


「そうかしら?」


「そうよ。それに、きっと侯爵様も……。」


「侯爵様が?」


「いいえ。なんでもないわ。きっと黙っていた方が面白そうだもの。」


 


 


 


☆☆☆


 


 


「お父様。お母様。ただいま戻りましたわ。遅くなったのに連絡をいれずに申し訳ございません。」


 屋敷に着くと、何やら屋敷の中が慌ただしいような気がした。


 普段は静まり返っているのだが、今日はどことなく騒がしい。なにかあったのだろうか。


 思わず、ロザリーと顔を見合わせる。


 それでも、玄関を入ると今にも外に飛び出しそうなお父様とお母様が目に入ったので帰宅の挨拶をした。


 もしかしたら、何か急な用事が入って今から外出するのかもしれない。でも、お父様とお母様が慌て出かけようとしているからと言って、声をかけないわけにもいかない。


「アンジェリカっ!?」


「まあ!アンジェリカっ!!無事だったのね!!」


「……えっ?」


 お父様とお母様は私に気がつくと、こちらに走り寄ってきた。そうして、私の身体をぎゅっと抱きしめてくる。お父様にいたっては私の頭に頬ずりしてくる。


「どこか怪我はしていない?無事なの?大丈夫なの?」


 お母様も心配そうに私の手足を確認している。


 なにがどうしたというのだろうか。


「あの……いったいなにがあったのですか?」


 私は恐る恐るお父様とお母様に尋ねた。もしかして、私の帰りが遅かったから心配していたのだろうか。


「侯爵家からの帰り道でアンジェリカが行方不明になったと侯爵様から聞いたのだっ。心配させるでないっ。」


「誘拐されたわけではないのよね?どこも怪我していないのよね?」


「ええっ!!?」


 お父様からの返答に私は驚いて淑女らしくもなく、はしたない叫び声をあげると、お父様とお母様から無意識に距離を取った。


 まさか、私が行方不明になっていたとは……。確かに、侯爵家の誰にも何も言わずに出てきてしまったけれども……。


「侯爵様も大変アンジェリカのことを心配しておられた。すぐに侯爵家に連絡をいれなければっ……。」


「その必要はない。アンジェリカ無事だったのか……。」


 お父様が慌てて侯爵家に連絡をしようとしているが、それを断る声が聞こえてきた。それとともに、誰かにキツク抱きしめられた。


 


 


 


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