第6話

 


 


「まあ。こんなに誰からでしょうか?」


「わからないわ。でも、ほらそこにクリスちゃんが座っているわ。」


 沢山の箱は誰からの贈り物だろうか。それはお母様もわかってはいないようだ。しかし、お母様が指し示す方向を見ると、白い箱の上にちょこんと座っているクリスの姿があった。


 クリスは誇らしげに私を見つめている。私と視線が合うと、嬉しそうにクリスが目を細めた。


「クリスが用意してくれたの?」


「にゃっ!」


 私がクリスに尋ねるとクリスは誇らしげに頷いた。


 どうやらこのプレゼントはクリスが用意してくれたようだ。


 というか、これプレゼントでいいんだろうか。もしかして、レンタル品なのかしら?


「これはレンタル品でしょうか?


 私は疑問に思ってクリスに問いかける。すると、クリスは勢いよく首を横に振った。


「では、私たちへのプレゼントだと受け取っても良いのかしら?」


 今度の問いかけにはクリスは首を縦に振って肯定する。


 どうやら、私たちへのプレゼントで間違いないようだ。


 でも、このような物をすぐに用意することができるということは、クリスの家はお金持ちの家なのだろうか。それに、クリスは人間の言葉を話せないはずだ。それなのに、こんなタイミングよくプレゼントが送られてくるだなんて。もしかして、クリスの本当の飼い主はクリスと意思疎通ができるのだろうか。


 ……なんて羨ましい。私もクリスと意思疎通がはかれるようになりたい。私も、可愛いクリスとお話できるようになりたい。


「にゃ~ん?」


 思わずクリスとクリスの飼い主のことを思い浮かべてしまった。嬉しそうにしない私を見て不思議に思ったのかクリスが箱からトンっと降りると、私に元にやってきた。そうして、器用に後ろ足で立ち上がり、私の顔を覗き込もうと私の足で前足を支えて精一杯背伸びをしている。


「違うのよ。これを用意してくれたのは、クリスのお家の方でしょう?その方はクリスと言葉を交わすことができるのではないかと思って、とても羨ましくなってしまったのよ。プレゼントはとても嬉しいわ。これを今日の侯爵家の晩餐会に着て行けばいいのね?」


「にゃーん。」


 クリスは私の答えに満足したように一言鳴くと、先ほどクリスが座っていた箱にもう一度座り直してしまった。


 クリスってばその箱気に入っているのかしら?


「アンジェリカ。すごいわ。ここにある箱、どれも晩餐会に着ていくのに相応しいものばかりよ。ドレスや靴にアクセサリーも全て揃っているわ。それに、きっとアンジェリカの分だけではなくて、旦那様や私の分まで揃っているみたいなの。こんなに沢山。どんなにお礼を言っても言い切れないわ。直接会ってお礼を言いたいのだけれども……。」


 お母様はそう言って両手を頬に当てて嬉しいけれども困っているといった複雑な表情を浮かべた。確かにお母様の言う事ももっともだ。


 こんなに高価なものを貰って黙っているわけにもいかない。お礼をしようと思うのは当然のことだろう。しかし、相手はクリスなのだ。どこの誰が送ってきたのかと尋ねても答える術がないだろう。


「クリス。これはどこのお家の方からのプレゼントなのかしら?」


 ダメ元でクリスに聞いてみれば「にゃんっ!」と言う鳴き声が返って来た。それはまるで、「僕が用意したんだよ。」と言っているように聞こえる。


 しかし、クリスがこのような高価なものを用意できるはずがない。だって、クリスは猫なのだから。いくら賢いとは言えクリスは猫でしかないのだ。普通の猫には自分でお金を稼ぐ術もなければ、このようなプレゼントを購入する術もないだろう。


「う~ん。このプレゼントを用意してくれた方にお礼を言いたいの。クリス、その人の元に案内してくれないかしら?」


 そう尋ねれば、クリスは「にゃん?」と不思議そうな表情をした。それからすぐにクリスは何かに気づいたように顔を持ち上げると、箱の上で「にゃぁああん。」と一際大きく鳴いた。それはまるで私にその箱を開けて欲しいと訴えているようだった。


 でも、私が箱を開けるよりも早くクリスは箱から飛び降りると私の家から出て行ってしまった。そしてあっという間にクリスの姿が視界から消えてしまう。


 空は茜色に染まっていた。


 


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