耳かき「する側」で、ブヒる姫

「じゃあなつめくん、横になって」

「あ、はい」


 俺は今、クラス一の美少女に膝枕してもらっている。他の男子に目撃されたら、殺されることだろう。


「確認なんだけど、ホントにやるの?」

「うんっ」


 活き活きしてるよーっ、音更おとふけさんっ。


「どうしてこうなった?」

「棗くんに、ASMRの気持ちよさを理解してもらうためだよー」


 綿棒が、俺の耳に忍び込む。

 コショコショと、綿棒が耳をかきわける。


「どう?」

「くすぐったい。でも、痛くないからいいかも」

「それだけ?」

「うん」


 引き続き、耳かきが行われる。

 痛くない所を探し、身をよじらせた。


「動かないで」

「そう言われても」

「私もあんまり得意じゃないから、動くと危ないよ」


 音更さんが耳垢を出そうとすると、俺は頭を少しひねって逃げてしまう。


「あれ? 私ヘタ?」

「そうでもないけど」

「でも、逃げちゃうねぇ。ううーん」


 どうも、音更さんは釈然としない様子だ。


「ひょっとして、耳掃除してもらうの、苦手だったりする」

 俺は「うん」と、肯定した。

「怖い方が勝ってる」

「そっかー」

「人に耳掃除してもらうのが、そもそも得意じゃない」


 原因は、母親である。

 俺の母は、とにかく耳掃除がキツかった。耳を痛めるんじゃないかというくらい、奥の方まで突き刺す。


「耳から血が出たこともあってなぁ」


 それ以来、やってもらうのはよそうと、自分で耳掃除をするようになった。


「人にやってもらうのに、慣れてないのかぁ」

「そういうわけ」

「じゃあさ、こっちにするか」


 音更さんは、綿棒の使用をあきらめた。代わりに取り出したのは、綿毛の付いた耳かきである。


「ああ、おばあちゃんの家にあるヤツだ」

「これね、梵天ぼんてんって言うんだよ。これでくすぐられると、気持ちいいんだから」


 ウズウズして、音更さんは俺にその梵天を入れたがっていた。


「わかった。やってみはううううう」

 耳に羽毛がはいった瞬間、変な声が出た。


「んんんんんん!」


 なんで、音更さんの方が悶えてるの?


「気持ちよかった?」

「ああ。なんとなんんんんっ」


 梵天で耳の穴を擦られ、さらに頭がフワフワするような快感に襲われた。


「ああっ! たまんない!」


 またしても、音更さんが興奮した。


「梵天を耳に入れてもらうために、生まれてきたみたい! いやきっとそう! 棗くんは神ってる! もう耳かき神!」


 耳かきで降臨する神って……。


 でも、天にも昇る気持ちなのは確かだ。


「なんで、変な声が?」

「梵天の毛先でくすぐっている所が、性感帯らしいよ」

「マジかよ」


 すごいところにあるんだな、性感帯って。


「その部分を梵天でファサッとすると」

「あう、それヤバい!」


 オレは思わず、音更さんに抱きついてしまった。


「ちょっと、さっきからうるさ……えっ!」


 別の文化部の女子が、突然ここに入ってきた。ASMR部が騒がしいから、文句を言いに来たのだろう。


「あ」

 音更さんも、青くなっている。


 ヤバくなってきた。

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