第11話 皇子と侵略の協力

「何故、何処でそのことを知って?」


 さすがに先ほどとは違い直ぐに皇子は反応した。まあ、本来なら現段階で外に漏れるような情報ではないから驚くのは無理ないと思うけど、もう少し感情を表に出ないようにしないと皇族としてやっていけないのではないかしら。その辺もまだ経験値不足ってことなのかもしれないけどね。


「知っているのかわからないのだが、この基地は最近あまり良い噂が無いベルテンス王国との国境を警備する名目で一月ほど前に作られた場所です。表向きは国境警備、しかし本来の目的は貴方が言ったように、ベルテンス王国へ侵略するための前線基地として作られました」


 うーん。私が侵略するためにここがあるって言ってから部屋の空気が重い。いや、機密情報が漏れていたってことと、侵略する側の公爵令嬢がそれを知っていたってことで警戒心が最大になっているからだろうけど、この空気は結構きつい。


「しかし、何処から情報が漏れたのか。もっとしっかりと管理しなければいけませんね」


 うん、まあ。その必要は無いのだけどね? ゲームの内容から知っていただけで、情報が漏れたとかではないのだけど、言ったところで信じてもらえないだろうけど。


「まあ、それは今更かな。それでどのような要件があるのか聞きたいのだけど」

「ええ、それは…」

「ああ、すいません。こちら公爵様から皇子への文でございます」


 私が要件を言おうとしたのを遮って、御者もといディレンが皇子へ密書的な物を渡した。って、私そんな物があるなんて一切聞いていないのだけど、もしかして公爵からあまり信用されていないのかしら。

 今更だけど、最初に相談した時の姿勢って、元のミリアのあまり出しゃばらない性格から考えたらあり得ないことなのよね。もしかして私がミリアではないことがバレているのかもしれない。いや、その後に何度か会っている時に反応が変わらなかったから、何かしら吹っ切れてその反動でそうなったとでも思っているのかも知れないわ。…そうであって欲しいわね。


「なるほど。近年の理解しがたい王国の動きはグラハルト商国が原因という事か。確かにあの国は色々と黒い噂があるからな。しかしなるほど我が国の噂もこれが原因かもしれないとは」

「おそらくはそうでしょう。あの国は印象操作や情報操作が上手ですから」

「そうようだな」


 この皇子は現在のアルファリム皇国の印象に思うところがあるようね。でも、皇国がその辺りを気にしている何て思っていなかったのだけれど、もしかしてオルセア皇子はその辺りを気にする少数派なのかしら。それなら話が通し易くていいのだけれど、まあ話を進めて行けばわかる事よね。


「それで、本題に入りますね。おそらく先ほど渡したお父様の文にも書かれていたかと思いますが、私たちにベルテンス王国への侵略を助力、いえ手伝わせていただきたいのです」


「こちらとしてはその申し出はとてもありがたい。しかし、そうすることによって貴方たちが得るであろう利点は何でしょうか」

「それは、そうですね。確かにその部分を話す必要がありますか」


 あれ? その辺の話はさっき渡した文に書かれていなかったのかしら? 凄く重要な部分だと思うのだけど、そこは私が説明しなさいと言うことなの? 私、説明するのはあまり得意じゃないのだけど。


「私たちが得る利点ですが、大まかに言えば王国の民を守ることが出来る。と言う一点に尽きます」

「国民を守る? 侵略の手伝いをするのに?」


 まあ、そうよね。自国に対して侵略してくる他国を手助けするなんて、国民にとっては生活を脅かすことを助長しているのと同じだから疑問に思う事に無理はない。


「お父様が渡した文にどこまで書かれていたかを私は把握していませんのでどこから話せばいいのか悩みますが、大まかに言いますと現在ベルテンス王国はグラハルト商国から侵略を受けています」

「ああ、それはこれにも書かれていたね」


 オルセア皇子はそう言って先ほど渡した文を小さく掲げた。あれ、まだ持っていたのか。机に置くなり、他の人に渡せばいいと思うのだけれど。あ、でも密書扱いだから下手に他の人に渡すとかは出来ないのかも。


「ええ、それでその侵略の進み具合がかなり進んだ状態です。既にほとんどの王族がグラハルト側に回ってしまっています。おそらく後1年もしない内に完全に侵略されてしまうでしょう」

「それは急いで対策を建てなければならないな。しかし、それがどのしてこちらに協力するという話になるんだい? それに国民を守ると言う話にも繋がらないのだけど」


 これはあくまで王国の現状だ。繋がらないのは当たり前でしょう。最大の問題はこの次のことなのだから。


「問題はグラハルト商国が奴隷推奨国であることです。もし、グラハルト商国の侵略が成功してしまうと、国民すべてが奴隷として扱われてしまう可能性が高いのです」

「ああなるほど。確かグラハルト商国は表向きには奴隷を推奨していないが、実状は奴隷を多用している。しかも劣悪な環境で使役されているという話も聞くこともあるな。あまり多くの情報が入ってこないからどこまで信頼して良いのかはわからないけど」


 うん。これがどうしてもグラハルト商国に完全な侵略を許してはいけない理由だ。


 そもそもこんな詳しい理由はゲームでは出ていなかった。では何でこの事を私が知っているかと言うのは、この体の持ち主であるミリアが頑張って調べ上げていたから。ミリアは父親の公爵や他の貴族とは違い第2王子の婚約者だったため王城内に入ることが出来た。だからそこで王政がおかしいことを一早く知ってその原因を探していたようだ。そしてこの情報に辿り着いたという事らしい。それもあの夜会があった少し前にね。


「ですから、グラハルト商国に侵略される前にアルファリム皇国がベルテンス王国に侵略して欲しい。それが私たちが協力する理由であり、私の願いです」

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