第9話 碧とミリア・前線基地へ到着


 さらに馬車が進む。そろそろ山道の頂上に着きそうな感じだ。

 私は馬車に揺られながらこの体の本来の持ち主であるミリアのこと考える。最初は夢だと思っていたけど、さすがにもう夢ではないことは理解している。

 公爵と初めて会話した時にも少し考えたけど、今明確にある意思は私である箕真門 碧の物だと考えている。じゃあ、私がこちらに来る前にあったはずのミリアの意思はどこにあるのか。私の意思に押しつぶされて消えたのか、まだ残っているのかが良くわからない。ただ、一つ言えることはこの体はミリア・レフォンザムが体験し積み重ねてきたことを覚えているという事だ。

 盗賊の時もそうだけど、碧は武術の経験なんて一切ないし運動神経はお世辞にも良いとは言えなかった。それにも拘らず盗賊の腕を躱して、合気道みたいに相手の力を使って無力化したのはミリアの積み重ねによるものだと思う。そうでないとあの動きは説明できないし、納得も出来ない。

 それに身体能力だけでなく、知識面もミリアの面影を感じることが出来る。碧には貴族のマナーなんてものは一切わからないはずなのに、何の注意もされないほどに様になった所作が出来るなんて普通はおかしい。話し方もそう。たまに碧の話し方になっている時があるけど、基本的には貴族が使うような言い回しなんかもすらすら出て来る。


 こんな感じだから最初から私だった説は無い。いや、そもそも最初からそんな説は無かったね。

 おそらく私とミリアが入れ替わった説は無い。その場合、身体能力はまだしも知識面での入れ替わりも起きているはずだから。

 1番可能性があるのは精神的に弱っていたミリアの中に碧が入り込んだ説ね。これなら知識面での共有は可能なはずだ。問題は本来なら主導権を握るはずのミリアが殆ど出てこないこと。

 これは精神的に弱っている時に元から我が強いと言われていた碧が入って来たことにより主導権が逆転してしまったという事なのかもしれない。変な言い方だけど、一応精神統一的な物をしてミリアの意思を探った感じちゃんとあるのは確認できた。ただ、婚約破棄の件もあってかなり弱っている感じだった。


 ミリアはもともとそんなに自己主張するような子ではなかったようだ。しかも、早くに母親を亡くした影響で精神的にもそんなに強い感じではないらしく、苛めとかにとても弱い感じだ。

 尽くす女と言えば聞こえはいいけど、それは場合によって主体性が無いとも取れる訳だ。記憶を思い出す限り、ミリアはそんな子だったようだ。

しかも、どうやら私がこの体に移る前から苛めにあっていたらしく精神的にかなり弱っていたことも分かった。だから、碧の意思が主導権を握れたという事だろう。


 正直、苛めの記憶は不愉快この上ないので、クーデターを起こす際にでも苛めを主導した者にお礼参りにでも行こうかと思う。



 山道の頂上を越えた。さあ、次は下り坂だと思っていたら、待っていたのは平野だった。要するにこの道は山道ではなく、丘の上に行き来するための道だった訳だ。


 道の向こうには既に前線基地と思われるキャンプ地が見えている。後はあそこに行って、皇子に会えれば最初のミッションはクリアとなる。

 ただ、当たり前だけど皇子ともなれば国の重要人物なのは当たり前。簡単に会える訳がない。いや、そもそも前線基地の中に入れるかどうかも怪しいのでは?

 行き当たりばったりな気もするけど、時間が無い以上前に進まなければならないので仕方ないとしておこう。


 前線基地は検問としても機能しているようだ。ベルテンス王国を出た後に通過した検問に比べてかなり厳重な警戒態勢を取っていることが印象的ではあるけど、国境付近の検問所である以上本来はこれぐらいが普通だと思うのよね。

 検問所の順番が回って来た。まあ、回って来たと言うより、担当の兵士が来るまで待機していただけなのだけれど。そもそも、ベルテンス王国からアルファリム皇国に入っている者が少ないから、検問担当の兵士が常駐していないようだ。

 検問の対応は御者に任せてある。と言うか公爵にそうするよう求められたので私はこの間は口を出すことは無い。


 検問所の通過が許可された。馬車は検問所を通過し前線基地の場所置き場に向かう。この前線基地はどうやら元からあった小さな集落を基地として活用しているようだ。

 おそらく昔はベルテンス王国から来た者たちの停泊所も貸せていたのだろう。ただ、最近はベルテンス王国からこの集落に来るものはめっきり減ってしまっているだろうから、収入を得るために兵士たちを誘致したのかもしれない。いや、それを見越して兵士が話を持ち掛けたのかも。うん、その方が現実的かもしれない。


 さすがに集落のエリアと基地のエリアは柵で分断されている。基地には武器などの危険物があるだろうし、集落の子供が間違って入ってしまったら大変なことになる。集落の人もそれは理解しているのか、不満があるような感情は見えない。


 私たちは、御者がどう話を付けたのかはわからないけど、先ほど検問を担当していた兵士がこの集落にある唯一の宿屋の場所まで案内された。誰も部屋を借りている人はいないようなので実質貸し切りなのだけど、重要なのはこの後のこと。

 そう。ようやく目当てのオルセア・アルファリムに会うことになるのだ。


 ここまで流れるように進んでいるのだけど、御者はどうやってここまで話を通しているのか気になる所ね。いくら公爵家とはいえ伝手だけでは簡単に王族、もとい皇族に会える訳がないのだから何かあるのでしょうけど。

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