大会の日の朝

 次の日の朝。


「…………」

「…………」


 魔術大会が行われるコロシアムに行く前に、ミネアの魔法特訓をやっていた。今日はアイリスもやりたいと言い出したので二人が、魔石に魔力を込めている。


 アイリスはミネアとは逆で魔力量こそ少ないが、魔力の扱いがずば抜けて上手い。

 その証拠に


「はぁー……もう無理……」


 魔力量が圧倒的に多いはずのミネアの方が、先にダウンしてしまう程だ。

 それから時間が経って


「もう、無理……です」


 そうやって地面に倒れ込んだ。魔力が無くなるとこうやって倒れ込むため座ってやる様にしている。


「アイリス凄いね! 私より全然長いよ」

「そうですか?」

「ああ。普通に誇ってもいいレベルだぞ」


 キョトンとしているアイリスに褒め言葉をかける。


「それなら良かったです!」


 アイリスは嬉しそうに微笑んでそう言った。

 アイリスがもっと鍛えれば魔力の扱いは負けてしまいそうだな。

 俺ももっと頑張らないと。


 二人を見てドンドンやる気が出てくる。これが相乗効果というやつなのだろう。


「大丈夫か? もうすぐコロシアムに向かうが……」

「もう少しだけ」

「待ってください……」

「そうだな。一時間後ここにもう一回集合するか。色々身支度もあるだろうし」

「賛成です……」

「私も」


 二人の許可が得られたところで、俺は一度この場を後にした。

 今はあそこに俺がいたら邪魔だろうしな。

 魔法の特訓をするために二人はラフな格好をしている上に、特訓が終わると汗が滝の様に出てくる。


 だからずっとあそこに居ても目のやり場に困るだけだ。


 それに、俺はこの街を色々調べたかったし。


 そんな事を頭で言い訳しながら、街の大通りへと出向いた。


「おお……」


 大通りに着くとまだ朝早いのにとても賑わっており、思わず声を上げてしまった。


 見たこともない様なものが売っていたり、興味がそそられたが、俺は向かう場所が決まっていた為、店が目に入らない様にして向かった。


「ここか……」


 大通りを通って奥の小道を通り抜けると、目的の場所に着いた。


「魔道具販売店。フェアリーショップ」


 ゼクト帝国に来たら絶対に行きたいと思っていた店の一つだ。

 ゼクト帝国の魔道具はトップレベルの水準と言われている為、フェルナンド王国では売っていない様な物があるという噂がある。


「お邪魔しまーす……」


 民家の様な佇まいだった為少しだけ入るのが躊躇われたが、好奇心には勝てず早速中に入った。


 中にはアイテム袋の様な有名な物から、見たこともない様な物まで多種多様なものが売っていた。

 その奥ではこの店の店主であろうおばあちゃんが座っていた。


「すみませんか。ちょっと探し物があって来たんですけど……」

「はいはい、何をお求めで」


 話しかけると朗らかな表情で応対してきた。


「回復能力が上がる杖を探しにきたんですけど……」


 アイリスはあくまで身体強化中心らしいので、回復魔法は俺が担当する事になったのだ。

 そのために杖を買って気持ちを高めないとな。


「ああ、それなら此処にありますよ」


 そう言って奥の倉庫から片手で持てるくらいの小さな杖を持ってきた。


「小さく軽いので持っていても邪魔にならない。それに加えて、術者に合わせて強くなるという杖のレベルも上がる珍しい代物じゃ」

「おおー……」


 おばあちゃんがそう説明した杖を持ってみると、小鳥の羽を持っているかの様に軽かった。


「これはいくらで?」

「金貨十枚ですな」

「そうですか……」


 これほど性能がいいんだし、高いのは覚悟してたけど金貨十枚か……。

 今の貯金は金貨十五枚。悩みどころだ。


 そして、少しの間悩んだ結果。


「どうしますかな?」

「そうですね……。買わせてもらいます」


 買う事にした。あったら絶対に役に立つだろうし値段分の働きをしてくれるだろう、そう思ったからだ。

 これはいい買い物をしたと思っていると、店の扉を開ける音がした。


「おばちゃん! あの杖買いに来たよ!」


 赤髪ツインテールを揺らしながら一人の女の子が店に入ってきた。

 背中には体と同じくらいの大きさを持った杖を掛けていた。


「すまないねーエミー。丁度今、売れてしまったんだよ」

「も、もしかしてこの人に?」


 エミーと呼ばれた人物はその場に倒れ込む様に、落胆していた。


「…………」


 エミーは今にも泣き出しそうな様子で、その場に座り込んでいた。

 ここまで落ち込まれたら流石に持って帰れるわけないよな……。


「そ、そこまで欲しいなら譲るけど。別に今欲しいわけじゃないから」

「本当!」


 俺が譲ると言った瞬間、急に立ち上がって嬉しそうな様子でこちらを見てくる。


「もう返して欲しいって言っても絶対に返さないんだからね!」

「あ、ああ。そりゃあもちろん。男に二言はないよ」


 父からも女性が困っていたら助けろという事を言われてたしな。後から返せなんて卑怯なことは言うつもりはない。


「絶対だからね!」

「分かってる」


 エミーはもう一度俺に注意をした後、金貨十枚を店に置くと杖を持って店を出て行った。それも凄い速さで。


 今の出来事は気のせいなんじゃと思うくらいの一瞬の出来事だった。


「本当に良かったのかい?」

「ええ。あの子、エミーでしたっけ。エミーは今すぐにでも欲しそうでしたし」

「あんたがいいならいいんだけどね。あ、後あの子の本名はエミリーゼよ。私は略して呼んでるだけだよ」


「そうなんですね。また会う機会があったら色々話してみます」

「それが良いよ。あの子は仲のいい子が居ないみたいだし、その時は仲良くしてやってね」

「もちろんです」


 おばあちゃんとそうやりとりをした後、俺は店を後にした。

 結局何も買わなかったが、まあ大会は負けることはないだろう。


 俺はそう考えながら、少し早いがミネア達との待ち合わせの場所へ向かう事にした。

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