王宮魔術師という身分主義の世界から追放されたので、実力主義の魔導士ギルドに入ろうと思う〜俺が辞めたら王宮は大忙し、だが俺にはもう関係ない〜

鳴子

王宮からの追放

「マリウス・ダーネルスト。お前はもういらん。この城から出ていけ」


 現国王フェルナンド様に言われた言葉に俺は思わず首を傾げてしまった。


 フェルナンド王国は完璧な身分制度が作られている。

 上は王族、下は奴隷までという最も身分格差が激しい国と呼ばれている。


 そんな国でも俺は魔法部隊の一部隊の隊長の長男というマシな身分に生まれたと、そう思っていた。


 しかし蓋を開けてみると違っていた。


 貴族の中でも最底辺レベルの身分なのに対して、貴族社会で過ごすことを強制されどこへ行ってもいじめられる毎日だった。


「こいつの親、魔法部隊の隊長なんだってよ」

「何でそんなのが貴族の仲間入りしてんだよな」

「俺みたいに伯爵家になってから出直してこいよな」


 そんな風に悪口を吐かれ殴られと、良い思いはした事がなかった。


 しかし、俺は運が良く魔法の才能があった。だからこそめげずに努力し続けて王宮魔術師という高い位をもらうことができた。


 なのに。




「ダーネルスト家という底辺貴族がこんな場所にいること自体が場違いだったんだよ」


 国王陛下と横に立っている宰相は俺を蔑むような目で見ていた。


「どうしてですか! 追放されるほどの事をやった覚えはありません!」

「この国は身分が全てという事を知らないのか?」

「それは……」


 横に居るグレース宰相にそう口を挟まれた。

 誰よりも痛いほど知っている。少なくともこの城にいる中では誰よりも絶対に。

 言葉を失っている時に陛下は続け様に口を開いた。


「王宮魔術師になったとはいえ仕事も真面目にやっていないだろ。息子からちゃんと入ってくるのだぞ」

「ちゃんと仕事はやっていたつもりです!」

「ならば陛下の息子が嘘をついているとでも言うのですか?」

「…………」


 そんなの肯定出来るはずが無いだろう。


 親のコネで入って実力が全く無い息子だとしても、嘘をついていると言ったら俺が捕まるのが目に見えている。


「とにかくお前はもう用済みだ。さっさとこの国から消えろ」

「しかし——」

「お前の家族がどうなっても良いのか?」

「そ、それは……」


 陛下と宰相は不敵な笑みを浮かべながらこちらを見ている。

 俺が家族を一番に思っているのを知っているから……。


「……分かりました。ここから出て行きます」


 頷くしかなかった。俺のわがままで親や妹に迷惑をかけるわけにはいかない。


「それで良いのだ」

「最後に一つだけ」

「何だ」


 俺はこの国の今の状況を伝えてやろうと思った。


 もし現状を知ったなら、もっと家族に良い待遇をしてくれるだろうと言う、淡い期待を持ったからだ。


「ここの王宮魔術師は良い人材がいない。陛下はいずれ後悔すると思いますよ」

「何を言っているんだ。寝言なら寝てから言うんだな」

「失礼します」


 陛下の言葉を聞いた後、深々と頭を下げて王室を後にした。


 部屋に出た後、王室からは俺を嘲笑うような二人の大きな笑い声が聞こえた。

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