第4話 拉致は遠足に入りますか?
「あー……やっぱり? だよなあ。あんがと
通話を切って、
「んぬぅ。とめき先輩そろそろ下ろしてくれませんか。ていうか今日が練習場ぜんぶ整備で部活休みってよく知ってましたね」
「え、そなの? 知らんかったわ」
「部活あっても連れ去るつもりだったんですか!? 学力特待生の勉強禁止するのと同じですよそれ!? もしくはカメレオンに体色変化するなって言うようなものです!」
「生きる
一年生の教室が集まる階ではいつも向けられる冷たい視線が少なくて行動が楽だ。新年度が始まって早二か月が過ぎようとしているが、まだ十碼岐の悪評を知らない生徒も多いらしい。誰にもガンを飛ばされることなく目的地に着く。
帰って自主連に励もうと教室を出た
「ヤバめのストーカーがって言ったのお前だろうが。そゆのは早めに対処すんのがいいの。つっても
「じゃあこの写真はどう説明するんですか」
ようやく地に足付いた
遠くから撮ったらしき画質の荒いバストアップ。角度からして確実に隠し撮りである。
しかも
確かに異常な執着のようなものが感じられる。しかし、
「証拠がこれだけじゃあな。
「それは……ごめんなさい」
「ちょい状況を整理しようぜ。昨日そのストーカーいたっぽいのがここだな?」
「はい。ちょうどここです。わたしがあっちの木陰に隠れて
「ふーん」
南校舎の外れだった。
「どうですか座り心地は」
「狭さがいい。背中側が校舎になってんのも硬い壁があって安心できる。なんかガキの頃に作った隠れ場みてえ。やべっ、このまま寝れる」
「えっ、ちょっと気になるかも。代わってください」
「そう言われると断固譲りたくなくなるんだよなあ」
「ひねくれ者! ……じゃなくて。ストーカー的にはどうなんですか」
「ああ、視界は意外と良好だ。それに比べて向こう側からはこっちの姿が全く見えねえ。隠れて誰かを見張るには良ポジだな。メモっとこう」
ここの茂みだけ偵察に向いた密度なのだろう。低木の葉の隙間から辺りを観察できる。
ここにいた誰かは、写真にバツを入れながら
「さあて、状況は分かったが、その誰かの素性が分からねえとなあ。他に目撃者いないのか?」
「うーん……」
腰を上げ尻の砂をはらいつつ尋ねると、
「あ、思い出した」
そして校舎を指差す。正確には、外に面した廊下を。
「ちょうど振り向いた時、この茂みより先に窓のほうを見たんです。その時に目が合った人がいました。その人だったら、ここにいた誰かを見ているかもしれません」
◇ ◆ ◇
ストーカーの目撃者を探して
どこの学校も終わる時間だが、車での送迎が主な
「本当にそいつだったんだな?」
念を押すように問うと、
「はい、見覚えあると思ったら、たぶんうちの群棟に住んでる人です」
ゆえにほとんどの一般生が郡島アパートの世話になっていたはずだ。
「ここから走って十五分くらいなんですけど」
「それはお前だけな。校門から五キロは離れてっから。三十分はかかっから。お前本当に人類?」
「普通ですよ。道をショートカットしながら走っているので」
「空間跳躍?」
「ではなく。こう例えば、壁を蹴って上の道に出たり」
言いながらひょいと身を翻し、あっという間に上方三メートルほどの位置にある窓枠に飛び乗ってしまった。見上げる
「やっぱ猿じゃねえか! 霊長類には違いねえけど」
あの絶対に中の見えないスカートはいったいどうなっているのか。
「そんな道を毎日のトレーニングに使うのはわたしぐらいなので」
「
「はーい。逆に言えばっ、とぉ。他の生徒さんがたはこの最寄りバス停までのルートを張ってれば絶対会えます!」
素直に目の前に降って来たので
「名前か部屋番知ってりゃ早いんだけどな」
ため息をつくと、ツボ押しにくすぐったそうにしていた
「ごめんなさい。登下校の時にちょっと見かけたことあるくらいで、そこまでは……」
「おうおう役に立たねえなあ。もうちょいパシリとしての価値を見せてくれねえと
「知りたくないような知りたいような。ていうか、とめき先輩が
「そうか? ああいう奴らはとにかく対象の情報をえげつなく集めるだろお? つまり
「うわっ、兄弟愛かと思ったら私欲でした」
「愛より欲が強えなんて高校生にもなりゃ誰でも分かるだろ。何回
鐘を突くくらいせねば消せないのが煩悩であり欲である。
「兄弟ならストーカーが持ってるくらいの弱味はすでに握っているのでは? おねしょ歴とか」
「や、実は知らねえんだわ」
「うずいたわたしの好奇心の行き場!」
「オレらは学校以外じゃあんま顔合わせねえからな」
「? ……どうして──」
「おい、あいつじゃねえか?」
肩をすぼめた少年が歩いてくる。甘いものが好きなのか、ソフトクリームを乗せたドリンクを片手に持っていた。だが顔立ちや服装に特徴はない。
「あ、確かにあの人です。あの冷たい色彩、まろやかなフォルム、そして輝かしい光沢。間違いなくあのメガネです」
「無機物だけで人を判断するんじゃねえよ。まあ違ったらそん時だな。んじゃちょっくらお話聞こうねえ」
楽しげに猫なで声を出す
「その縄で何する気ですか!?」
「やだなあ。お話しやすくする小道具だって。なかなか口開かねえ奴でも逆さに縛りあげりゃあ一発だからあ。効率重視してこ?」
「確かに効率は大事ですね! ……って、待て待て待て、やっぱり駄目でしょう。暴力はコミュニケーションに入りませんよ!?」
「んなバナナはおやつに入りませんよみたいに言われてもなあ」
「えっ、入らないんですか? うちの先生は入るって言ってました」
「どっちでもいいだろ。おやつだと言われても、デザート枠で弁当に仕込む抜け道があんだから。相容れなさそうなもんでも工夫しだいだ。つまり暴力も言語文化に馴染むって」
「
没収した縄に視線を落とし
「ところで
「もしかしなくても爬虫類好きだろお前」
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