形のない、名前のない感情が、真夜中、雪に融けた。

 雪のちらつく北の大地の街並みの中で、久しぶりに再会し、旧交を温める若い男女。アルコールも手伝って、他愛のない会話に花が咲く。そして、日付も変わった夜更け、彼と彼女は、酔い覚ましにと白く染まった広い大学構内を歩いていく。二人きりで。

 男女の友情というのは、そもそも成立しないと考えている人も多い。どちらか一方あるいは両方が、それ以上の感情を隠しているからこそ、成り立っていることも多々あるのだろう。
 それらは、いずれも血の通った親密な関係でありながら、「友情」なんて言葉ひとつで括れるものでは、本来、ないのだろうと思う。きっと、すべてが、異なる形をしているはずなのだから。

 真夜中の散歩の末に、彼と彼女は、二人の間の名前のない感情に向き合う。そして、一つの答えを見出す。音もなく降り積もる雪の中、『世界が止まっているかのよう』な印象に残る情景の中で語られる『今日俺らが一緒に会うことになった』理由は、まるで、自分自身に言い聞かせているかのようにも感じられる。

 軽やかで臨場感がある会話と語り口で、すっと場面に入っていける作者の筆致はどの作品においても魅力的だが、特にこの作品においては、最後まで読んでからもう一度頭から読み返してみて、二人の仕草の端々に注目してみると面白いだろう。
 待ち合わせに本当に先に来ていたのはどちらだったのか。相手に恋人がいるかどうか質問したときの互いの思考。「何も起こらなかった夜」を誰にも話さなかったこと。彼女が手帳を書き間違えた理由と、そのことを質問した意味。
 細かい積み重ねを意識したうえで、再びポプラ並木までたどり着いた時、二人の選んだ選択への感慨はより深まることだろう。