2章-5

それから俺は自分のこと、世界のことを含め、いろんな事を先に話した。

世界樹の話はユレーナが小さい頃読んだ絵本の内容を覚えていたので任せた。

元が絵本なだけあって、横で聞いていて内容はわかりやすかった。

そして子供達にどう理解したか聞いてみると、

偉大なる魔法使いヨウ様は世界樹再生を目指し、自分達はその子分、という事だそうだ。 

大筋は間違っていないだけに訂正し辛い。


仕事は楽して稼ごうとするのではなく、給金が少なくても、無理をせず確実で安全な仕事をするように言いつけた。

狙いはそこで得られる情報だからだ。

ちなみに働き口が無くても街をブラブラするようにとも言っておいた。

ネットで見た、情報こそ全て、の実践である。

ほんとに何が糸口になるか分からないから、色んな情報が必要なんだよね。

あとは…


「モクロ、君にだけ別の任務が有るんだけど、やる気はある?」


「あったり前だ!何やらされるかわかんねーけどオイラは役に立つって決めたからな!」


「そうか、ありがとう。君の目が必要なんだ。街で過ごして、俺みたいに光っている人や物、食べ物でも道端の草でもいい。とにかく光っているものがないか、確かめてくれないか?」


「ヨウ様みたいに光っているものを探せばいいんだな?わかった!任せろ!」


そう、俺は確かめたかった。

世界樹はもちろん、俺や精霊はマナを放出しているが、他にはないのか。

シルが知らないだけで、何かあるのではないか。

俺はマナは出せても見る事は出来ない。

ユレーナは俺の護衛で忙しいし、今の所モクロしか頼れないのだ。


これで伝えるべきことは伝えたので、みんなでご飯を食べにいった。

質素な物だがお腹一杯になるまで食べさせた。

まとめ役であるモクロにお金を渡して、俺がいない間の食事をまかせる。

あ、リリアに無駄遣いしないよう見張っててねって言ったら、すごく嬉しそうにまかせて!って胸をドーンとたたいた。


別れ際に、しばらくここに来れない事を伝えた。王都に行くためだ。

さっきとは一転、リリアの表情が曇り、今にも泣き出しそうな顔になってしまった。


「王都で拠点が出来たらまた来るからね。それまでしっかり仕事して待ってて。情報期待してるよ!」


自分に言い聞かせるためにもはっきりと口にする。

あまり待たせたくはないが、急いでもろくな事にならないだろう。

まずは無事に王都に行きつくように。



まだ時間は早いが、キールへ帰ってきた。

ユレーナがハンターギルドに用事があるという。

なんでも長期間不在にする時は申告しなければいけないとか。

面倒だけど、前みたいな討伐隊を編成するのに、いない人を数に入れたんじゃダメだもんね。

見覚えのある狼と剣のレリーフが彫られた看板を仰ぎ見た。

自分には縁はなく、通り過ぎるしかなかった所にようやく入る事が出来る。

ギルドとかすっごい楽しみなんですけど!

分かってる、ユレーナのオマケなのは百も承知だ。

それでも入ってみたかったの!

きっとアレがある。


ひどく重そうな扉を開けたユレーナのに続いて建物に入る。

この扉すら開けられない奴にハンターになる資格はない、とでも言わんばかりだ。

ま、俺はオマケですよっと。


中に入るとゴツい男がこちらを睨んできた。

思わずちびりそうになるが、ユレーナの陰に隠れて視線をかわす。

そして目当ての掲示板を探した。

そう、いわゆる依頼ボードを探しているのだ。

なぜかって?

採集依頼を見てみたかったの!

どんな植物があって、どんな植物が求められているのか、興味が尽きることはない。

今はお金ないけど、今後採集を依頼するかもしれない。

そのための下見だよ、下見!


しかし掲示板が見当たらない。

え?嘘でしょ?クエストとかあるんじゃないの?

しばし呆然としてユレーナから離れてしまったのがいけなかったらしい、絡まれた。


「おう、爺さん。ここは老いぼれの来るところじゃねぇんだよ。ちょっとでも長生きしたいなら早くここから出て行きな!」


「あわわわっ、おれ、いや、ワシは、ただ、そのっ」


「訳わかんねえ事言いやがって、俺が外まで連れてってやるよ。」


気がついたら胸ぐらを掴まれていた。

そのまま後ろに引きずられていく。

苦しい…ちょっと浮いてるし息が…

なんとかユレーナを呼ぼうとするが、首が締まっていてうまく声が出せない。

しかし引きずられた体がぴたっと止まる。

あれ?

恐る恐る目を開けると、男のクビに剣が当てられている。


「その汚い手を今すぐ離さんと、この首切り落とすぞ。」


恐ろしいオーラを纏った低い声で、ユレーナの声が男の後ろから聞こえた。

助かった!

と思ったが、なかなか手を離さない男。

うしろを振り向き、ユレーナを見るや急にいやらしい顔つきになった。


「なんだ?嬢ちゃんのいい人か?ガッハッハ!こんな老いぼれより俺の方がいいぜ、色々な!」


俺は投げられた。

比喩とかじゃなく、普通に投げられた。

すぐにユレーナが跳ねるように近づき、俺の事を抱き留めた。

今度こそ助かった!怖かったよー!

心臓がバクバクして吐きそうになったけどなんとか堪える。


「ヨウ様、少しお待ちください。あの不届き者に鉄槌を。」


そう言うと、ユレーナはくるりと男の方に向き直った。

男はニヤニヤしてユレーナの値踏みをしているように見える。

大嫌いだ、ああいう目。


ゆらりとユレーナが揺れたと思ったら、すでに男の懐に飛び込んでいた。

そこから繰り出された跳び膝蹴りは、見事男の顎を砕き、KOした。

ユレーナ無双。ナニコレ?


今度はユレーナにぴったりと付いて奥のカウンターへ進む。


「ユレーナお疲れ様。あいつ、Dランクのくせにあたしを口説こうとしたり、下のランクの人に嫌がらせするからそろそろお仕置きしようかと思ってたところだったの。そちらのお爺さん、面倒に巻き込んじゃってごめんなさいね。」


「いや、あの程度どうということはない。」


精一杯虚勢を張ってみる。

だって受付嬢きれいなんだもの!ウィンクもされちゃったし!

ぽーっと見惚れているとユレーナが声を上げる。


「デンリー、ヨウ様に色目を使うんじゃない!」


「あら、ほんとにユレーナのいい人だったの?」


「そ、そういうのではない!私などでは恐れ多いということだ!」


顔を赤くして反論している。

うん、爺さん相手に恋人疑惑はないよね。

怒るのも無理はない、デンリーさんが悪い。


「それよりさっきの話の続きだ。しばらくキールを離れるからそれの申告にきた。」


「ほんとに離れるの?王都に行くんでしょ?何でまた王都なんかに。」


あまり詳しくは言えないので、ユレーナはうまくごまかしてくれた。

魔法が絡んでないと優秀なんだよなー。

ちなみにおれは単なる置物と化している。

入っていける話じゃないしね。


「でも王都に行けるのはうらやましいね。美味しいスイーツも一杯あるんだろうし!…ねぇ!あたしも行っていい?休み取るから!」


「遊びに行くんじゃないんだ!まったく、宿賃ですら不安があるのに贅沢してられるか。」


「え?宿なんかいらないじゃない」


「え?」


「え?」


「いや日帰りするわけじゃなし、王都に滞在するんだぞ?しかも結構な日数だ。宿以外に泊まる所などないだろう」


「言ってなかったっけ?Bランク以上は街から家が無償で貸与されるのよ?でもユレーナの場合、実家があるから使わないでしょ。って、だから言ってなかったのね、ごめんごめん。」


なにそれ知らなかった!

それじゃ、行く所行く所、拠点作り放題じゃん!!


「といってもBランクの家は10人までって規則もあるし、その街のギルドに所属を移す必要もあるからそう便利なものでもないわよ。」 


「王都っていうくらいだからBランクなんて10人以上いるだろう、どうするんだ?」


「決闘ね。」


「あら、シンプル。ヨウ様、王都で拠点が出来そうですよ、やりましたね!」


いやいや、もう勝った気でいるよ!

でも確かに魅力的な制度だよね?

タダで拠点が出来るのはかなり大きい。

世界樹と向き合うんだ、すぐに解決するとは到底思えない。

長期戦は確実だろう。


「あの、横から口を出して申し訳ないが、所属を移す意味を教えてもらえるかの?」


「お爺さんはハンターじゃないから知らないのね。ギルドに所属すると、様々な恩恵を受けられる代わりに、討伐隊なんかの任務のときに徴収される決まりがあるの。所属してなければ強制されないわ。」


「私がこの前参加した討伐隊も強制徴収でしたよ。お陰でBランクに上がれたのでやって良かったのですが。」


おお、そうだったのか!

じゃあ全くデメリットが無いわけではないか。

王都でユレーナが徴収される可能性がある…

先程の明るい展望とは一転、一気に気分が下がる。

見かねたデンリーさんが元気づけてくれる。


「まぁ強制徴収なんて滅多にないわよ。この間は魔物が大量に出たっていうから仕方なかったのよ。この街で強制徴収なんて数十年ぶりのことだったの。」


あ、そんなに頻度低いんだ。よかった。

あとは王都のBランクが10人居ないことを祈るだけだ。

他には特に聞く事はないので、だまって隣にいることにした。

ギルド内でユレーナから離れちゃダメなことはさっき学んだ。

ちなみにさっきの男はまだ伸びている。

誰も助けに行かないあたりお察しである。

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